86. 冬花祭⑪ いちゃいちゃしていてください
「なぜこの絵が一位なのかしら。恥ずかし過ぎる・・・。」
フェリシアは両手で顔を覆った。
クララはにやにや笑いながら言った。
「ほら、お二人は毎回お膝抱っこでしょう。というか、いつの間にか殿下がお膝抱っこでミーティングに参加されていますでしょう。この様子、大人気の光景となっているんですよ。知っていました?人目もはばからず、いちゃいちゃしているので普通は周囲からは反感を買うところなんですよね。でも普段無表情な殿下がフェリシア様の前では幸せそうな笑みを浮かべていらっしゃいますでしょう。それに対してフェリシア様の恥じらう姿がかわいらしいと、ほとんどの者が好意的にとらえているんです。で、急遽お二人のこの構図の姿絵を描いてもらい、追加したんです。ほら、お二人にはお二人の絵の販売をしていいと許可して頂きましたでしょう。それがこれです。そうしたら、私の見込み以上の反響です。予約制にして良かったですよ。予測で発注掛けて売り出していたら、即売り切れるところでした。あっ、これ、出来上がり次第お二人にはプレゼントしますね。」
クララの満面の笑みはよっぽど多くの注文が入ったと分かるものだった。
「因みにこんなのもあるんですよ。」
クララはにやっと笑ってもう一枚を取り出した。フェリシアは一目見てものすごく慌てた。
「うわぁぁ、だめぇ!」
フェリシアは急いで手を乗せ絵を隠した。
「シア、見えない。手、どけて。」
「いやっ!」
ヴィルノアが手をどけようとしてもフェリシアはどけなかった。
フェリシアの手をどけることを諦めたヴィルノアは、フェリシアの手からはみ出たカードの端を摘まみ引き抜いた。
「あっ。」
ヴィルノアは頬を少し赤らめつつも嬉しそうに姿絵を見た。
「いいね、これ。良く描けているね。特にシアの表情が・・・すごくいい。あの時、シアはこんな顔していたよね。」
「ふふっ、そうなんですか?私は見てないので何とも。あとから聞いて、見たかったなぁって思っていたら、この作者の方がこの絵を持ってきてくださったんです。この作者の方一年生で、たまたまこの光景を間近で目撃したそうなんです。で、見逃すまいとガン見して、即スケッチに起こしたそうです。でもこれは販売からは外してあります。作者の方からヴィルノア殿下にあげてほしいと言付かっています。殿下のファンらしいです。それにフェリシア様が嫌がりそうだなぁと思いましたので。」
「絶対いや!」
フェリシアは恥ずかしさで頬を真っ赤に染めて言った。
その見せられた姿絵は定期考査の結果発表の後の、ヴィルノアからのキスの後を描いたもので、切なげな優しい瞳の色香漂う面持ちのヴィルノアと涙目でとろんとした顔のフェリシアが見つめ合っているものだった。
「これ、ありがたく頂きます。是非この作者を紹介してください。」
ヴィルノアは姿絵を大事そうに胸ポケットにしまった。
「はい、今度紹介しますね。」
「是非、イベント前にお願いします。」
「了解です。」
クララは素早くメモを取った。
「うううぅぅ・・・。」
フェリシアは顔を両手で覆って俯くことしかできなかった。
「あぁ、そうそう。二番人気はフェリシア様にお借りした王子様三人の幼少期の物です。とてもレアだと大好評でした。それに、かわいいですよね、王子様達。」
「そうだよね。もう小さい時のノアはお人形さんみたいにかわいくて、エリックはガキ大将のくせに整った顔をしていてそれなりに格好良くて、テオ兄様は昔も今もものすごく格好良くて素敵なの。それに昔からテオ兄様は爽やかな香りがして落ち着くの。」
フェリシアは楽しそうに幼い頃の王子達を思い出して話した。
ヴィルノアはむっとした表情でフェリシアに回した腕に力を込めて言った。
「シア、テオ兄上がそんなに好きなの?」
「うん、大好き。」
フェリシアはにっこり笑った。
ヴィルノアはフェリシアの肩に自身の頭を摺り寄せて言った。
「だめ。テオ兄上を大好きなんて言わないで。」
「何言ってるの、ノア。テオ兄様のことは昔から好きなの知っているでしょう。」
「知っているけど、だめ。兄上をそんなに好きにならないで。」
「んっ、もしかしてやきもち妬いてるの?そんな必要ないよ。テオ兄様への好きはジル兄様を好きなのと同じだよ。家族愛みたいな好き。分かるでしょう。」
フェリシアはヴィルノアの頭を優しく撫でた。
「・・・分かっているけど、やっぱりだめ。大好きなんて言わないで。」
「んー、無理。テオ兄様を大好きなのは本当のことだもの。好きなものは好き。でもね、ノアに対する好きが特別な好きって分かっているでしょう。」
「分かっているけど・・・好きは僕だけに言って。」
「うん、無理。みんな好きだから好きって言いたいもの。でもノアは特別なんだよ。分かっている?知っているよね。」
だんだんフェリシアの声に苛立ちが含まれていった。
「・・・でも嫌だ。僕だけに好きって言って欲しい。」
フェリシアの中でプチっと何かが切れた。無理やりヴィルノアの腕を解いて立ち上がると、座るヴィルノアの前に腰に手を当て仁王立ちをした。
「ノアっ、いい加減にしなさい!私がノアを好きって言っているのに、信じられないの?ノアの独占欲むき出しなのも、分かり易いヤキモチも嬉しいけど、私の好きを取り上げるノアなんて大っ嫌いっ!」
ふんっ、と鼻息荒く一気にまくし立てたフェリシアは不機嫌そうにヴィルノアを見下ろした。
「だ、大嫌い・・・。」
ヴィルノアは呆然とした顔でフェリシアを見た。
「シアは僕を大嫌い?」
「うん、嫌い。私が好きって言っているのに信じてくれないノアなんて嫌い。今日だけじゃなく明日も明後日もずっと好きって言ってるのに信じてくれ、ない、なんて・・・大、きら・・・いっ・・・。」
フェリシアはぼろぼろと大粒の涙をこぼした。ヴィルノアは慌てて立ち上がり、フェリシアをぎゅっと抱きしめた。
「ごめん、シア。シアを悲しませるなんて・・・僕は僕が許せないよ。シアの気持ちを疑ったことなんて一度もないよ。でも、僕だってシアに好きって言ってもらうのにすごく時間がかかっていたのに、兄上は簡単に大好きって言ってもらえるなんて、羨ましくて・・・シアを悲しませるつもりはなかったんだ。僕が幼過ぎただけなんだ。許して、シア。・・・シア、嫌いにならないで。」
ヴィルノアは切なそうに言葉を絞り出した。
フェリシアはヴィルノアの背をトントンと叩いた。
「私も大嫌いって言ってごめんね。ノア、好きよ、大好き。ノアは私の初恋の人なんだよ。初めて男の人を好きになったから、正直どうしていいか分からないことが多いけど、私なりに頑張っているから、ね、テオ兄様を好きって言わないでとか、あんまり無理言わないでね。」
「うん、シア。大好き、シア。」
「うん、知ってる。」
周囲にいた実行委員のメンバーたちはハラハラしながら二人のやり取りを見守っていた。
クララはふぅっと小さく息を吐き出すと微笑んで言った。
「はい、仲直りしたようで良かったです。ハラハラするよりはいちゃいちゃがいいです、お二人のいちゃいちゃを生温かい目で眺めていたいです。殿下、いちゃいちゃ希望です。」
「うん、お騒がせしました。僕が子供過ぎでした。」
ヴィルノアはひょいっとフェリシアを抱き上げお膝抱っこで座った。そして嬉しそうに微笑んでヴィルノアはぎゅっとフェリシアを抱き締めた。
「シア、大好き。」
「うん、知ってる。」
フェリシアは顔を赤らめた。
「殿下、それです。いちゃいちゃですよ。いちゃいちゃ。」
「はい、ずっとシアを愛でます。まずは冬花祭で頑張ります。」
「期待していますよぉ、殿下。きっちり盛り上げて下さいね。」
クララは黒い笑顔を浮かべて言った。
「ふふっ、応援しています。」
ヴィルノアは外向きの笑顔を作って頷いた。




