90. 冬花祭⑮ わんこを拾います
「はい、おめでとうございます。お二人にもう一度祝福の拍手をお願いします。」
ヴィルノアは外向き笑顔で司会進行していった。
会場からは温かい拍手がクララ達に送られた。
「ありがとうございます。白薔薇をお持ちの皆様、ベンジャミン殿とクララ嬢に続いてくださいね。白い薔薇のオーナメントのコサージュはご自由にお使いください。ステンドグラスに光が差し込み、幻想的な雰囲気を醸し出すのは、あと一時間程度です。上手に活用してくださいね。是非、白い薔薇二本、赤い薔薇四本を髪に又は胸につけてお帰り下さいね。僕のように。」
ヴィルノアは外向きの作られた笑顔から幸せそうな笑みに変え、自身のコサージュを取り、目を伏せ、優しく口付けをおとした。
ヴィルノアの色気ある仕草にきゃあっという声が会場のいたるところから上がった。
「僕の幸せを皆様にお裾分けできるといいです。それでは引き続きパーティをお楽しみください。」
ヴィルノアは胸に手を当て礼をした。
皆がそれぞれ歓談に入ると、クララとベンジャミンがヴィルノア達のもとにやってきた。
クララはぷくっと頬を膨らませて、言った。
「殿下、聞いてませんよ。こんな演出をするなんて。」
「ベンジャミン殿とは少し打ち合わせをしてありましたよ。」
「私とは?なかったですよね?当事者だったのに。もう汗かくは、内心パニックだわで大変でしたよ。だって、この私にロマンスですよ。びっくりです。」
「ふふっ、でもOKしてたよね。」
ヴィルノアの横にいたフェリシアが楽しそうに言った。
「ベンジャミン様、クララおめでとうございます。」
ベンジャミンは少し頬を赤らめ、顔をクシャっとさせて笑った。
「ありがとうございます。殿下に背中を押してもらって頑張れました。」
「お役に立てたなら幸いです。」
ヴィルノアは外向きの笑顔で答えた。
「いやぁ、てっきり断られると思っていたので、OKしてもらえて嬉しいのですが、今は驚きの方が勝っています。」
ベンジャミンは指で頬をかいた。
フェリシアはふふっと笑った後、素朴な疑問をクララにぶつけた。
「ねぇ、クララ。こんなこと聞くのは何なんだけど、クララってベンジャミン様のこと好きだったの?」
クララはハハッっと乾いた笑いの後に、言った。
「嫌いじゃなかったですよ。クラス委員としていつも一緒に頑張ってきたのです。だから彼が働き者で実直ないい人だって良く知っています。正直、私は恋に興味がなく、クラスのことや商売のこと考えていた方が楽しいのです。誰かに想いを寄せているわけではありませんしね。それに、私に想いを寄せる奇特な方がいるなんて思いもしなかったですしね。でもさっき彼は告白してくれました。最初は何かの間違いでしょう、とか、私に告白するなんて変わった人、とか思ったんですよ。でも、ダメって聞いてきた時、見えっちゃったんです。」
クララは眉を下げて笑った。
フェリシアは意味が分からず、首を傾げた。
「何が見えたの?」
クララは指を揃えた両手を頭の上にまるで動物の耳の様に置き、言った。
「わんこの耳です。」
「わんこの耳?」
「そうです、わんこの耳。ダメって聞いてきた彼の頭の上に垂れ下がった耳が見えたんです。きゅぅーんというわんこの声も聞こえたかのようでした。なんか、かわいくなっちゃって、OKするしかないって思っちゃったんですよね。へへっ。」
「ベンジャミン様がそう見えたの?」
「ええ。フェリシア様も見れば分かります。見せてあげますね。」
クララはヴィルノアと話をしていたベンジャミンの袖をくいっと引いて、言った。。
「お話し中、失礼します。あのね、告白してくれてありがとう。嬉しかったよ。」
ベンジャミンは目をぱっと見開いた後、クシャっと顔を緩ませて笑った。
「うん、僕もクララがOKしてくれて嬉しい。ありがとう!」
二人はにっこり微笑み合った。
「あっ、お話中断させてすみませんでした。お話を続けて下さい。」
クララはベンジャミンとヴィルノアにそう言うとフェリシアと向き合った。
「ねっ、どうでした?見えました?」
フェリシアはうんうんと首を振って、言った。
「見えた!ピンと立った耳とぶんぶん振っているしっぽが見えたよ!」
「でしょう。かわいくないですか?」
「うん、分かるよ。」
二人はふふふっと笑った。
「楽しそうだね。」
ヴィルノアがフェリシアの腰をぎゅっと抱き、自身に寄せた。
「うん、クララがね、ベンジャミン様がわんこみたいでかわいいっていうのよ。私もそう思うの。」
「えっ、僕って犬みたいですか?」
ベンジャミンが眉を下げた。まるでわんこが耳をへたぁと下げ、尻尾も床にペタッとくっついているかのように見えた。
フェリシアはクララと視線を合わせうんうんと頷き合った。
「ふふっ、わんこ、かわいいじゃないですか。クララにOKしてもらえたのですから、いいじゃないですか。」
「うん、そうだね。これから男として頼りにしてもらえるように頑張るよ。」
やっと緊張がほぐれてきたようで、言葉がラフになったベンジャミンの頭にはピンと立った耳と同じくピンっと立ったしっぽが見えた。忠犬のようだとフェリシアは思った。
「応援しています。」
ヴィルノアは真剣な顔で言った。ベンジャミンの言葉に近視感を感じたようでエールを送っていた。
「ふふっ、これから私もベンジャミンの彼女として彼をもっと知る努力をします。そしていつか殿下たちみたいにいちゃいちゃできるように頑張りますね。」
クララがにこっと茶目っ気たっぷりに言うと、ベンジャミンはクシャっと笑って、尻尾をぶんぶん振った。




