97. 誕生日③ 甘い時間
庭園の前では王室付きの老齢の侍従と侍女たちがお茶などの用意を乗せたワゴンと共に待っていた。
ヴィルノアが近づくと一斉に頭を下げた。そして侍従が頭を上げビシッと背を伸ばして言った。
「お待ちしていりました。王太子殿下より、本日はヴィルノア殿下とフェリシア様のお世話をするよう仰せつかっております。」
「兄上が手配してくれたんだね。そういえば、二人っきりにならないようにって言ってたっけ。忘れてた。さすが兄上、僕の行動はお見通しだなぁ。うん、今日はよろしくね。」
ヴィルノアがにっこり笑って言うと、老齢の侍従は目を大きく見開いたがすぐに仕事モードの顔に戻し、言った。
「はい。誠心誠意務めさせて頂きます。こちらでございます。」
侍従に先導され庭園を進んだ。冬だけに花が少なく、華やかさに欠ける遊歩道を歩いていくと最奥にお目当ての温室があった。
温室は八角形のガラス張りで中は心地良い温度に保たれていた。そして時期をずらして咲かせた薔薇の鉢植えが所狭しと置かれていた。
「うわぁ、きれい!」
フェリシアは胸の前で手を合わせ、瞳をキラキラと輝かせ、ふらふらと引き寄せられるように薔薇へと近づいて行った。
ヴィルノアはくすっと笑って、しばらくの間あちらこちらと薔薇を見て歩くフェリシアを眺めていた。
「ねぇ、ノア、この薔薇、チョコレート色だよ。チョコレートでできた薔薇みたい。きれいなのに美味しそうって、すごくない?」
フェリシアがくるっとヴィルノアの方を向くと、静かに微笑みながらフェリシアを見ているヴィルノアと目が合った。
「薔薇を見て美味しそうってシアらしいね。それより、お腹空かない?シアの作ってくれたサンドウィッチも食べたいしランチにしようよ。またあとで薔薇は見よう。」
ヴィルノアはにこにこ笑って、手を差し出した。フェリシアはヴィルノアの手に自身の手を重ね、恥ずかしそうに言った。
「一人ではしゃぎすぎちゃった。ごめんね、ノア。薔薇があんまりにもきれいだから夢中になっちゃった。お待たせして、ごめんね。」
「いいよ。謝らないで気にしてないよ。シアが楽しそうで、僕も楽しかったんだ。」
「ありがとう、ノア。」
ヴィルノアは優しく目を細めて頷いた。
温室の中央には丸いテーブルと椅子が何脚か置かれ、少し離れたところにはソファもあった。
テーブルの上にはフェリシア作のサンドウィッチとクッキーに加え、フルーツやケーキなども並べられていた。
「シア、こっち。」
フェリシアが椅子に腰かけようとすると、ヴィルノアが腰をぎゅっと抱き、引き寄せた。そして軽々とフェリシアを持ち上げ、椅子に座ると、ヴィルノアは自身の膝の上にフェリシアを降ろした。
「シアの席はここ。」
「もう、ノア!恥ずかしいから降ろして!」
「だめ。」
「隣の席に座るから降ろして!」
「いやだ。」
「お昼食べるんでしょう。これじゃあ食べにくいよ。」
「大丈夫。僕が取ってあげるよ。」
「大丈夫じゃなーい。降ろしてってば!」
ヴィルノアは膝の上で暴れるフェリシアの腰をぎゅっと抱きしめ、傍に居た侍女に苺を皿に取るよう言った。侍女はいくつか皿に乗せるとヴィルノアの前に置いた。ヴィルノアは一つ摘まむとフェリシアの口の前に苺を差し出した。
「ほら、美味しそうだよ。あーん。」
「あーんじゃないよっ。」
「苺、好きでしょう。はい、あーん。」
「もうっ!」
フェリシアは頬を膨らませつつも、苺にぱくんと食いついた。そしてぱぁぁっと笑顔を浮かべてフェリシアは言った。
「あっまーい。おいしいぃぃ。ノアも食べてみて。はいっ。」
フェリシアは苺を一つ摘まむとヴィルノアの口元に差し出した。
ヴィルノアはパクンとそれを食べた。
「うん、甘いね。美味しいね。シア、もっと食べる?ああ、でもシアの作ったサンドウィッチ、食べたいな。」
ヴィルノアがそう言うやいなや、さっと侍女がサンドウィッチを皿に乗せヴィルノアの前に置いた。
「おいしそうだね。」
「うん、味は保証するよ。ノアに作りたいって言ったら、料理長が張り切って材料を用意してくれたんだ。私はそれを切ったり挟んだりしただけだから作ったって言えるのか微妙なとこなんだ。あ、でもソースは作ったよ。」
「食材の組み合わせとか考えて、挟んでくれたんでしょう。作ったでいいんじゃない。シアが作ってくれて嬉しい。」
「ふふっ、ありがとう。食べてみてね。これとかお奨めだよ。料理長の作るローストビーフはとっても美味しいの。それに野菜とフルーツ系のソースを合わせたんだ。料理長も美味しいって言ってくれたんだよ。」
そう言ってフェリシアはサンドウィッチを手に取った。
「ノアの為に作ったんだ。食べてくれるかな?」
フェリシアはにっこり笑って、サンドウィッチをヴィルノアに差し出した。
ヴィルノアはくぅっと息を飲むと、口元に手を当てぼそっと言った。
「シア、かわい過ぎ。頂くね。」
ヴィルノアはフェリシアの手にあったサンドウィッチにかぶりついた。
「ど、どうかな?」
「すごく美味しいよ、シア。ローストビーフにフルーツ系のソースは合うね。もっと頂戴。」
「うん、沢山食べて。はい。」
「ありがとう。」
ヴィルノアの膝から降りることを諦めたフェリシアは、そのままランチを楽しんだ。
ヴィルノアはフェリシアの体温を久々に感じながら、微笑みっぱなしだった。
そばに控えていた古株の侍従はヴィルノアの告白騒動の時にもそばに控えていた。その時のヴィルノアの落胆っぷりに心を痛めた一人だった。だからこそ侍従は二人の様子を喜ばしく見ていた。
侍女たちは澄ました顔で立っていたが、内心ではリアル恋愛小説の世界と、二人のやり取りをワクワクドキドキしながら見ていた。
二人の甘いやり取りは食事が終わるまで続いたのだった。




