タイトル未定2026/09/23 08:02
斎藤は敵方の軍服を着込み龕灯を振り番を装って箱根関所陣営へ潜入、爆薬の敷設をおこなっていた、爆薬ひとつは掌にのる大きさで粘土の様に容易に形も変えられた斎藤は泰夫から一緒に渡された煙管の吸い口の如き金具を差し込めばそれでよいとは聞かされたが如何にも信じ難く火の気も要らずこの様な粘土が爆ぜるものかと終始首を捻りつつ敷設を続けていた、泰夫は三町程離れた木の上から遠眼鏡越しに斎藤を追って近付く敵兵を斎藤に告げていた。
「泰夫、五つで足りるのか、海側の番所に二つ山側にひとつ大砲は溜にあるが火薬の置き場はわからん」
「構いません、大砲がなければ火薬はただの砂、手早くお願いします…山側番所から二名…」
「わかった」
斎藤は溜の大砲の前を通り過ぎつつ砲身の中に爆薬を放り込むと番所へ向かった、溜を抜け御門を過ぎると右手に番所、左手にはより大きな番所があった斎藤は左手の番所に指揮官、右手が兵の宿陣と見越していた実際、農兵の類は江戸側の溜に野営しているのが見てとれた斎藤は焦らずあくまで関所を見廻る番として番所へ近付いた、斎藤は左側番所こそ肝であると先に向かうと入り口付近の柱に一個、裏手に回ると更に一個敷設した、途中、別の番と出くわしたが軽く会釈をし難を逃れた日中であればと斎藤は身震いをすると番所と札所の間を抜けもうひとつの番所に向かった、その番所はやはり兵が詰めているのか子の刻を過ぎているにも関わらず歌声や罵声が響いていた、斎藤は残るひとつに金具を差し込むと番所入口の柱の敷石に敷設した、すると突然背後から声を掛けられた。
「夜まわい、ごあんした」
厠に向かう兵が番所から出て斎藤に声を掛けたのだ、しかし斎藤にとって薩摩訛りは異国語でしかなく聞き取ることも叶わず何も言わずに会釈をして去ろうとしたが兵は続けてまた異国語を発した。
「どげんした、何ぞあったとか」
番所の明かりで黒く染まる斎藤の軍服に気付いた兵は斎藤の胸の辺りを触るとその手を匂った。
「こいは血じゃっど」
兵は斎藤の顔を凝視した斎藤も兵の顔を凝視すると右手で兵の肩を掴み左手の小刀で心の臓をひと突き、兵は声を上げようと口を開いていたがその口からは赤黒い液体が滝の如く流れ落ちるだけで兵は事切れると柱に寄り掛かり崩れていった。
「ああ、呑んだ呑んだ、おっ、窪田さんこげん処で潰れちょったら風邪ひっど」
更に出てきた兵が座り込む同輩に声を掛けると同輩の先にある軍服に裸足で草鞋と不釣り合いな足元が見え兵は眼差しをあげた、するとそこには赤く染まる小刀を握る番が立っているではないか。
「おはん、何者じゃ」
きくや否や斎藤は打刀に持ち替え兵を袈裟斬り、一刀に屠った、しかしこの場は刺殺するべきであった、兵は数歩後退すると戸袋に当たりそこを支えに番所内へ倒れ込んだ、遅れて番所から声があがった。
「泰夫、しくじった⋯やむをえん爆破してくれ」
「断りますっ、援護しますから海へ逃げて下さい」
「俺に構うな、いいからやれ」
泰夫は番所から飛び出た二名を狙撃した、それを合図に斎藤は海に向かい駆け出した、海側の番所から三名出てきたがすれ違い様に抜き胴、刀を返し逆袈裟、続けて斎藤は刺突、刀をその者の腹に残したまま三名を瞬殺に屠ると海へ逃げた、背後の番所からは十数名が出てきていたが全て泰夫が処理をした、斎藤は土手を滑り降りると海へ飛び込んだ、流石に春先の水の冷たさに歴戦の手練をも手を焼いたが斎藤は意を決して水中に没した、暗い海中がぱっと明るくなり斎藤は水面を見上げるとそこは紅く染まり爆薬の爆ぜた事を物語っていた、辺りには爆ぜた木片などが降り注ぎ斎藤は更に深く潜り再び暗く静かな世界に戻った事を確かめると水上へ出た。
「斎藤様っ大丈夫ですか」
「大丈夫だ、泰夫それより火を起こしておいてくれ、この時期に水に入るもんじゃないな凍え死にそうだ」




