タイトル未定2026/08/29 00:04
「しかし凄いなそのライフル銃は、はっははは、花火みたいに弾けていたなぁ、玉屋ぁ、鍵屋ぁてもんだ、はっはははは」
斎藤は火に当たりながら饒舌に語っていた、攻め上がる新政府軍のあまりの多さにひとりの目測では間に合わず遠眼鏡で斎藤に助力してもらい狙撃を行っていた、それは自ずと命中した敵兵の姿を斎藤は目の当たりにするのだが最初こそ言葉を失っていたがそれも四、五人、後は飛び散る敵兵を恍惚の表情で笑い飛ばしていた、他人事と心中を察してくれない斎藤を泰夫は疎ましく横目で見ていたがその内、背中を叩き賞賛の言葉をくれるではないか、あの新撰組隊士から褒められるのだ悪い気はしなかった。
「しかしそのライフル銃は前装式でもなく最新の後装式でもない、最新より新しいとは何と言えば良いんだよ、なぁ泰夫」
「ぜんそう、こうそう、何を言われてるのですか」
想定外の返答に斎藤は戯言をと驚いてみせたが泰夫の語り口に皮肉めいた感じはなく純粋に"︎︎︎︎知らない"︎︎︎︎のだろう、確かに考えてみれば昨日迄田畑を耕していた百姓に前装も後装も生きてく糧に全く必要ないなと斎藤はひとり納得した。
「必要な事は孝江が全て教えてくれるんで」
泰夫から出た聞き覚えのない名前、響きからして女名だが記憶にない、しかし名を出してくると言う事は自分が知る者なのかと記憶を辿るも一片の欠片すら落ちてこない、ほとほと悩んでいるとそれを察してくれたか泰夫が教えてくれた、すると斎藤の記憶に掛かっていた靄が徐々に晴れてゆき視界の隅に捉えていた大久保の隣にいた人物の輪郭が鮮明に蘇る。
「あれは女子か、どこぞの国の客人と思うておったわ」
「あれが孝江です、知ってるものかと」
斎藤は胸のつかえが取れると矢継ぎ早に今度は武神が騒ぎ出しあれやこれや泰夫に聞いた、しかし泰夫は口籠るだけで明瞭な答えを提示する事はなく最後はいつも『孝江に聞いてくれ』これでは武神は収まらない、ついでに斎藤も収まらないでいるとその感情は徐々に怒りにかわり斎藤は泰夫を怒鳴りつけた。
「孝江が孝江がって、お前は男だろう女に任せて悔しくはないのか」
ごもっともな叱咤ではあったが泰夫は重々承知であった、しかし悔しい悔しくないの次元ではないのだ、神が奇跡を起こしその奇跡を行なった神に対し悔しがる者がいようか、そう言う次元の話なのだと泰夫は心で呟いていたがそれが斎藤に伝わる筈もなく泰夫はその後、あらゆる罵詈雑言を斎藤からぶつけられ疲労困憊、心から新政府軍の夜襲を願っていた。




