81. 冬花祭⑥ 姿絵選定
毎日、実行委員のメンバーは話し合いを重ねた。
その際、フェリシアを求めてやってくるヴィルノアの為に椅子が用意されたが、いつもフェリシアを抱きかかえて座るので使われることはなかった。初めのうちは、きゃぁっとざわめきが周囲から起きていたが、だんだんといつもの光景として受け入れられていった。そして椅子も用意されなくなった。
「うわぁ、慣れって怖いな。フェリシア、お前何とも思わないのか?この状況はどう見てもおかしいだろう。」
エリックはお膝抱っこされているフェリシアに引き攣った顔で聞いた。
フェリシアはヴィルノアに抱えられたまま、販売する姿絵の選定をしていた。
「何が?あぁ、でもいいところに来てくれたわ。今、姿絵を選んでいるんだけど、どれも良くって選べなくて困っていたの。エリックも、手伝ってくれない?」
「ああ、それは構わないけど、さ。それより後ろにヴィルがくっついていて、気にならないのか?」
「ああ、これ?最初は恥ずかしかったけど、もう何を言っても離れてくれないし、みんなも気にしていないようだから、もういいかぁって感じかな。」
「兄上、余計なこと言わないで。」
ヴィルノアはフェリシアの肩に顎を乗せて言った。
エリックはどこからか椅子を持ってきてフェリシアの向かいに座ると、呆れ顔で言った。
「ヴィル、ここは教室だぞ。フェリシアも作業がしにくくて、邪魔しているだろう。」
「邪魔?僕が?シア、僕って邪魔?」
ヴィルノアが不安気にフェリシアを見て、尋ねた。
フェリシアは苦笑いを浮かべ、眉を下げた。
「邪魔じゃないけど、この状態は恥ずかしいし動きづらいかな。」
「嫌?」
「嫌って程じゃないけど・・・。」
フェリシアは多少自覚してはいるが、いつでも不安気なヴィルノアの顔に弱い。
「そう、だったらこのままでもいいよね。」
ヴィルノアはにっこりと微笑んで、フェリシアに回した手に力を込めた。
フェリシアは思わずヴィルノアの頭を撫でていた。
エリックはそのやり取りを呆れ顔で見ていた。
「お一、フェリシア、これ以上ヴィルを甘やかすんじゃない。ヴィルもフェリシアがお前の不安気な顔に弱いこと分かっていて、つけ込むんじゃない。」
「えっ、甘やかしている?エリックが気にかけてやれって言ってたから・・・。これって気にかけているだけだよね。」
「ベタベタに甘やかしているようにしか見えないぞ。程よくと言っただろう。」
「・・・エリックだってエリザベスに甘々なくせに。」
「!!それとこれとは関係ないだろう!」
「私知っているんだ。図・書・館・デ・ェ・ト。」
「な、なぜ、それを・・・エリザベスか?」
「ふふっ、違うわよ。エリザベスに聞いたら真っ赤になって、かわいくうつむいっちゃって何も言えなく
なったのよ。あの日たまたま図書館に居た子たちが教えてくれたんだ。」
「たちって、うわぁ、見られてたのかぁ・・・。」
「ふふっ、王子様と王女様ですからね。目立つのも当たり前でしょう。図書館に居た子達はみんな二人の仲良くしているとこ目撃して、気付かないふりをしていたらしいわよ。二人がイチャイチャするのを見て楽しみましたって、言ってたわよ。エリックもノアも大差ないじゃない。」
「!!・・・そ、そうかなぁ。」
「そうだよ。あっ、耳赤いよ。」
「ううううぅ、見るなぁ。」
「ふふふっ。」
エリックは耳を手で押さえて机に突っ伏した。
フェリシアは指でエリックの頭をつついた。
「二人とも仲がいいよね。」
ヴィルノアは不機嫌そうに言った。
フェリシアはふぅっと小さく息を吐くとヴィルノアの頭を撫でて言った。
「はいはい。エリックとは幼馴染だもの、仲がいいのは当たり前でしょう。それに将来のお兄様よ。仲がいい方がいいでしょう。私とノアも仲良しでしょう。ねっ、拗ねないの。」
「・・・うん。」
ヴィルノアはフェリシアに回した腕にぎゅっと力を込めて言った。
「シアと一番仲がいいのは僕がいい。」
「あらっ、こんな風にしていて一番じゃないとでもいうの?」
おどけた風にフェリシアが言うと、ヴィルノアはフェリシアの頬にチュッと軽くキスをして満足気に言った。
「うん、一番だった。」
「ふふっ、分かればよろしい。」
フェリシアとヴィルノアは顔を見合わせ微笑み合った。
がばっとエリックは頭を上げた。
「あああぁ、ほら、早く仕事終わらせるぞ!早く終わらせて、エリザベスのところに行くんだ。さぁ、いちゃついてないでヴィルも手伝え。何枚選べばいいんだ?」
エリックは素早く見本の姿絵を並べ始めた。
姿絵を描きたい人を募集したところ、何人か声を上げてくれた。そしてそれぞれが画風が違い、素人ながら上手でそれぞれに味があった。
「ええっと、エリック、エリザベス、ノア、シルビア、オスカー、それに私でしょう、それからテオ兄様、ジル兄様かな。二種類ずつ選んで欲しいっていわれてるよ。それと、王子様三人のとエリックとエリザベス二人のと私とノアの二人のもって。欲しい人なんているのかしら、私とノアのなんて。ねぇ、ノア。」
「さぁ、どうだろう。でも売れなくても僕が全部買うからいいよ。」
「一枚あれば充分じゃない?」
「うん、そうだけど、いいよ。二人で描かれるって嬉しいから、ね。。」
ヴィルノアは嬉しそうにきれいに微笑んだ。フェリシアはその笑顔は反則だなぁと心の中で呟いた。
「ノアがそう言うのなら、いいかな。」
「なぁ、兄上の婚約者のアンナ嬢のはないのか?俺やヴィルと婚約者って組み合わせがあるのに、いいのか?」
エリックが首を傾げた。
「うん、無しでって。テオ兄様がアンは僕だけのものだから他の男が買うかもしれない姿絵はだめだっておっしゃったの。アンナお姉様はいいとおっしゃっていたんだけどね。仲良しなの、テオお兄様達。」
「そうか、そうだよな。俺らの兄上だもんな。ヴィルはいいのか?」
「・・・嫌だけど、シアがやりたいっていうから仕方ないよね。」
「惚れた弱みっていうやつか。」
「ふふっ、ノアの描いた絵もあるんだ。ほら、ここ。」
フェリシアは嬉しそうに何枚かの絵を見せた。
「夏休みの時の奴か。ヴィルはフェリシアばかり何枚も描いてたもんな。」
「うん、いつもかわいく描いてくれるんだ。」
「ああ、絵だけ見るとフェリシアは天使のようだな。」
「ふふっ、そうでしょう。実物はこんななのにねっ。」
「シアは天使だよ。」
「ああ、はいはい、天使デスネ。」
エリックはひらひらとやる気なさげに手を振った。
フェリシアは自身に回ったヴィルノアの腕をポンポンと優しく叩いた。
「ありがとう、ノア。」
「本当だよ。」
「ん、分かった。」
「シアは天使だよ、大好き。」
「うん、知ってる。」
二人は見つめ合って微笑み合った。




