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タイトル未定2026/08/29 00:03

「開門っ、開門御頼み申す」


 固く閉ざされた甲府城大手門では逃げ遅れた2名の兵と捕虜、そして身重の娘が開門を懇願していた。


「所属と氏名を申されよ」


「某(それがし)、鳥取藩番方番頭、高木光吉是高と申す」


「同じく番方物頭、三國貞義と申す、門を開けられよ」


「吟味致す暫し待たれよ」


  

 これより前、孝江は宗盛と杉、三郎太を連れて新政府軍が退却した場所を訪れていた、兵の遺体は放置され早々と死臭を嗅ぎつけた烏に啄まれ辺りは咽せ返るような血の臭いに包まれていた、流石の宗盛も口を押さえていたが孝江はここは名勝地かの如く鼻歌混じりに崩れた家屋の上に立ち辺りを見回していた。


「宗盛様、彼方にまだ息のある者が居ます」


「成程その者達、我らが助くのか孝江殿」


 宗盛は孝江に向き要領得たりとしたり顔で言ったが孝江は視線を合わす事なく辺りを見回しつつ愛想もなく答えた。


「違います、名と所属を聞いて来て下さい」


「⋯孝江殿、それは到底叶わぬ事、敵と知れては尚更」


「尋ね方です宗盛様、『勝敗は決した最早敵も味方も御座らん、なにか伝え申す事ありやなしや』とか申せば相手が勝手に喋りますよ」


「⋯げに恐ろしき女子(おなご)よ」


 宗盛は小声で呟き孝江の指さす方へ向かった、そこには戸板にもたれ息も絶え絶えの侍がいた、素人見立でも四半刻もつまい目の焦点はあわず幻でも見ているのか呻き声と共に手は何かを掴もうとしていた、宗盛はその手をそっと掴み言った。


「拙者、幕府方藤堂宗盛と申す、既に雌雄は決した故、遺恨御座らねば拙者に何なりと御用立てお申し付け下され」


 漂っていた視線は宗盛に注視すると亡者は一瞬で侍へん戻った、頰を伝う一筋の糸、宗盛は視線を外す、するとその者は今にも途切れそうな声で宗盛へ語った。


「申し訳ござらん……御見苦しい所をお見せした、拙者………鳥取藩で番頭をやっております…高木…ゴホッゴホッ……高木光吉是高と申す…藤堂殿、願わくばそのこっ……腰の物拝借つかまつりたい…どうも何処かに落としたようで………武士の風上にも置けぬ不躾者で御座います」


「あいわかった、これで御肚を召されよ我が介錯仕る」


 宗盛は脇差の茎(なかご)を緩め柄を外すと高木へ渡した高木は投げ出した足を納め座して姿勢を正すと剣先を左脇腹に当てた。


「最期に言い置く事はござらんか」


「赴く際、全て伝えてある故、無用」


 宗盛は一刀で介錯を勤めあげた、敵ながらお見事と仏に告げ孝江の元へ戻った、するとそこに杉と三郎太の姿はなく所在を聞くと孝江は恥じる事なく言った二人には遺体から軍服を取って来る様に伝えたと、火事場泥棒ですら怒りに震えるのではなかろうか人の尊厳を踏み躙る鬼畜の所業、卑劣極まりないと宗盛は声を荒げたがこれも勝利を掴む為の些細な事と言われては遣り返す事も出来ず納まらぬ怒りに宗盛は孝江に背を向けた。


「たかちゃん、こっちにもいるよ」


 遠くで三郎太の声がした、孝江は宗盛を呼び頷いた、すると三郎太が自分が聞こうかと言い出すので宗盛がそれを制止した。


「止めておけ三郎太、お前の顔には気高さがない」


 宗盛なりの拳の納め処だったのだろう孝江はそれを知ってか腹を抱えて笑っていた、そこに何事かと杉が両手に軍服を持って帰ってきた二振りで良いのかと杉が聞くと孝江は三郎太に合う寸法があるものかと更に高笑いした、杉も可笑しくなり一緒に訳もわからず笑い出した、死屍累々の戦場跡で男女が高笑いしているきっと戦で子でも亡くしたのだろうと通り過ぎる民が遠巻きに憐んでいた。


 二振りの新政府軍軍服、それに二名の素性、ここで孝江はこれから為すべき事を伝えた、宗盛は中途で悟ったのか鼻で笑った、杉は相変わらず無表情に粥でも啜り込むように簡単に飲み込む、しかし三郎太は両手を振り無理だと伝えた、自分だけ軍服がないではないかと不平を言うと三郎太に怨みでもあるのか宗盛は幕府軍の捕虜が良かろうと孝江へ進言すると孝江は手を叩き宗盛を指さす、三郎太は更に不平を漏らす。


「ほっ捕虜って、うっ打首じゃないのか」


 宗盛はかもなと笑った、杉は三郎太に手を合わした三郎太は今にも逃げ出したい気分であったが孝江は既に捕虜となった友軍がいれば三郎太が入牢する事で所在がわかりそれを解放できると、そうなればお前は英傑だと煽ててみせたがそれでも三郎太は渋っていた。


「では参ろうか」


 宗盛が一歩踏み出し言った。


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