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タイトル未定2026/08/21 02:32

 本陣南側に展開していた吾平、忠太郎、重信は苦戦していた乾退助率いる御親征東山道先鋒総督軍の主力部隊"︎︎︎︎迅衝隊"︎︎と対峙していたのだ、土佐藩において志の高き者で構成された言わば精鋭部隊、布設した仕掛けや音もなく狙撃され次々仲間が倒れていってもその屍を平然と踏み越え進軍してくるのだ堪らず吾平は孝江に救援を請うが手は回せず泰夫が陣取る山麓迄後退しろとの指示、但し後退しつつ布設は続けろとの事で三人は残る仕掛けを余す事なく布設しつつ後退した。


 大久保率いる本隊も敵との圧倒的火力差で苦戦を強いられていた敵砲撃は修正を重ね精度は上がり被害は拡大してゆく大久保は後退も視野に入れ退路確保へ一部兵を後方に下がらせていた、しかしここで孝江は誰もが驚愕する言葉を発した。


「大久保様、進軍の御準備を」


 気を許していた大久保であったが言うに事欠いてこの女、流石に頭に血が上り刀の柄に手を掛けた、すかさず宗盛が仲裁に入り事なきを得たが大久保は怒りに震えていた、孝江は少し大久保を見紛えていたかと順を追い説明する事に返え孝江は先ず準備を整える刻を暫し頂きたいと伝え、次に背後の山頂に控えている者が敵士官を狙撃し乱れた隊列をうちの者が殲滅すると、最後にもし我が身可愛いのであれば結果を御覧になって後方から進軍されても構いませんと、この言葉に大久保は刀を半身抜き暫く考えると納刀して一言孝江に告げた。


「ならば見せてみよ俺はこの場へ残り見届ける」


 大の男がしかもあの新撰組局長にまで登り詰めた男が女にここまで言われて動かぬわけがないと孝江のギリギリの賭けであったがそれはまんまと術中にはまった、しかし付け加えられた言葉に宗盛の心中は穏やかではなかった。


「但し俺の満足する形でなき場合はそこの宗盛に切腹を申し渡すが良いな」


「はい、構いません」


 孝江は笑顔で即答した、これに宗盛は今更待ってくれとも言えず恨めしげな目付きで孝江を睨んだ、孝江は終始大丈夫だと告げてはいたが宗盛はある程度の覚悟はしておくべきと何処か身を清める場所はないかと大善寺へ一人向かった、その後ろ姿を孝江と大久保は見送りその姿が見えなくなると二人して腹を抱え笑った、一通り笑い終えると大久保は孝江に向かい頷いた、孝江は後方で控えている三郎太を呼んだ。


「何だこれは、これを着るのか」


 暫し前、後方へ控えていた三郎太に孝江から連絡が入ると三郎太は指示通り木箱を開け中身を手に取り言った、それは今の半纏の如き装束ではなく兜、胴当、草摺、脛当、足先も護られるまさに鎧であった三郎太は指示されたものの今着込んでいる装束で十分であるとあの日を思い出していたが孝江が言うならとそれを装着した、着終えてみたが如何にも兜の被り方が判らず孝江に聞いた。


「たかちゃん、兜の被り方が判らんのだが」


「あっさぶちゃん終わった?とりあえずこっちで教えるから本陣まで来て」


 三郎太は兜と泰夫の鉄砲にも似た大きな鉄砲を携えて若干歩き難さを感じながらも言われた通り本陣へ向かった、道中、後退する兵士に出会ったが皆、振り返りつつ自分を避けて行くのがわかったが三郎太にはその真意は判らなかった。

 

「何だその黒達磨は」


 大久保は本陣へ到着した三郎太を見て一言、元々体躯が上横に大きな三郎太がその装束で更にひと周り大きく丸みを帯びていた孝江は確かにと笑うと三郎太から兜を受取り装着してやった。


「たかちゃん、なんか息苦しいよ⋯」


 兜を装着するとその姿は紛ごう事なく黒達磨其の物であった、孝江は三郎太に言われ背後にある摘みをあげた、するとフーンと軽い音がして三郎太に笑顔が戻った、孝江は続いて武器の説明をした弾数は一帯で七十五発、但し五つ数える間だけで撃ってしばらく休みそれを繰り返す事、弾の入る帯の替え方も改めてもう一度説明した、そして孝江は大久保に白兵戦の手練を二名三郎太に随伴させて欲しいと伝えると大久保は隊士を二名呼んだ。


「じゃあさぶちゃん、無理はしないでね」


「無理はしないけど、これ着ると走れないんだよなぁ」


 孝江は三郎太の背中をポンと叩き送り出した、大久保は既に味方が敗走してきた前線へ改めて向かう三郎太を神妙な面持ちで見送るだけであった随伴させられている二名の隊士は何かを悟り覚悟したのか姿勢を正し深々と大久保へ頭を下げていた、孝江は大久保と隊士の間にある恩義忠義等知る由もなく構わず泰夫に指示を出した。


「泰夫さん準備は良いですか」


「あぁでも誰を狙えば良いのだ」


 孝江は首を傾げた、泰夫と孝江は数日前までただの百姓で戦場などに赴いた事などないのだ経験者であれば何なりとわかりそうなものであるが考えてみれば当然と言えば当然で孝江は大久保にそれとなく聞いた。

 

「まぁ指揮官ってのは偉そうに馬に跨ってるもんじゃねぇか」


 孝江はそんなものかと大久保に言われた事をそのまま泰夫へ伝えると泰夫もあっさりそれを受け入れ遠眼鏡で戦場を見渡すと隊列の後方には確かに馬上に跨る洋装の軍服に身を包む者達がいた泰夫は狙いを定めるとゆっくり息を吐き指に力を込めた雷鳴と同時にグンっと鉄砲が泰夫の肩を押す、甲州街道では最初の犠牲者が馬上で上半身が吹き飛び血肉が降り注ぎ何事かと周りの者が見回すと遅れて雷鳴が轟く、本陣の孝江はその雷鳴にほくそ笑んだ大久保はその不気味な笑顔に冷たい物を感じていた。


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