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タイトル未定2026/08/14 23:29

 泰夫は百姓であるが冬期は猟にでるその経験だろうか鍛錬を積む程に練度は向上していった、しかしその鍛錬の数が増す程、爆ぜる轟音に戦争が始まったと村人が騒ぎ肝を冷やしていた、庄之助達はと言うと未だ煮え切らずいたが招集まで時間が限られており焦る気持ちも多少あったが孝江は次の段階へと進める為に父の元を訪ねていた。


 久方ぶりの城下町であったが明らかに浮き足立っているのが取ってわかった普段は町人達が行き交う道中は馬の背に跨る侍達が行き交い商店は軒並み戸板で閉ざされていた、孝江は駆ける馬に注意を払い軒先を舐める様に歩くと父のいる屋敷を目指した、城下町とは言え江戸や大坂とは違いそれ程大きくもない屋敷には町境に入り四半刻も掛からず到着した、孝江は屋敷の門へ続く白壁に人差し指をあてそのまま門を目指す掃除が行き届いていないのか角から一筋跡がずっと続いていたがそれを門番から咎められると孝江は指を仕舞い深々と頭を下げ挨拶をした、私は遣いで馬番の父に早急に伝えるべき事がありここを訪れたと普段使いもしない敬語で辿々しく懇願した、門番は孝江をキッと睨みつけ渋々門の中へ入って行くとしばらくして家では決して見せない整った姿の父が現れた、父は門番に深々と頭を下げ感謝の意を伝えたが門番はその父の頭を軽く叩いた、瞬間、孝江は頭に血が上りその門番の警仗を奪い取ると喉元へひと突き、遅れて前に進み出るもう一人の門番を勢い良く上段から叩きのめす、そんな妄想を浮かべ心を鎮めた、実際、寸分変わらぬ行動で寸分変わらぬ結果を再現するのは可能であったがそれは父の職を奪い妙計は破綻する孝江は妄想でそれを止めると父へ要旨を伝えた父は当然首を捻り全く理解してない様子、すると背後の立派な四脚門が重厚な音をたて開き屋敷内から若い侍が数名出てきた孝江は父に引かれ門の端へ追いやられた。


「おい平次、その者は?」


 先頭に立つ侍が父へ問い掛けた、すかさず一歩下がると平身低頭で父は答えた。


「はっ宗盛様、これは娘の孝江で御座います」


「ほぉ娘であるか、鳶が鷹とはこの事か」


 宗盛は高笑いすると合わせる様に他の侍達も笑った、すると頭を深々と垂れていた父の僅かな視界に何か動く物が見えた父は何であろうかと顔を上げると既に数歩前を進む孝江の背中が見えた、父の身体は硬直し声も出ずアワアワと事の成り行きを眺めることしか出来ないでいた、妻の苦悩を今更察したが後の祭り目の前で娘が斬り殺されるなど見たくもないと目を伏せた。


「旦那様、不躾とは重々存じますがどうか私目に少々御程を下さらないでしょうか」


 百姓風情が何様かと付き添う侍が柄に手を置き孝江の前に進み出た、しかし孝江は狼狽えることなく宗盛をじっと見据えていると宗盛が言った。


「某(それがし)、これより軍議ある故後程で良ければ御相手するが」


「若っなりませぬ!この様な百姓の小娘の相引きなど、平次お前も黙っておらんで早く連れてゆかぬか!」


 宗盛は溜息をつき振り返ると声の主を表情も変えず思い切り殴りつけた、流石に孝江もこれには驚いた立派な侍でも地べたに無様に転がる事もあるのだと爽快でもあったがここで笑でも浮かべ様なら次は自分の番だと下腹に力を入れてそれに耐えていた。


「失礼した、戻るまで平次の詰所で待つが良い、もし戻らぬ時は⋯申し訳ないが日を改めて貰えぬか、其方の眼(まなこ)には某(それがし)を惹きつける何かがある」


 宗盛はそう告げ去っていった、孝江はここでようやく自分が呼吸をしてない事に気付くと大きく息を吸った平次の金縛りも解け愛娘の元へ這う様に向かう二人の門番は横目でその様を眺めつつ若の戯事も困り物だと当主の苦労を他人事であるが心配していた。


「たっ、たたた孝江っ、おっおお前と言う奴は」


 父は娘を責める事なく只々生還を喜び抱きしめ宗盛の指示通り自分の詰所に連れていった、詰所とは言い様で厩の片隅に酒樽で作られた座が設けられただけで辺りは馬糞と床藁とが藍まみれ発酵した鼻をつく独特な悪臭が立ち込めていた孝江は子供の頃父が帰宅し抱き締めてくれるのは良いがこの臭いが堪らなく嫌だった事を思い出し、これでは仕方ないと父の勤めに改めて感謝し心の中で謝罪した。


「孝江、お前宗盛様に何を話すのだ?」


「うーん戦の話かな」


「おっお前まさか儂の事を気にかけて」


 驚くべき父の一言に刻が止まった、そう言えば父は戦で一旗上げる志があったと孝江は思い出したが志とは言い様で目の前にいる人物は既に初老を過ぎ戯言としか言えず孝江は流石にそこまで孝行娘ではないと手を振り笑った、しかし父は至極残念そうでその本気具合は十分伝わった、孝江はその父の表情に泰夫達と組ませる事も考えたが一瞬でその愚考は跡形もなく消え失せた、父はそれでは何だと問うてきたが孝江は笑顔を見せるだけで何も答えず代わりに馬についてあれやこれや父を問い詰め誤魔化していた。


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