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タイトル未定2026/08/21 02:37

 三郎太は甲州街道を敵に向かってゆっくり歩んでいた、背後には隊士が二名いつでも飛び出せる様柄を握る手に力が入る。


「そろそろ敵の射程です、絶対、僕の後ろから出ないで下さいね」


 乾いた音がひとつ、続けてふたつ四つと三郎太が歩みを重ねる度に倍々に増えてゆく、しかし三郎太の歩みが止まる事はない、三郎太はそろそろかと鉄砲を構えると引金を引いた。


「ひとつ、ふたつ、みっつ、四つ、五つ」


 ドンドンドンと重低音が連続して響く、三郎太が五つ数え終わるといつしか新政府軍の銃声は止み代わりに呻き声と屍の山が築かれていた、背後にいた隊士は何が起こっているのだと恐る恐る三郎太の背後からそれを覗いた、行手を塞いでいた敵兵は消えそこに立っている者はおらず数軒あった家々は荒屋の如く成り果てていた、三郎太は頃合いと再び引き金を引くと進軍を続けてきた二列目も薙ぎ倒してゆく、続けて三列目、屍は街道を埋め尽くし血の色に染まっていった、ここに来て新政府軍の対応は二つに分かれた、ひとつは単純に後退する者達、もうひとつは攻撃の間隙見出しそれををついて突っ込んでくる者達、しかし後者に対しては背後に控えていた隊士が対応する、相手は単騎と斬りかかり背後から新撰組隊士が出てくるのだ結果は見えていた怯んだ敵に一太刀、赤子の手を捻るが如く敵は次々倒れてゆく粗方片付くと三郎太は手で掻き込むように隊士を背後に収め歩みを進めた遅れて飛び出してきた敵は至近距離で銃撃を受ける羽目になる畑に種を撒く様に鉄砲を左右に振る三郎太であったが目の前に敵が来ればそこに集弾するのは道理、泰夫程の威力はない庄之助達の様に正確無比な射撃はできない、ただ惨たらしく臓腑を穿ち骨を砕く即死に至らぬ威力、即ち黒達磨に立ちはだかる者は親兄弟を思い出す事も出来ない程の苦痛にもがき苦しみ死んでゆく戦場では時に圧倒的な恐怖に対しそれは神格化される事がある。


 圧倒的火力と倍以上の兵員をもってしても甲州街道戦線は押し返されていた士官は次々に殺され兵は出撃時の半分にも満たない北より攻め入った隊は全滅との報告が入り、唯一迅衝隊だけは善戦していたがそれは序盤の話、幕府軍本陣南側まで進軍すると伏兵をし北側と甲州街道から来る友軍を待って挟撃、殲滅至らしめんとの企てであったが友軍は現れず伝令すら来ないのだ痺れを切らしていると突如仲間が粉微塵に吹き飛び遅れて雷鳴が轟く、そして又仲間が吹き飛び雷鳴が轟く、これが繰り返される内に誰かが言った『これは神罰ではないのか』それはみるみる内に伝播すると行軍の際も草むらが突然爆ぜたと思えば仲間が殺られた『やはり神罰に違いない』と自ら不安を膨らませ自滅への一途を辿る、高い志を抱きそれを神に否定されたのだこれ以上の絶望感があろうか戦意などもう微塵もない茫然と立ち尽くすしか術はなかった、そしてその様を遠眼鏡で眺め口の端を吊り上げる者がひとり、孝江は大久保に本陣残存兵を南側に進軍させる事を具申した、呆気なかった四半刻も掛からず幕府軍は意気揚々と本陣へ凱旋してくる。


 後に勝沼柏尾の戦いと呼ばれる戦いは初日、新政府軍に多大なる損害を与え終了した、幕府軍死傷者数は軽微。


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