タイトル未定2026/09/03 15:44
「佐治様、忠太郎様、重信様、それに庄之助、準備が整い次第甲府城へ向かいます」
「俺もゆくぞ」
斎藤が腰に刀を二本押し込み鉢金を巻きながら泰夫に言った、泰夫は斎藤に大久保へ出陣の言伝を頼んでいたがこれが大久保の答えであった。
「では斉藤様もこれを持って頂けますか」
泰夫は斉藤に三尺程の筒を四つ渡した、斎藤は刀より重い物は俺は持たんと拒否するので仕方なく泰夫は二本づつ自分と庄之助で持ち本陣後方にある賜物の積まれた大八車から出立、甲府城へ向かった。
「あっ申し訳ありません」
階上方から降りてくる人物、無論、夜鷹の仲間ではないましてや幕府軍の者でもないのは明らか、しかし夜着姿の無警戒な乾に三郎太は反射的に攻撃より挨拶が突いて出た。
「何やら騒がしいが何事であるか」
三郎太はそのまますれ違うつもりであったが無視する訳にもいかず、かと言って『私の所為で御座います』とも言えずまごまごしていると階下から追っ手が大勢駆け上がってきた。
「乾様っ、その者からお離れ下さい、そ奴めは幕府方の間者で御座います」
乾は三郎太を見た、三郎太は表情を引き攣らせ作り笑顔でそれに答えた乾は間者にしては粗末な身なりとだらしのない表情に顎に手を置き三郎太を舐める様に見定めていた、三郎太は背後から迫る追っ手に堪らず乾の背後に回ると懐から小さい鉄砲を出し乾の首元に当てた。
「こっこっ、こっちに来ないで下さい、うっうっうっ撃ちますよ」
三郎太は威嚇の為天井に向け数発撃った、天井からは天板が一枚落ちてくると追っ手は階下で怯んだ、進めぬ先人と次々に押し寄せる後人に階下には人溜まりができると彼方此方から罵詈雑言が三郎太に向け飛んできた。
「質とは卑怯なり」
「質を取らねば何もできぬのか卑怯者っ」
「乾様に何かあれば貴様は切り刻んで釜茹でにしてやる」
三郎太は震えていた生まれて初めて自分に向けられた憎悪の言葉、もしかすれば猟で狩った鹿の子から同じ事を言われていたかも知れないが三郎太の耳には当然届いてはなかった、しかし今は身が縮む程の罵声が全身に降り注いでいた三郎太は何も策はないが堪らず乾を引き連れ上階に上がって行った。
「さぶちゃん、何やってるのすぐに爆破しなさい」
孝江の強い声が三郎太の耳に飛び込んできた。
「たかちゃーん⋯」
「なに情けない声出してるの⋯あんたまさか」
すると丁度、孝江の元に捕縛されていた幕府兵を引き連れ宗盛が現れた、孝江は大きなため息をつき項垂れた。
「三郎太が敵を引きつけたお陰で難を逃れたは、して三郎太は何処じゃ」
宗盛の問いに孝江は俯き甲府城天守を指差した。




