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タイトル未定2026/08/20 17:37

 慶応四年明けて一月三日、山城国鳥羽にて上洛する幕府軍が京都警護名目で駐屯する薩摩軍へ通行の許可を求めるも京に可否を伺うと通過を拒まれた、しかし待てど暮らせど許可はおりず日没に痺れを切らした幕府軍は遂に強行突破を試みるそれに応戦した薩摩軍、鳥羽にて戦の口火は切って落とされた、同じく伏見にて睨み合っていた両軍も鳥羽から聞こえる銃声に応える様に戦を始めた。


 その前日、まだその一報を知らぬ宗盛は約束通り泰夫達の村を信頼のおける腹心数名と夕刻に現れた、宗盛は真剣なのか冗談なのか頭巾を被った登場に孝江は思わず顔を背け笑いを堪えた、しかし泰夫達五人はと言うと硬直し目を合わすと斬られるとでも思っているのか伏目がちで宗盛の前に整列した。


「いやぁ、まっこと面妖な装束だな」


「この装束、鉄砲の弾にも耐える強靭な品で御座います」


 孝江が応えると宗盛以下三名は訝しげな表情を浮かべた、では百聞は一見にしかずと前置きもなく小さい鉄砲を取り出し無言で三発三郎太へ発砲したのだ乾いた音が三度続き全て胸元に命中、普通なら確実に死んでいる、三郎太はいきなり何をすると孝江に怒るも孝江は宗盛達の反応が気になっていた、宗盛達はそれが何だと吹き矢ほどの音しか発さない鉄砲が裏目に全く理解できていない様子でお互いに顔を見合わせている始末、孝江は改めて何を行ったか説明したが宗盛達は改めて事態を知ると何とも冷酷な事をすると孝江を叱咤し装束の具合どころではなかった。


「んんっ⋯では宗盛様、次に御案内致します」


 咳払いを挟み孝江がそう言うと泰夫は松明に火を灯し主任(とり)を務める為その場を離れた、孝江は墨壺と筆を持ち宗盛達を連れ森へ入って行った、森の中は既に闇に包まれ行燈がなければ前に進む事すらままならない状態であったが孝江は宗盛達に筆を渡すと好きな木に丸印を描いて下さいと願い出た、勿論宗盛達は何する物ぞと筆を手にするも動けないでいた埒があかないと孝江は宗盛様が描いた丸印を残してきた者たちが全て射抜いて来ると告げた。


「灯りを持てば造作もない事であろう」


 腹心がそう言うので孝江はでは庄之助達に随伴して下さいとその腹心へ告げた、宗盛は自分が何をさせられているのか半信半疑であったが孝江の言う事を聞き入れ木々へ丸印を描いて回った。


「宗盛様、丸印を何個描かれたかは胸にしまっておいて下さいませ、では⋯始め」


 庄之助達の耳に孝江の指示が届くと兜に取り付けられた円筒を下ろした、随伴する腹心は早う灯りを灯せと待っていたが庄之助達はそのまま森へ入ってゆくではないか腹心は待て待て待てと手を振り後を追った、森の先で待つ宗盛は暫くは掛かるであろうと腰を下ろそうと中腰になった時、楔隊の先頭で庄之助が現れ吾平、三郎太も続いて現れると森の中からは取り残され木に激突しながら右往左往している腹心の情けない声が響いていた、それは森を彷徨う物の怪の様でもあった。


「五つ」


「七つ」


「二つ」


 森から出てきた庄之助達は突如数を口にした、孝江は振向き宗盛へ確認を入れる、察しの良い宗盛はその数の意味する事を理解したのか少し言い難そうにそれを皆に告げた。


「とっ十⋯それに四つじゃ」


 宗盛から感嘆の声が上がるかと思いきや素直に喜べる限度と言うものがあるのか過ぎたるは何たらで宗盛は無言、行燈を持ち来た森を帰る道すがら宗盛達は忘れていたのか素通りしようとしたところ孝江に呼び止めら丸印の中心を見せられ絶句した、行燈の拙い光でははっきりと確認できなかったが想像できない表情を見せていた暗闇の中丸印の数を言い当てただけでなくその中心へ弾を撃ち込んで来るなど最早人間の所業ではないそんな心持ちであった事であろう、そして孝江は大主任(おおとり)の出番と今度は宗盛達を少し小高い丘に連れて行くと遠くの山を指差した、よく見ると半里程先の山中に松明が振られていた。


「あれは何であるか」


「あれは先程、松明を持ち別れた者で御座います」


 その会話を交わす中、庄之助達は中に藁を詰めた俵を持ちそれを祭りで使う太鼓台の上に置いた、今まで見せられてきた物全て理解の範疇を越え驚愕するしか術のない宗盛達、今度は俵を持ち出し何をする気だと思えど何が起こるかは微塵も想像できないでいた、ただ言える事は並大抵ではない事が目の前で起こるであろうそれだけであった、孝江は皆を俵から十間離れさせ姿勢を低くとらせたそして泰夫に指示を出す、静寂が辺りを包み微かに虫の声が聞こえた宗盛は固唾を飲み額から一筋の汗が滴る、その瞬間、突然俵が原型を留めないほどに吹き飛んだ、何事かとこれに驚いた腹心は立ち上がるとその場から逃げ出した宗盛の脚にも少し力が入ったがそれを孝江が押さえつけた、そして続き空気を切り裂く様な轟音が響き渡ると逃げ出した腹心は更に驚き何かにつまづくと丘の斜面を転がり落ちて行っていた。


「なっなっ何だ今のは、いっ雷、お前達は雷すら操れるとでも言うのか」


 終始驚いても声を荒げる事はなかった宗盛も流石にここにきて堰が切れた様に感情を露わにすると孝江は宗盛に思いの丈を吐露させそれ全て余す事なく的確に解答を提示して最終的に宗盛直属の隊の契りを結んだ、しかし宗盛は告げる宗盛の属する藩は然程石数(こくすう)が多い訳でもない、場合によっては別の藩配下に就かされる恐れもある、武功を早々に挙げれば口添えで何とかなるやもしれないと、これに孝江は躊躇う事なく言った。


「宗盛様、それは些か心得違い(こころあやまり)されておられる様で御座います」


「拙者がか?」


「はい、この隊の長は他の誰でも御座いません宗盛様で御座います、私共は百姓、戦の知恵など御座いませんゆえ如何様にも」


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