99. 誕生日⑤ お散歩
「もう少し温室のお花見たいな。ねぇ、お腹もいっぱいだし、歩かない?」
フェリシアはヴィルノアに提案をした。
「いいね。そうしようか。」
フェリシアを膝から降ろし立ち上がると、ヴィルノアはフェリシアの手を握り、指を絡めた。
「行こう。」
「うん。」
ヴィルノアはにっこり微笑んで歩き始めた。
温室の中は様々な種類の薔薇の鉢植えのほかに、春先に咲くサクラソウやスミレが地植えされており、とても冬とは思えないほどの花々が溢れていた。
「きれいね。聞いていた以上にお花が溢れているわ。」
フェリシアは瞳をキラキラさせた。そしてスミレが植えられている花壇に近づき言った。
「私、スミレの花も好き。薔薇ほどの華やかさはないけど、かわいらしさは薔薇に勝っていると思うの。色も沢山あるし、斑入りとかグラデーションとかバリエーションも豊富よね。見ていて飽きないわ。そう思わない?」
「そうだね。どうしても薔薇は花束によく使われるから人気もあるし、目が行きがちだよね。庭師の腕の見せ所だからガーデンフラワーとしても人気があるよね。スミレは薔薇ほど手はかからないけど可憐な花姿で必ずって言っていい程、庭園に植えられているよね。まぁ、スミレは花束にはしないよね。小さすぎるよね。スミレを贈る時は鉢植えで贈るのかな?どうなんだろうね。」
「んー、私も分からないや。そもそも花をもらうことなんてめったにないもの。」
「エリック兄上にはもらわなかったの?」
「ないない。エリックはいつもお菓子とかお菓子を作る道具とか、本をくれてたんだ。私も本とか文房具とかお菓子を贈ってたしね。」
「へぇ、そうなんだ。僕もシアに生花を贈ったことないね。この前の髪飾りくらいだよね、花がモチーフの物は。そもそも、まだ婚約して数か月だから、贈り物自体ほとんどないね。」
「そうね。私もノアに贈り物してないよね。鉢植えを贈るっていうのもいいね。鉢の色とか形とか柄とかこだわれるね。それにピックとか立ててもかわいいね。動物のとか。考え始めたら楽しいね。」
「そうだね。アレンジの幅があるね。シアならウサギ・・・違うなリスかな。リスのピックを花の間に差したらいいかな。」
「何でリス?」
「ほらリスって口いっぱいにくるみとか頬張るでしょう。シアも口いっぱいにお菓子とかフルーツを頬張るよね。似てない?」
「うん、確かにいっぱい食べるよ。お菓子もフルーツも好きだし。でもね、そうなんだけど・・・それはそうなんだけど、まるで私が食いしん坊みたいに聞こえるよ。」
「食いしん坊でしょう?リスとシアの好きな苺のピックなんてどう?」
「かわいい組み合わせだとは思うけど、私をイメージしたって言われると微妙かなぁ・・・それ。私って一応年頃の女の子だし、食いしん坊って淑女に向ける言葉じゃないよね。うん、だからちょっと嫌かな。」
「嫌がることないよ。シアがいつも幸せそうに食べるから、一緒に食べると僕はいつも以上に美味しく感じるんだ。だから食いしん坊のシアも大好き。」
「それなら、いいのかな。」
「うん、いいよ。それにリスが頬袋を膨らませている姿はかわいいよ。」
「確かに・・・。私がリスなら、ノアは猫っぽいよね。」
「猫?」
「うん。猫って興味のない人には見向きもしないけど、気に入った人には喉を鳴らして甘えるの。とっても気分屋さんで、とってもかまってちゃん。ねっ、ノアっぽくない?」
「そう言われるとそうかも。シア以外どうでもいいし、でもシアにはかまって欲しいし・・・。うん、僕が猫っぽいっていうのも分かる気がするよ。」
「でしょう。」
二人はにこにこと顔を見合わせた。
「スミレも僕の中ではシアのイメージにぴったりだよね。」
「そう?小さいから?」
「ううん、そうじゃなくてね、白いスミレの花ことばが、『純潔』『あどけない恋』『無邪気な恋』なんだ。初恋を連想させる言葉でしょう。僕の初恋はシアで、初めて会ったその日に感じた想いはまさにあどけなくて無邪気で幼くて・・・そんな恋だったと思うんだ。今もシアに恋をしているけど、あの頃とは違うと思うんだ。もっともっと深く好きになっているんだ。きっと明日は今日よりもっと好き。」
「うん、知ってる。ノアって、時々ロマンチストになるよね。」
フェリシアは真っ赤に頬を染めた。
ヴィルノアはくすっと笑って、フェリシアの頬を撫でた。
「知らなかった?僕はシアに関してはいつでもロマンチストなんだよ。シア、顔、真っ赤だよ。」
「ノアのせいだよ。だってあんなこと言うんだもの。」
「本当のことだよ。僕の嘘偽りのない気持ちだよ。それにこれくらいはっきり言わないと、シアに伝わらない気がするんだ。」
「ううぅぅぅ、否定できないよ。鈍いってよく言われるもの。」
「いいんだよ。シアはそれでいいんだ。僕が言葉にしていつも伝えればいいだけだよ。それにこうやって伝えたときに赤くなるシアも好きなんだ。かわいい。」
「・・・何か意地悪じゃない?」
「はは、そうだね。でも、こんな表情のシアもかわいいよね。何度でも見たくなるんだ。」
「ううぅぅ、恥ずかしいよ。ノアの意地悪ぅ。」
フェリシアは両手で顔を覆った。
ヴィルノアはフェリシアをそっと抱き締めて言った。
「シアがかわいいのがいけないんだよ。」
「なに、それっ。」
フェリシアはくすくすと笑った。
「あれっ、何で笑うの?僕は本気で言っているのに。」
フェリシアが顔を上げると、ヴィルノアは少し拗ねたような顔をしていた。
フェリシアはくすっと笑うとヴィルノアの頬に手を当てた。
そして気が付いた。
「ねぇ、ノア。あまり寝てないんじゃない?隈ができてるよ。」




