タイトル未定2026/09/22 04:01
斎藤からの言われ甲府城へ馳せ参じたが大久保は唯呆然と大手門を眺めていた、そこには木扉がなく櫓門だけが残り奥にはその木扉が横たわっていた、大久保は櫓門の敷居に立つと冠木を見上げ、続いて横へ移動すると柱に手を当て上部を見上げた、柱上部には蝶番が役目を終えだらしなくぶら下がっていたが下部の蝶番にはかろうじて残る木扉の一部を後生大事に抱いていた、それを見た大久保の肩は震えだしとうとう大声で笑い出したのだ、背後では忙しなく町民や幕府方の兵が通り過ぎていたが大久保を知らぬ町民は憐れむ様な表情で通り過ぎていた。
「大久保様っ」
大久保を迎えに出た宗盛が声を掛けたが気付いていないのか大久保は暫く笑い続けていた、宗盛はしばらく何も言わず見守っていたがようやく大久保は大きなため息をつくと甲陽鎮撫隊隊長の顔に戻り宗盛の元へ歩み寄った。
「何があった」
「昨晩、夜鷹数名で甲府城掌握致しました」
大久保は事の経緯を詳細に問いたい衝動に駆られていたが敢えてそれを封じると現状を宗盛に聞いた。
「敵方の姿が一切ないようだが」
「弾数も限られておりましたので逃げる者は敢えて追わず、ここに残る敵方は負傷者と亡骸だけで御座います、負傷者に関しては敵味方関係なく二の丸に収容しております、御覧になりますか」
「いや止めておこう、それよりも天守には上がれるのか」
「はっ、階は落ちておりますが上がれます」
宗盛が天守上部を指差すとそこには見慣れた者達の姿があり宗盛は自分の耳を指差すと大久保は慌てて耳栓を取り出しそれをはめた。
「大久保様、お早い御登城で」
「嫌味はやめてくれ」
大久保は頭を掻きながら言うと宗盛は大久保を天守へ誘った。
「なぁ泰夫、俺にもその装束用意してくれないか」
「あっ、構いませんがよろしいので」
出立の準備を急ぐ泰夫に斎藤は余計な手間を増やしていたが泰夫は怨み言ひとつ言わず手を休めそれを準備した、弾除け半纏、腰袋、兜を渡したが髷が崩れると兜は返した、泰夫は最後に腰袋に入れる短筒を慎重に渡しつつ扱い方を指南し庄之助達の持つ鉄砲に手を伸ばしたが斎藤はそれはいいと腰の物をぽんぽんと叩いた。
「では参りましょうか斎藤様、で何処へ」
斎藤は空を見上げると手に持つ枝をを天高く放った、枝はくるくると舞い上がり頂点に達すると斎藤の足元目掛け落ちて来た、斎藤はその枝を暫く眺めると
「辰巳⋯だな」
「⋯易⋯ですか」
泰夫は斎藤に訝しげな表情で聞いたが斎藤は歴戦の感だとだけ告げ二人は大善寺を後にした。




