タイトル未定2026/09/24 01:42
武蔵野の北西に位置する一万五千石程の葛野藩、そこから更に西へ五里程離れた山間にある新高村、夜鷹の郷里である、そこから葛野城城下へ向かう途中に役場のある比較的大きな清井村があり新高村から清井村の途中に賜物が贈られる祠があった普段、訪れる者は殆どいなかったが祠を祀る祭具等は新高村が用意して祠を守っていた、そして戊辰戦争が開戦して三月ほど経過したが賜物は変わらず洞穴へ贈られていた。
孝江と泰夫は村を離れており賜物は孝江の強い願いで宗盛の奥方が先頭に立ち女手だけで然るべき場所へ移送されていた、その移送場所は宗盛はおろか泰夫や夜鷹の者ですら知らされず孝江と奥方だけが心の奥にしまっていた、孝江は奥方に『賜物に文の束があればそれを私の元に届けて下さい』とだけ告げ戦線に向かった。
毎回、賜物に文の束があるとは限らなかったがあれば必ず孝江の元に届いていた、そして孝江はその文に目を通すと必要な物あれば朱墨で丸を付け奥方の元に返信していた、それを受取った奥方は賜物を前線へ移送するのだが当然、それらを前線へ移送するのも奥方と女手で行っていた、道中盗賊の類の襲撃を懸念するのは当然であったが奥方以下皆が武家の出でありそれだけで事足りたが孝江は奥方に人数分の短筒も渡し万全を期し鍛錬を積めば葛野藩程度楽に手中に納める武力を持っていると言っても過言ではなかった、しかし善し悪しはともかく女子がそれに至る事はないと孝江の思惑であった。
「孝江、残弾数が寂しくなってきたぞ」
「そうですね、箱根までの道中受取れる手筈にしましょう、他に不具合はありませんか」
「斎藤様の耳栓が聞こえが悪いそうだ、芦の海に浸かったのが具合が悪かったんだろう」
「そうですね耳栓はまだありますから斎藤様には私から渡しておきます」
「わかった頼んだぞ、あっそれと孝江」
「何でしょう泰夫さん」
「⋯あっ、いや何でもない、あっ箱根は隠れる場所が少ないからなるべく後ろにいてくれよ」
「ありがとうございます、わかりました豆粒に見えるくらい後ろにいますから泰夫さんの方こそご無理のないように」
泰夫は孝江を背後からそっと抱きしめた。




