88. 冬花祭⑬ 四本の薔薇
白薔薇組向けのダンスが終了し、楽団がダンスミュージックからセレナーデに演奏を変えた。
「行こうか、シア。」
ヴィルノアはフェリシアに手を差し出した。フェリシアは反射的に自身の手を重ねた。
「えっ、行くってどこに?」
「うん、こっち。」
ヴィルノアは赤い薔薇で作られたモニュメントの前にフェリシアをエスコートした。
クララは二人がモニュメントの前に到着したのを確認すると、明るい声でマイクをもって話し始めた。
「皆様、ダンス、お疲れさまでした。楽しんでいただけましたか?さてここで、もう一つの隠れイベントをお楽しみいただきたいと思います。今回のこのパーティのテーマの一つが愛であることはご承知いただいてるかと思います。その為、パートナーのいらっしゃる方には赤薔薇を二本つけて頂いております。赤薔薇の花ことばは愛情、二本の薔薇の意味は相思相愛です。これを踏まえた上で窓際の赤い薔薇のモニュメントの前のお二人にご注目ください。」
クララは大きく腕を振り、みんなの視線をヴィルノア達に誘導した。
「えっ、えっ、な、何?」
フェリシアは何事か分からず、多くの視線が自分たちに集まるのを感じきょろきょろと周りを見渡した。
ヴィルノアはコホンと小さく咳払いをしフェリシアの気を引くと、軽く微笑んでフェリシアに言った。
「シア、二本の薔薇は相思相愛、この世界は二人だけって意味だって言ったよね。覚えてる?」
「うん、素敵よね。」
「そうだね。恋人同士にはぴったりの意味だよね。シア、髪飾りをいったん貸してもらってもいい?」
「うん、構わないけど何するの?」
「この髪飾りのここに小さい金具があるでしょう。僕の胸のコサージュにも小さな金具がつけられていて、髪飾りにつけることができるんだ。ほら、こんな風にね。」
ヴィルノアは自身の胸につけられたコサージュを外し、フェリシアの髪飾りにカチリと取り付けた。
「ね、四本の薔薇になった。四本の薔薇の意味は知っている?」
「ううん、知らないわ。」
「四本の薔薇はね『死ぬまで気持ちは変わらない』だよ。僕の気持ち、そのままなんだ。受け取ってくれるかな?」
ヴィルノアは片膝をついて、薔薇が四本になった髪飾りに軽く口づけをした。そして両手でフェリシアに髪飾りを差し出した。
フェリシアは口元を両手で抑えていたが、両手を伸ばし薔薇を持つヴィルノアの両手を包んだ。
「私でいいのかな。本当に私でいいのかな?」
「シアがいい。シアしかいらない。受け取ってくれる?」
「はい・・・嬉しい、ありがとう、ノア。」
「ありがとう、シア。大好き。」
「うん、知ってる。私も好きよ、ノア。」
フェリシアは頬を赤らめ、感激のあまり一粒の涙をこぼし微笑んだ。
「僕がつけてもいい?」
「うん。お願い。」
ヴィルノアは立ち上がると、フェリシアの髪にそっと髪飾りを付けた。
そしてフェリシアの涙を親指でそっと拭うと、頬に優しく口付けをした。
「シア、かわいい。似合っているよ。」
「ありがとう。」
「ねぇ、シア。もし同じ気持ちを返してくれるなら、そこのモニュメントのコサージュを僕につけてくれないかな。」
ヴィルノアは赤い薔薇で作られたモニュメントを指して言った。モニュメントはよく見ると四本の薔薇とかすみ草、ユーカリで作られたコサージュで構成されていて、コサージュは取り外せるようになっていた。
フェリシアはこくんと頷くと一つコサージュを取ってヴィルノアの胸ポケットに差した。
「あっ、ノア、髪飾りの茶色いリボン、外してくれる?」
「うん、何するの?」
ヴィルノアがするっとリボンを外してフェリシアに渡した。フェリシアはそのリボンをヴィルノアのコサージュにつけた。満足気ににっこり笑ってフェリシアは言った。
「ふふっ、私の色ね。これで、ノアは私のノアね。」
「・・・嬉しいな。僕はシアのものだよ。」
二人は手を取り合って微笑んで見つめ合った。
ステンドグラスを通した光は幾重もの色で輝き、二人を包んでいた。それは、まるで一枚の絵画のように、美しい光景であった。
すっかり二人の世界で展開された四本の薔薇イベントを、会場の全員が息を飲んで見つめていた。そして最後に手を取り合う二人とステンドグラスを通した光の美しさに、会場のあちらこちらからふぅと感嘆のため息が聞こえた。
「あぁ、ヴィル、腹黒いなぁ。」
エリックは呆れた声で言った。
「そうですね。明らかにフェリシア狙いの男共へのけん制ですね。」
オスカーは自身の眼鏡をくっと押さえた。
「さっきも沢山の男に言い寄られてたからな。」
シルビアもサラっと言った。
「でもとても素敵でしたわ、ヴィルノア殿下。フェリシアも感激していましたわ。」
エリザベスは頬に手を当てふぅと小さく息を吐いた。
「エリザベスはああいうの好きなのか?」
エリックは少しだけ不機嫌そうな声で言った。
「ええ、大好きです。まるで小説のようではありませんか。ステンドグラスを通した光が幻想的ですし、お二人とも美男美女で絵になりますわ。素敵です。」
エリザベスはうっとりとした目で言った。エリックの不機嫌そうな声には気付いていないようだった。
「そうか・・・。」
エリックは自身の顎に手を当て考え込んでいた。




