タイトル未定2026/08/14 23:05
その帰り道、孝江は泰夫の家を訪ねた、鉄砲の手入れの仕方は指南したが正直不安でしかなかった、もし不具合に気付かず何かあれば泰夫が無事でいられる訳はない、そんな不安感を抱きつつ孝江は泰夫の家の前に立つ、見慣れた筈の泰夫の家であったが何処となく旧懐の情を抱いてしまう、障子は開け放たれていて千代が何か作業してる様子が見えた、しかしそこに泰夫の姿は見当たらない孝江に不安感が急に去来すると千代目掛け駆け寄り泰夫の所在を聞くと凄い剣幕に千代は驚き息を呑んだ、千代の一瞬の間が更に孝江の不安感を煽り油断すれば今にも涙が溢れ出しそうで膝がガクガクと震えた、しかし千代から出てきたのは在り来たりの聞き慣れた単語、孝江は安堵感から崩れる様に縁側にへたり込んだ千代はその姿に全てを察しクスッと笑うと孝江の元に水を持ってきて横に腰を下ろした、庭先では雀が何かを啄みそれを鳩が追い立てる見上げれば透き通る青空に雲がひとつ流れてゆく静かで間抜けな程に平和な時を過ごした、それはこれから巻き起こる激動の一年半の一遍をも想像だにできなかった。
そんな短くも長い時間を二人は無言で過ごしていると何も知らない泰夫が呑気に野良仕事から戻ってきた、孝江は居ても立っても居られず裸足で飛び出してゆくと泰夫に飛びついた、しかし何事かと泰夫は飛び退いた、追いかける孝江、その仲睦まじい光景に千代は二人に聞こえる筈もない小さな声で呟いた。
「孝江さん、泰夫の事頼みましたよ」
ただ単に許嫁として掛けた言葉であろうが泰夫達が呑み込まれてゆくこれから運命を知っているともとれる曖昧模糊な言葉を残し千代は膝を軽く払うと厨へと消えて行った。
「どうだ?」
「良いと思いますよ明日にでも撃ってみましょう」




