タイトル未定2026/10/01 02:32
「佐治様良くお聞きください、この細工は長筒と同じ程威力はありますが狙いを定めるは少々難儀致します」
孝江から丁寧に説かれはしたが一間二間ではない隔たりは如何様にもし難く佐治はスナイデル銃の射程百六十間から細工が当て得る射程を引き算すると銃身の先にある出張りを敵に合わせ金具の棒印上にある水鳥印に敵が合う様に鉄砲を傾けた、これで良いのかと思う程に鉄砲の先は天を向き佐治は首を傾げたが孝江を信ずると細工の引金を引いた、細工からは心地の良い音がすると確かに五つ数えた後、敵前方で地面が爆ぜ火の手が上がった、佐治は敵との誤差を改め細工ばかりに用いる弾を込め引金を再度引いた、ぽんと音がして五つ、今度は命中すると十名程を屠った、佐治はこれで勤まると弾を込め皆に合図を出した。
敵は数に勝る油断か古の密集戦術の如く各々の間を詰めこちらに向かってきていた、それはこの細工に都合よくこのままであれば渡された五つの弾でかなりの敵を屠れそうであると。
「今じゃっ」
合図に庄之助、重信、是貞は五つ数え佐治を信じ駆け出した、背後で爆ぜる音はすれどスナイデル銃が咆哮を放つ事はなかった、敵は三度の攻撃で流石に怯むと左右に散り物陰に隠れだしたがその潜む場所には人集りができ佐治は鉄砲を其方へ向けた、五つで潜む場所に溜まる二十名程が散り佐治は最後の弾を放つと己も三名の後を追った、庄之助は童の如く声をあげ一目散に駆け逃げ陣へ舞い戻ると精魂尽き果て装束を全て取り払うと大の字に寝転がり大声をあげた、続き佐治、重信、是貞の三名も戻ると息を切らし柄杓で樽の水を頭から浴びた佐治は息をつくと柄杓に水を汲み庄之助の元へ運びそれを差出した庄之助は手を伸ばし柄杓を取ろうとしたが佐治はその柄杓の水を庄之助の頭に浴びせ掛けてやった。
「ようやった庄之助⋯隊長」
佐治は柄杓を庄之助に投げ渡すと笑いながらその場を後にした。
「そろそろ参りましょうか宗盛様」
箱根の戦はひとまず鎮まりしを見て、孝江は宗盛とともに己が務めを果たさんと、箱根峠へ向かった。




