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タイトル未定2026/09/01 14:20

「泰夫よぉ、その孝江に聞いてみろよ帰ろうぜ、ここはもう良いだろうが」


 斎藤は焚火にあたりながら泰夫に聞いた、パチパチと爆ぜる薪と炎に隠密性は既に失われて数刻が過ぎていた、敵の夜襲もなく此処へ迫る敵影もない斎藤の言う事に一理あるなと泰夫は孝江に連絡を入れた。


「孝江、孝江、聞こえるか」


 斎藤は独り言を始めた泰夫におっと身を乗り出した、しかし孝江からの返答はなく代わりに庄之助が応えてきた。


「庄之助、孝江はどうした」


「たかちゃんなら宗盛様と甲府城へ向かったぞ」


 泰夫はそれを聞くや否や撤収の準備を始めた、斎藤はやっとお役御免ですかと立上り大きく伸びをした泰夫は急ぎ準備を整え斎藤を気にする事なく、と言うよりも何事も考えられずとりあえず慌て本陣を目指し走り出した、暗闇に駆け出す泰夫を斎藤は何を血迷ったかと声を掛けると自分は大丈夫なので斎藤様はゆっくり降りてきて下さいと告げた、斎藤はお前の護衛が俺の仕事だと言うと本陣で待っていると泰夫は残し闇に消えた。


「ありゃ本陣に着く前に死ぬな」


 斎藤はやれやれと焚火を足で踏み消し月明かりを頼りに本陣を目指した。


 

 孝江は二の丸内で漸く正気を取り戻し乱れた胸元を整えた、周りは外の喧騒が嘘の様でそれでいて足の踏み場がないほどに人が溢れていたが誰一人痛みに声をあげる者は居なかった、農兵は屋根もなく正規兵は板張りの上、これで雨でも降れば嫌味のひとつでも言いたくなる状況であるが負傷しているとは言えこれだけの数の手練を相手にできるものではなかった、孝江は杉を探した不確かな記憶では杉は傷病者を足蹴にしていたが襲われている様子はなかった私と違い、孝江は頭を振るい嫌な記憶を振り払おうとしたが全身を寒気が巡りそれはより鮮明に蘇った、そこで背後の木戸が開き杉がぬっと顔を出してきた。


「大丈夫かたかちゃん」


 孝江は何も答えなかった、言ったところで全て杉に悟られそうで怖かった杉も同様に気遣う声を掛けてそれに応える孝江でない事は重々理解していた、杉は今、孝江が欲しているだろう情報を簡潔に伝えた。


「三郎太、宗盛様共に連絡なし」


 杉は耳をトントンと叩き首を振った、それで孝江は現状を把握し二の丸奥へ進もうとする、杉は孝江の肩を掴み首を振った孝江は二の丸を兵諸共爆破しようとしているのだ孝江は杉の手を振り解き進もうとしたが今度は両手でがっちりと掴まれ激しく首を振られた声には出せずにいたが杉は此処を爆破するのは鬼畜、悪鬼修羅だと言いたいのだろう、しかし孝江の考えは違う農兵であれば許しもするが正規兵、戦を左右する存在であり情けを掛け生かしておけばその手は仲間を殺める可能性のある存在へ昇華するその時、仲間へ掛ける言葉を孝江は持ち合わせていなかった孝江は強引に杉の手を払おうと両手首を握った。


「⋯ザッ⋯ザッザー⋯たかちゃん、たかちゃん」


 突如、沈黙していた耳栓から三郎太のひっ迫した声が響いた。


「さぶちゃん生きてたの、何、なんか凄くうるさい」


「穴蔵に宗盛様と仲間が取り残されてて、俺一人じゃ近付けなくて、弾も残り少ないしどうしようたかちゃん」


 孝江はくっと頷いた杉の耳にもそれは届いており杉は手を孝江から下ろし二人は二の丸を出た、外は相変わらず血生臭い風が吹いていたが二の丸で落ち着いた所為か空を見上げる余裕が孝江にはできていた、しかし視線を地に戻せば当然亡者どもが巣くっていた、しかし既に孝江の手には爆ぜる音を静める細工を施された鉄砲が握られていた、そして孝江は冷静に氷の様に冷たく三郎太へ指示を出した。


「さぶちゃん、爆薬は敷設したの」


「あぁ、大きな柱に置いてきた」


「そう、それじゃ爆破して」


「えっでも宗盛様が」


 当然、三郎太は承服し兼ねていると孝江が念を押す。


「いいさぶちゃん、絶対助けようなんて考えないで」


「⋯でも仲間だろ」


 三郎太の声はそう告げ途切れた、孝江は天を仰ぎ見た杉は孝江に変わり三郎太を呼び続けたが返答はなく五回読んで首を振った、すると孝江の足元に性懲りも無く亡者が寄り付き孝江の足首を掴んだ、プスっ、微かに間抜けな音がした知らない者が耳にすれば誰か屁でも垂れたかそんな間抜けな音、しかし杉はその音を知っている鉄砲が爆ぜるのを押し殺す音、それは弾を放つ時に聞こえる微かな音、孝江に縋り付く亡者の頭が紙風船の如く弾けズズッと砂利が音を立て崩れ落ちた、次の順番を待つ亡者はヒッと声をあげて後退ると孝江は視線も向けず鉄砲だけを向けられた亡者は腰が抜けたのか砂利の上を這って逃げていった孝江はその亡者の腰の上へ足を強く下ろした、亡者は恐る恐る振向き孝江を見上げた、鉄砲は変わらず亡者の頭を狙っていた亡者は涙を流し首を振り何かを懇願していた、すると孝江はしゃがみ込み吐息が掛かりそうな程亡者に顔を近付けると笑顔で人差し指を唇の前に立てた、亡者はコクコクと何度も頷いたそれを確認した孝江は亡者の頭を子をあやす様にポンポンと叩き杉に言った。


「走るよ杉」


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