82. 冬花祭⑦ 姿絵を売りましょう
「ほら、やるぞ。ああ、今日に限って俺は何で一人なんだ。早く終わらせて、エリザベスのところに行くぞ。」
エリックは二人を見てぼやいた。
「ふふっ、エリックも変わったわね。」
「何とでも言ってくれ。あぁ、選べないって言っていたの分かるな。どれもそれぞれ違った良さがあるな。」
「でしょう。」
「なぁ、これ全部張り出して事前に注文取らないか?注文は先払いにしてもらって、年明けに注文品をそれぞれに届けるんだ。そうすれば注文の集計をしてから必要な分を印刷すればいいよな。無駄がなくてよくないか。それに当日、買うために並んだりっていう時間の無駄もなくなるだろう。」
「それ、いいね。クララに提案してみるね。」
フェリシアはクララの元に行こうとしたが、ヴィルノアががっちりつかんでいて動くことができなかった。
「ノア、一旦離して。クララのところに行ってくるから。」
「・・・クララ嬢ね。クララ嬢。」
ヴィルノアがクララに向かって呼びかけると、そんなに大きい声でもないのにクララは振り向き、こちらに早足でやってきた。
「何でしょう、ヴィルノア殿下。」
「商売の話ですよ。」
「まぁ、何でしょう。」
クララはにんまりとした笑みを浮かべた。
「兄上、説明を。」
エリックはクララの笑顔に苦笑いをしつつも、姿絵を注文制にすることを説明した。
「いいですね。その案、頂きです。来週一週間姿絵を張り出して、再来週の入場券販売と共に、姿絵の注文を取りましょう。事前支払いにして・・・無駄が出なくてとてもいいですね。とすると姿絵掲示の準備、注文票、支払方法と受取方法、と、こんなものですかね。うん、やれそうです。一つ姿絵専門に扱うチームを作りましょう。この姿絵販売は初めてのこと尽くしで、正直どこまで売れるか未知数なんですよね。専業絵師以外の生徒の絵を採用していますし、大きさもトランプなどのカードサイズと通常の姿絵より格段に小さいです。また、題材もクラスの生徒とテオドール殿下とジルベール様といったクラスメンバーの身内の方ですし、どのくらい印刷をすればいいか、考えあぐねていたんですよね。この方法なら、無駄なくできそうですね。ああ、そうそう、殿下方にご相談があるのでした。以前フェリシア様に見せていただいた王子様方の幼少期の姿絵も使わせていただきたいのですが、許可を取っていただけませんか?」
「あぁ、あれか。俺はいいが、兄上と絵師に聞いて、一応陛下と宰相にも言っておくかな。ヴィルはいいよな?」
エリックがヴィルノアに尋ねると、ヴィルノアはこくんと頷いた。
「うわぁ、ありがとうございます。あれ、すごくいいですよ。中々レアです。」
「三人の王子様の子供の頃だもんね。」
フェリシアもうんうんと頷いた。
クララは立ち上がり、次の仕事に取り掛かるべく動き出した。だが、すぐ立ち止まり、はっと何かを思いだしたようで、クララはポケットの中からカードサイズの革でできた物を取り出した。
「以前ヴィルノア殿下がこんなの欲しいっておっしゃっていましたでしょう。なんか売れそうなんで作ってみました。試作品です。どうでしょう?」
クララは試作品をヴィルノアに渡した。渡された物はカードより少し大きい作りで折り畳み式になっていた。開くと両側に一枚ずつカードが入るようになっていて内側の革はカードより一回り小さくくり抜かれていて、カードが見えるようになっていた。
「ほら殿下、ここに紐を通せば鞄にもつけられます。このケースに入れればカードも傷めません。写真立てのようにガラスを使いませんので割れる心配もなく、何より軽いです。二つ折りですので少し開いて机の上に立てることが可能です。」
クララはセールスマンの様にてきぱきと説明をしていく。
「どうです?革ですので色を変えることも可能です。また型押しなどの装飾を入れることも可能です。」
ヴィルノアは見本のフェリシアの姿絵カードをケースに実際入れてみた。その上で開いて机に立ててみたり、畳んで胸ポケットに入れてみたり、どこから出したのか紐を取り付け鞄につけたりと、いろいろ試して言った。
「いいですね、これ。革を使っているから軽いし、姿絵が傷まない。使いたくなる品です。ただ中は長方形にくり抜くだけじゃなく、楕円でもいいんじゃないかな。楕円にして周りを花とか蔦とかの装飾を入れると中に入れた姿絵が引き立って良くないですか。それとポケットに入れると角が引っかかるから角には丸みを持たせるといいよね。あと鞄につけると開いてしまうから留め具が必要かな。ああ、一枚だけ入るようにして、見開きにしないっていうのはどう?その一枚用には鞄につけることを想定して予め紐をつけておいて、見開きの物はポケットや鞄に入れたり机の上で楽しむから紐通しの穴は付けない。」
「なるほど・・・。」
クララはメモを取りながら相槌を打った。
「ありがとうございます。参考になりました。間に合えば年明けに注文品の姿絵を渡すのと同時に販売したいと思っているのです。改良品ができましたらまた見て下さいね。」
「僕も欲しいから協力しますよ。」
「あの、クララ私からもいいかな?」
フェリシアはクララとヴィルノアの会話に割って入った。
「話に出ていた鞄につける一枚用の、ね、形をハート型にできないかな?それかこの窓の部分をハート型にできないかな?」
フェリシアは両手でハートを作って、もじもじしながら言った。
「でね、赤い革で作ってもらえると嬉しいんだけど。・・・作って欲しいな、わたし用に。」
クララはにたぁっと笑うと言った。
「ふふ、恋する乙女の目線はいいですねぇ。作ってみますね。ふふ、いっそのことフェリシア様がデザインしますか?フェリシア様デザインっていうだけで売り上げが・・・あっ、失礼。お任せください。」
「あ、ありがとう。」
フェリシアはにっこり笑った。
クララもにっこり笑い返した後、次の作業へと向かって行った。
「じゃぁ、これで終わりだな。」
エリックもさっさと立ち上がって行ってしまった。
「ねぇ、シアはそのケースができたらどれ入れるの?」
ヴィルノアが広げられた姿絵の見本カードを指さし聞いた。
「・・・赤いハートなんだよ。ノアのに決まっているでしょう。」
頬を赤く染めたフェリシアは両手で頬を押さえた。そして姿絵の上に視線を彷徨わせた後、言った。
「ん-、これかな。」
フェリシアが選んだのは三頭身にデフォルメされたヴィルノアの姿絵だった。
「面白い描き方だね。写実的じゃないのに僕だって分かるね。」
「うん、かわいいと思うの。」
「あっ、シアのもある。かわいいね、これも。僕もこれ買って入れようかな。」
「ふふっ、お揃いだね。」
「いいね、お揃い。シア、大好き。」
「うん、知ってる。」
二人は顔を見合わせて微笑み合った。
忙しい中も、周りを気にせずいちゃいちゃする二人をクラスの者たちは好意的にとらえていた。というのも、普段無表情なヴィルノアがフェリシアを前に始終幸せそうな笑顔を見せていたヴィルノアに毒気を抜かれてしまったのだった。ただでさえ王家の者は顔が整っているところに、あの笑顔だ。多くの者が虜になってしまう美しさで、さり気なく見学に来る者までいた。しかもフェリシアがその笑顔に気付かないばかりか、いちゃいちゃしているという自覚がないのだ。さすが姫と言われていた。多くの者は鑑賞して楽しみ、生温かい視線で二人を見守った。そしてまだ決まった相手がいない者は切に恋人が欲しいと願い、イベント準備に力を入れるのだった。




