94. ヴィルノアという人⑧ー3 クララへの贈り物?
「いちゃいちゃがいいです。いちゃいちゃしていてください。」
クララ嬢が言った言葉だ。
全くその通りだと思った。シアの笑顔にもつながるし、何より僕の心が穏やかだ。うん、これからも人が何と言おうと、シアが恥ずかしがろうと、いちゃいちゃしよう。シアのあのかわいい『ばか』が聞けるように全力で頑張ろう。
クララ嬢の言葉が突き刺さったので、ちょっとしたお礼をしようと用意した。たまたま気付いたことを利用しただけなんだけど、クララ嬢にもいちゃいちゃできる環境をプレゼントしようと思いついた。
シア不足を防ぐため実行委員の仕事を手伝う中で、僕はクララ嬢を熱く見つめる一人の男子生徒の存在に気付いた。僕にしては珍しい。シアが婚約者になって、僕も少しづつ変わってきているのかもしれない。以前なら、シアと関係しない男の機微に気付くなんてありえない。
まぁ、彼の献身がシアと婚約する以前の僕と重なったからかもしれないのだけれど・・・。彼も想いを伝えたりはせず、かといってクララ嬢の気を引くこともなく、ただただクララ嬢の助けになるように動く。クララ嬢が快適に動けるようにすることを考えている。前の僕はシアの笑顔を守りたいとだけ考えていた。想いを伝えてシアが悲しむくらいなら、そんなことはしないって思っていた。僕だけが苦しめばいいんだ。
彼に近視感を覚えた。そこでクララ嬢についても観察したところ、彼のことを嫌ってはいないし好感を抱いて、いや信頼感かな、を持っているのは確かだった。クララ嬢に恋愛について尋ねたら、恋愛には興味がなく、恋人も婚約者もおらず、好きな男もいないとのことだった。うん、思っていた通りだ。彼女の恋人は仕事だ。クラスの活動を主導することであり、商売の成功こそ、彼女の楽しみ。そうとしか見えなかったけど、その分析は正しかったようだ。
彼女は明るく、さばさばした性格で、気性も穏やか、ざっくりとした姉御肌のようでいて、細かいことに気付き気を回せる人だ。彼女の容姿は十人並みだが、裏表なく笑う姿は彼女を魅力的に見せていると思う。世界一かわいいシアが僕の基準だから、この辺の一般的評価はいまひとつ自信がない。まぁ、そう間違ってはいないと思う。
そしてクララ嬢に想いを寄せていると思われる彼、ベンジャミン殿というらしい、は、中肉中背、背は高くもなく低くもない。顔は取り分けいいわけでもなければ、悪いわけでもない。シアが言うには、笑顔がかわいい感じらしい。性格は温厚で、きっと頭が良い。クララ嬢の仕事をさり気ない形でサポートしているところを見るかぎり、頭の回転は速く、他人に気を使える人だ。いい奴って誰もが思うタイプだ。
ベンジャミン殿と話してみると、思っていた通りの人となりで、プラスすることと言えばとても素直な人だということぐらいだ。クララ嬢とは上手くやっていけそうだと思う、好青年だ。
そこで、ベンジャミン殿に白い薔薇を使ってサプライズ告白をしてみないかと提案してみた。僕からの提案が意外だったのか、僕が彼の気持ちに気付いたことが意外だったのか、最初彼は怪訝そうな顔をしていた。そして僕には無理です、と言って断ってきた。だけど何度か話すうちにやる気になってくれた。
当日はクララ嬢がOKしてくれてよかった。たぶん大丈夫そうだと思っていたけど、賭けな部分が大きかったんだよね。クララ嬢って行動が謎だし、ね。クララ嬢からは、ベンジャミン殿が犬に見えているらしい。かわいいって言ってたから小型犬かな?シアじゃないけど分かる気がする。
『男として頼られるように頑張る』と言った彼を思わず応援してしまった。『男として』は僕にとって最大の難関ワードで、なかなか超えられなくていつももどかしくなる。今でも、それは僕の目標の一つだし、シアに常にそう見てもらいたいと思っている。一人の男として見てもらい、頼ってもらい、守っていきたい・・・男なら誰でも思うことだよね。
だけど、今でも、かなりの頻度で、シアに子ども扱いされて、頭を撫でられる。あれも嫌いじゃない。うん・・・むしろ好きかもしれない。お姉さん顔をするシアもいい感じだ。うん、かもじゃなくて、好きだ、な。
シアはさらっとエリック兄上と婚約してきた時のことを話す。話される度に、もやっと黒い気持ちが胸に広がる。
六年間は短くない。婚約していても疎遠な者達も多い中、あの二人は親友といった感じで過ごしていた。つまるところ仲が良かった。その関係は婚約解消後も変わらない。二人の間に何だか踏み込めない絆のようなものを感じるときがある。これは一生感じるんだろうな。頭では理解しているんだ。仕方がないことと。でも心の奥では・・・。兄上が王女に恋心を抱いてシアに後ろめたい気持ちを持っていた時、兄上のそのままを受け入れ、心を救ったのはシア、シアが僕への想いを気付くように背中を押してくれたのは兄上、お互いがお互いの良き理解者なのだ。
シアの気持ちが僕に向いているって分かっているけどモヤモヤする。シアのこととなると僕の心の狭さが際立つ。笑って受け入れて、見守る・・・そんな大人な男でありたいけど・・・今は無理。もう無理って言っている時点で子供っぽ過ぎるんだ。
シアを抱き締めると、頬を赤らめ恥ずかしがるシア。本気で嫌がったりはしないし、ちょっと瞳の奥が嬉しそうに輝いているシア。シアが僕の想いに応えてくれる。こんな幸せが現実にあるなんて思わなかった。
だけど僕が欲張りになっているんだ。今でも充分幸いせなのに、もっとシアを独占したくてたまらない。僕だけのシアでいてほしいんだ。でもそれはシアを幸せにはできないだろうし、シアの笑顔も守れないだろう。
うん、クララ嬢の言う『いちゃいやしていて下さい』だな。僕はシアを堪能できて満足できるし、シアも笑ってくれる、それに悪い虫への牽制にもなるよね。分かり易くシアは僕の物アピールも兼ねて、いちゃいちゃしていこう。
あっ、でも冬休みだ。学園での様にシアに毎日は会えないな。早く学園が始まらないかな。
今何しているかな。
会いたいな、シア。




