タイトル未定2026/10/21 03:07
それは東御門近く、櫓の傍らにあった。
門番が二人立っていたが門は開け放たれており、杉は抗う暇も与えずこれを屠り、杉はそのまま杉らしく城内へ踏み入った。
大砲の周りでは十名ほどが慌ただしく次弾の装填を急ぎ、櫓の上では砲隊長と思しき男が、指さしながら怒声で方角を下知していた。
杉は足を止め、ひとつ思案した。ライフル銃も持たぬ砲兵十名など、脅威としては大きくない、だがここは城内である十名を屠り砲撃を止めたところで、代わりが来れば刻を稼ぐだけに終わる。
ならば狙うべきはあの櫓上の砲隊長である、たとえ後詰めがあろうとも、砲兵十名を相手取るよりは骨が折れぬと早速、砲隊長へ狙いをさだめる。
だが既のところで砲隊長の姿は櫓の奥へ隠れた、おそらく装填を終え着弾点の見定めにいったのであろう。
万事休す、今、杉にできる事と言えば、あの砲隊長が非才であれと祈るしかなかったが、杉には祈る相手など持ち合わせてはいない運を天に任すなどもっての外と悪き方を選ぶと茶筒を二個、大砲目掛け放った。
どん、どんと茶筒の爆ぜる音がすると杉は物陰より姿を現したが間を置かず、今度は茶筒など比べものにならぬ轟音が天を裂いた。次の刹那、砲隊長の控える櫓が吹き飛んだのだ。
茶筒で砲座が崩れ砲は射角を失うたまま、水平に砲弾を吐いたのである。
たちまちあたりは白煙に閉ざされ、霧の中に迷うたように杉は右も左もわからず彷徨うた。
そこへ、何事かと城の者が慌てて駆け出てきて、杉がこの惨事の張本人とも知らず「大事はないか」と声を掛けられた。
杉は真白な顔で頷き、我は大丈夫じゃとだけ応えると、そのまま何食わぬ顔で城を後にした。
旅籠前では、夜鷹方より一方的な射撃を浴び駿府の兵はたちまち乱れ、一列目に立つ者どもは、ほとんどが手傷を負い、うめきつつその場に崩れている。
隊長は歯噛みしながら、ここで此方の手が届くまで兵をさらに前へ押し出すべきか、あるいは砲撃をもって押し返すべきか、しばし決しかねていた。
下手に進めば損害は増す、されど退けば、いよいよ敵を勢いづかせるばかりである。
その折、背後にて腹の底を揺るがすごとき轟音が響いた、はっと振り返れば、櫓が音を立てて崩れ落ちるのが見え、隊長は思わず息を呑んだ。
今の轟音にて城よりの援けはもはや絶えたと直感したのだ。
されば、ここより先は己が手勢のみで持ちこたえねばならぬ、そう悟るや、これ以上みだりに兵を失うわけにはいかぬと、ただちに砲を前へ出させ、あわせて兵の一部を旅籠の裏手へ廻し、筋の逆より挟撃を仕掛けんと決した。
下知を受けた兵どもは、たちまち左右へ散ると物陰に潜んだ。
孝江は隊列を解き敵兵が散るさまを見るや散兵となって攻め上がってくるものと見定めて宗盛に告げた。
宗盛は無言で頷き、奥より茶筒を三つ、さらに弾入れ金具を二つを筋向こうの孝江へ放った。
孝江の見立てどおり、敵は物陰に身を潜めつつ散兵となって前進を始めた、さらにその散った隊列の後ろでは砲撃の支度も進められているのが見てとれた。
孝江は攻め上がる兵の始末を宗盛に任せると、自らは後方の砲兵を狙った。
此度の敵は射程の外にある、されど、たとえ致命の一撃を与えられずとも手傷を負わせることくらいはできようとそう胸中で定め、孝江は遠眼鏡を覗き込みながら脇の摘みを幾度も回した。
"︎︎︎︎泰夫さんがこの場にいてくれれば"︎︎ふと詮なきことことが脳裏をよぎる。
だが今は、修正を重ねて当てるほかない、孝江は大きく息を吐き、引金に指をかけた。




