タイトル未定2026/08/29 00:04
大手門は鈍重な音を立て人が通れる程の隙間を開け止まった。
「早く入られよ」
「かたじけない」
城内には彼方此方に傷病者が溢れていた屋根もなく野晒で手当を施される者は殆ど見受けられない、確実に骸も混じっているだろう、いや殆どは骸なのかもしれない陽が昇り昼には腐臭を辿り蠅の群れが押し寄せるであろう、孝江はこの程度の城で殿医がいるとも思えないもし居たとしても農兵如きに差し出す手はないであろうせめて女手でも有れば幾分は良かったであろうに登城を急ぐ余り性急な行軍が祟ったのだと大将の才のなさを敵傷病兵に成り代わって呪ってやるのだがこの有様の原因は概ね三郎太によるものであるだろう『これは戦争なのだ』と言われれば其れ迄だがやはり割り切れるものでは無かった、今ここで三郎太の所業を高らかに叫び身柄を渡せば三郎太の命と引換に傷病者達は報われるのだろうか、だが私は三郎太を襲う者達を許す自信はなかった孝江はそんな堂々巡りを心中に抱き腹を摩っていた。
孝江は新政府軍が撤退の際、火を放ちそれによって焼き出された身重の町娘である、腹は実際膨らみ今にも臨月を迎えようかそんな容姿であるがその腹の中身は赤子ではなく鉄砲や爆薬が詰められていた、歪な形の品々が今にも股ぐらから落ちそうになり現実味を持たすためその度腹を抱え上げついでに悲痛な叫びをあげていた、それを聞いた三郎太は捕虜役でありながら神妙な面持ちを崩し笑いそうになり宗盛から尻を蹴り上げられていた。
「かたじけない、この娘を休ませる処はないか、それとこの賊軍の兵を牢に連れて行きたいのだが教えて貰えまいか」
宗盛は警護にあたっている者に聞いた、芝居とは言え迫真の演技に三郎太は不満気な表情を浮かべると又、宗盛から尻を蹴り上げられ今度は孝江が吹き出しそうになるとそれを悲痛な叫び声に変え耐えていた、警護の者は娘は二の丸へ捕虜は穴蔵にでも入れておけと言われ人目に付かない処へ移動すると然るべき物を其々に渡した。
「良いですか、くれぐれも余計な死傷者が出るような事は避けて下さい、戦えぬ者を殺めるのは道義に反しますので」
三人は頷き、杉は孝江と二の丸へ、宗盛と三郎太は穴蔵に向かった。




