84. 冬花祭⑨ いちゃいちゃ
「お前ら、こんなところで何してるんだ?」
エリックの呆れた声に、ぱっとフェリシアは振り向いた。
「エ、エリック。見ていたの?」
視線をエリックの後ろに向けると、シルビア、オスカー、エリザベスもいることに気が付いた。
「見てたの、じゃないだろう。ここ掲示板の前だぞ。嫌でも目に入るわ。」
「・・・掲示板の前なの忘れてた・・・。」
「なぁにやってるんだ。見てる方が恥ずかしいぞ。」
「・・・ノアがね、一位のご褒美頂戴って言うんだもの。」
「ここである必要はないだろうが。」
「うん、今思えばそうだね。だけど、ご褒美は約束だからやんなきゃって思って、それでいっぱいになっちゃって、頑張ったら・・・こんなことに・・・。だって、今頑張るって、勢いがないと、もう無理って・・・。うわぁ、こんなに人がいたぁ。」
周囲の生徒たちの存在に気付き、フェリシアは顔を両手で覆った。
周囲の者達、定期考査の結果はほぼ学年の全員が見ていたのでこの場には一年生の全員が’いたとみていい、はあっけにとられたらしく黙って事の成り行きを眺めていた。
「お前なぁ、頑張るのは結構だが公衆の面前だぞ。学園だぞ。もうちょっと場所は選ぶべきじゃないか?それに今の、フェリシアのファーストキスだろう?ロマンチックの欠片もないんじゃないか。いいのか?」
「・・・そうだった。」
「それに、多分ヴィルにとっても初めてのキスだぞ。ほら、固まったまま動かなくなっているぞ。」
エリックが顎でヴィルノアの方を差した。
フェリシアが焦ってヴィルノアを見ると、呆然と立ち尽くしているのが目に入った。
「ノ、ノア?こんなご褒美じゃだめだった?ねっ、ノアったら。」
フェリシアはヴィルノアの顔の前で手を振った。
「ねっ、ノアっ。」
はっと突然生き返ったかのように動き出したヴィルノアは、フェリシアの顎を持ち上げ、とろんとした瞳でフェリシアを見た。
「シア、大好き。」
「えっ・・・。」
フェリシアは何が起きているのか理解できないまま、ヴィルノアのなすがまま自身の唇にヴィルノアの唇が優しく重ねられていた。そして少しだけ長い口付けの後、ヴィルノアは切なげでありながら大事なものを優しく見る目をして離れがたそうにフェリシアから離れた。フェリシアは予想だにしない出来事に目を見開いたままだったので、ヴィルノアの色香漂う顔に釘付けとなった。フェリシアはぽぉっとのぼせたような顔をしていた。ヴィルノアはフェリシアの顔を見て、はっとした顔をしたかと思うと、慌ててフェリシアを抱き締めた。
「そんな顔、他の人に見せちゃだめだよ。」
「・・・そんな顔?」
フェリシアはぽぉっと呆けた声で聞いた。
「すごくかわいい顔。キス、そんなに良かった?」
ヴィルノアはフェリシアの頭に自身の頬を摺り寄せた。
フェリシアはヴィルノアの服をぎゅっと掴むと小さく消え入りそうな声で言った。
「・・・ノアのばかぁ。」
「ははっ、かわいい。シア、大好きだよ。」
「し、知って、る、よ。」
ヴィルノアの胸元に顔を押し付けたまま、フェリシアは片言で返した。
「おーい、ヴィル。ここに居るのは二人だけじゃないぞ。学園だぞ。」
エリックが呆れた声で言った。
「あっ、兄上。」
ヴィルノアは満面の笑みを浮かべてエリックを見た。
「あっ、兄上じゃないだろう。フェリシアもフェリシアならヴィルもたいがいだな。」
呆れ顔のエリックの横からシルビアはひょいっと顔を出し言った。
「良かったな、ヴィル。」
「ありがとう、シルビア。おかげさまでご褒美もらえたよ。」
ヴィルノアはフェリシアの頭に頬を摺り寄せながら嬉しそうに言った。
シルビアは少しだけ口角を上げ優しげな瞳でヴィルノアを見て、頷いた。
「それにしてもヴィルノア殿下、満点だなんてすごいですわ。」
エリザベスは頬に手を当てほぅと息を吐いた。
「解答欄を全部埋めただけです。ご褒美の為に全部回答しました。」
ヴィルノアはさらっと言った。エリザベスはあっけにとられつつ言った。
「まぁ、そうなんですのね・・・。でもお貸しした本がお役に立ちませんでしたね。」
ヴィルノアは口角を少し上げて言った。
「いいえ、あれは参考になりました。本当は後日ご褒美として例のシーンの再現をと思っていたのですが・・・シアの方が一枚も二枚も上をいっていました。シアはいつも僕の予想を飛び越えていくので・・・。」
「ふふっ、フェリシアですものね。でも、殿下は彼女の予想外の行動を楽しんでいらっしゃるように見えますわ。」
「はい、シアが大好きなものなので。」
「まぁ、フェリシアではないですが、わたくしも知っておりますわ。」
「ははっ、僕もエリザベス王女が兄上に夢中なの知っていますから、お互い様ですね。」
上機嫌のままヴィルノアは珍しく軽口をたたいた。
エリザベスは頬を赤らめ、両手で自身の頬を覆った。
そんなエリザベスの様子を見て、エリックは嬉しそうにエリザベスの腰を抱いて自信に引き寄せた。
「当たり前だ。」
「ははっ、兄上も夢中でしたね。お似合いです。」
「だろう。」
少しだけ頬を赤らめたエリックは優しいまなざしでエリザベスを見た。エリザベスはきれいな微笑みをエリックに返して言った。
「嬉しいですわ、エリック。」
「そ、そうか。かわいいな、エリザベス。」
にかっと笑ってエリックは言った。エリザベスは耳まで赤く染めた。
「我が国の王子様達は人が大勢いても関係ないようですねぇ。」
バルトがぼそっとぼやくと、ヴィルノアは真顔で言った。
「そうかも。シアしか見てないから気にならないよ。」
しれっとさも当たり前のことといった感じで言うヴィルノアに、バルトはヤレヤレと大きくため息をつくしかなかった。
息を飲むようにヴィルノア達を見ていた周囲の者は婚約者とイチャイチャする王子様達をただただ生温かい目で見守ったのだった。




