80. 冬花祭⑤ 花飾り
「こっちに座って、シア。」
先に椅子に腰かけたヴィルノアは自身の左太ももをぽんぽんと叩いた。
「隣に座るよ。ほら椅子もあるし。」
フェリシアはにっこり笑って言った。
「花飾りのデザインを考えるんでしょう。だったらお隣に座った方がいいよ。それに、お膝抱っことか恥ずかしいし。みんないるんだよ。」
フェリシアは頬をほんのり赤らめた。
ヴィルノアはにっこり笑ってフェリシアを抱き上げた。
「うわぁっ。」
そして自身の太ももの上に乗せると、フェリシアの腰をぎゅっと抱いた。
「ここで全然大丈夫。恥ずかしくないし。」
「私は恥ずかしの‼降ろして。」
フェリシアはバタバタと手足を動かして暴れたが、がっちり捕まえられていてヴィルノアの膝から降りられなかった。
「ほら、シア。時間ないんでしょう。始めよう。」
「降ろして!作業しづらいでしょう。」
フェリシアは直視はされないがチラッチラッと周囲から見られる視線を肌に感じていた。
「そんなことないよ。右手は自由だよ。」
「恥ずかしい。みんないるんだよ。」
「うん、僕は気にならないし皆シアが思うほど気にしていないよ。」
「私は気になるから、大丈夫じゃないっ。」
「二人っきりならいいの?」
「・・・うーん、それなら・・・。」
「でも僕たち二人きりになることある?」
「んー・・・ないかな。」
二人が会うのは基本学園内だ。
「うん、ないよね。だとするといつシアを抱っこできるの?シアの理屈から行くとずっとできないよね。だから今こうしてもいいよね。ね、シアは僕に抱っこされるの嫌?」
ヴィルノアは不安気に眉を下げ、フェリシアを見た。
「・・・嫌じゃないけど・・・恥ずかしい。」
「嫌じゃないならいいよね。さあ、デザイン考えよう。」
ヴィルノアはにこにこしながらフェリシアを見た。フェリシアはふぅっと小さく息を吐き出すと、大人しくお膝抱っこを受け入れた。
「あざといな。」
シルビアがぼそっと言うとオスカーも頷いた。
「ヴィル・・・我が弟ながら欲に忠実だな。」
エリックは苦笑いを浮かべた。
「フェリシアったら、ヴィルノア殿下に上手く転がされていますわ。」
エリザベスは頬に手を当てふぅと小さく息を吐いた。
「ヴィルが幸せそうだから、まぁいいか。」
エリックがそう言うと皆うんうんと首を振った。
「まぁ、頑張れ、フェリシア。」
ボソッとエリックは呟いた。
ヴィルノアはスケッチブックにフェリシアの横顔を描いた。
「女の子は髪飾りがいいよね。だからこのくらいのサイズで、シアだから薔薇は二本、小さめがいいかな。で、これだけじゃ寂しいから、かすみ草とユーカリの葉をこんな風に配したらどうかな?」
ヴィルノアは描かれたフェリシアの髪にサッサっと花たちを描きいれた。
「わぁ、すごくかわいいね。でもなんでかすみ草とユーカリなの?」
「ほら、薔薇二本に意味があったでしょう。だから他に加えるならそれらにあった花ことばを持っていて、薔薇を引き立ててくれるのがいいかなと思うんだ。かすみ草は『永遠の愛』、ユーカリは『永遠の幸福』っていう花ことばを持っているよ。」
ヴィルノアは絵に矢印を引いて花の名と花言葉を描きいれた。
「ロマンチックでいいね。」
「でしょう。」
ヴィルノアはフェリシアの髪を撫でて言った。
「それにシアに似合うと思うんだ。」
フェリシアがヴィルノアを見るとにこにこと嬉しそうに微笑んでいた。
じっとヴィルノアの瞳を見ていたフェリシアは言った。
「ねぇ、リボンは付けられないかな?相手の瞳の色のリボン。」
フェリシアはヴィルノアの目元に手を当てた。
「ノアのきれいな瞳色のリボン、青いリボン、つけたいなぁ。」
フェリシアはヴィルノアの瞳を真っすに見た。ヴィルノアはコクっと息を飲んで言った。
「・・・じゃあ僕はシアの瞳色、ミルクティ色のリボンだね。いいね。」
「ふふっ、全員同じデザインでもリボンが相手の色なら特別感出るよね。リボン通せるようにこの辺に金具を一つ付けておきたいな。」
「そうだね。シアが僕の色をつけてくれるの嬉しいな。」
「ふふっ、私も嬉しいわ。」
「僕もシアの色つけるね。シア、大好き。」
「うん、知ってる。嬉しいわ。」
二人は顔を見合わせにっこり微笑み合った。
「ねえ、色も付けてくれる?」
ヴィルノアは頷くと、花やリボンに色を付けた。リボンはもちろん濃紺だ。
「どう?こんな感じだけど。」
「素敵!男性用のも描いて。」
「うん。」
ヴィルノアは男性のジャケットの胸元を描き、女性の髪飾りと対になるように花を配したデザインを描いて、色を付けた。そしてリボンはミルクティ色に塗られていた。
「こんな感じかな?」
「うん、お揃いでいい感じだね。」
二人は顔を見合わせ満足気に頷いた。
「次はシングルの方向けね。白い薔薇一本は決定で、それだけじゃ寂しいから何か入れたいわね。」
フェリシアは首を傾げた。
「そうだね。かすみ草とユーカリを同じように入れて、うーん、これだと白っぽくなるよね。だから紫色のハーデンベルギアなんてどうかな?」
「ハーデンベルギア?」
「うん、小さめの胡蝶蘭みたいな花だよ。赤は相手のいる人向けに使う色だから、こちらで使いたくないよね。紫ならかち合わないし、花ことばは『運命的な出会い』でピッタリじゃないかな。」
「素敵ね。まるでこのイベントで使うためにあるみたいな花だわ。リボンは白がいいかな。清純なイメージがあるもの。」
「ははっ、いいね。ウエディングドレスの白は清純って意味があるよね。で、他にはあなたの色に染めてって意味もあるよね。それっぽくていいよね。」
「・・・ちょっとストレートすぎるかな?」
フェリシアは頬をほんのり染めて言った。
ヴィルノアは優しく微笑んで言った。
「分かり易くていいんじゃないかな。相手を探しているんだから。」
「そうかな・・・。それなら白いリボンがいいな。」
「シアらしいね。うん、いいと思うよ。」
ヴィルノアは髪飾りとコサージュをササっと描いた。
「できたね。クララ嬢に見てもらおうか。」
クララにイラストを使って説明すると、クララは満足気の頷いた。
「素敵ですねぇ。このイラスト頂いてもいいですか?これ使って業者に説明します。まずは試作品を大急ぎで発注しますね。」
「ああ、この部分の金具なんだけど髪飾りにはこんな感じのを、コサージュにはこちらの形のをここにつけたいんだけど、できるますか?」
「多分大丈夫です。それは何に使うのですか?」
「うーん、今は秘密、かな。」
口元に人差し指を当ててかすかに微笑むヴィルノアの色気にクララは当てられた。
「当日までには教えていただけますよね?」
「もちろん。」
「面白そうなんで、金具の件、了解です。」
「ははっ、柔軟で助かります。」
「ふふっ、商機が見えましたもの。頑張ります。」
クララとヴィルノアは一癖も二癖もある笑いを浮かべた。




