96. 誕生日② 久しぶり?
「シア!」
王宮図書室の窓際で本を読んでいたフェリシアを見つけ、ヴィルノアは嬉しそうに微笑んで、フェリシアの名前を呼んだ。フェリシアはヴィルノアに気付くとにっこり笑って、手を挙げた。
「ノア!思ったよりお仕事早く終わったんだね。」
「うん。仕事終わらせないとシアからの手紙をくれないって兄上達が言うから、急いで終わらしたんだ。」
「そ、そうなんだ。お兄様ったら・・・。」
「シア、会いたかった。長いこと会えないから、シアが足りなくなっていたんだ。」
「ふふっ、冬花祭からまだ一週間よ。」
「もう一週間だよ。」
「冬休みだもの。一週間くらい会わないのなんて、今までもいくらでもあったじゃない。」
「うん、分かっているんだ。でも、それはシアが婚約者じゃないから、何か言える立場じゃなかったから、仕方がないなって諦めていたんだ。でも、今は違うでしょう。シアと一緒に居ていい立場になったら、いつも一緒に居たくて仕方がないんだよ。シアは違うの?」
「長期の休みだもの。会えないのが普通かなって思うよ。それに、ノアにはお仕事があるし、ね。」
「それでも、僕はシアに会いたいよ。」
「ふふっ、ありがとう。なんかすごく好かれてるね。」
「知らなかったの?僕はシアに大好きだっていつも言っているんだけどな。」
ヴィルノアはむっと口を結んで、拗ねたように言った。
フェリシアはそんなヴィルノアを見て目を細めた。
「うん、知ってる。分かっているけど、それとは別。たまに実感?ん-、しみじみと感じるの。ああ、ノアに好かれてるって。それで胸の奥がほっこり温かくなるような、むず痒いような・・・何とも言えない感じになるんだよ。」
頬をほんのり赤く染め、フェリシアは照れくさそうに微笑んだ。
「・・・かわい過ぎ・・・。」
ヴィルノアはぼそっと言うと、口元を押さえて頬を少し赤らめた。
「そういえば、兄上が王妃専用庭園の温室を使っていいって鍵と許可証をくれたんだ。今日の午後は一緒にその温室で過ごしてくれるよね?」
「わぁ、嬉しい!とても素敵な温室だって聞いているわ。楽しみ!」
「うん、シアが喜んでくれて嬉しけど、温室じゃなくて僕と過ごせることを喜んでほしかったな。」
「ふふっ、拗ねちゃった?」
「ちょっとね。僕がシアを想うほど、シアは僕を好きじゃないんだなって。」
「ふふっ、そうでもないよ。だってね、昨日はノアの為にクッキーを焼いたの。今日は早起きして、ノアの為にサンドウィッチを作ったんだよ。」
そう言ってフェリシアはバスケットを差し出した。
「ほら、今日ってノアの誕生日でしょう。お祝いしたくて頑張ったんだよ。ねっ、拗ねないで。」
「うん。ありがとう。シアの手作りランチなんて、贅沢だね。楽しみだな。早く行こう、シア。」
ヴィルノアが手を差し出すと、フェリシアはにっこり笑って頷き、バスケットを持つと自身の手をヴィルノアの手の上にのせた。ヴィルノアは指を絡めると手を降ろして、もう一方の手を差し出した。
「持つよ。」
「ありがとう。」
バスケットとフェリシアの手とを両手にして、ヴィルノアは機嫌良さげに歩き始めた。
「お菓子以外も作るんだね。」
「えーと、実は初めてサンドウィッチ作ったの。だから期待しないで。」
フェリシアは苦笑した。
「期待するなって言う方が無理だよ。楽しみだよ。」
「あっ、クッキーは美味しくできたんだよ。」
「いつもシアの作るお菓子は美味しいよ。」
「ふふっ、ありがとう。」
ヴィルノアとフェリシアはたわいもない会話をしながら温室に向かった。
道中、多くの王宮勤めの文官達やメイド達とすれ違った。彼らは静かに礼をしていくのだが、最初驚いたような顔をした後、慌てて仕事モードの顔に戻し、ある者はすれ違った後振り返り、ヴィルノア達を二度見した。
フェリシアはその事に気付き、訝し気に首を傾げた。
「ねぇ、なんか驚かれてる?えーと、見られてる?何かおかしいかな?」
「気にすることないよ。シアは今日もかわいいよ。」
「ありがとう、って、いやいやいや、そういうことじゃなくて、ね。なんか、すれ違う人の反応が変っていうか・・・。」
「そう?僕とシアが一緒にいるのが珍しいだけじゃない?」
「そうかな。そういえば二人で王宮の廊下を歩いたことないかも。」
「そうだね、ないね。」
「それでかぁ。」
「だね。」
二人は顔を見合わせ微笑み合うと、またとりとめのない会話をしながら温室へと向かって行った。
「見たか?あの殿下が笑っている。」
「見た。初めてだよ。」
「だよな。殿下でも笑うんだなぁ。」
「ああ、隣にいたのはスカイ公爵令嬢のフェリシア様だよな。」
「仲がよろしいようで何よりだな。婚約者がエリック殿下からヴィルノア殿下に変わったんだよな。高位貴族の令嬢っていうのも大変だな。」
「ああ、でも仲が良さそうで、結果的には良かったんじゃないか。」
「そうだな。」
すれ違った文官達は、二人の後ろ姿を生温かい目で見送った。
「見た?」
「「「見ましたわ!」」」
メイドたちは端に集まり押さえた声で話し始めた。
「ヴィルノア殿下の笑顔、素敵!」
「本当に。背も伸びてすっかり少年から青年へとなられておりますのに、どこか少年っぽさも残しておられて、それだけで充分魅力的でしたのに、あの幸せそうな笑顔!いつも冷たいくらいの無表情ですのに・・・眼福ですわぁ。」
うっとりとした表情で一人が言うと、他の者達も胸の前で手を組み、うんうんと頷いた。




