79. 冬花祭④ 甘えたさん
「薔薇の案は採用でいいですね。女性は髪飾り、男性はコサージュでよろしいですか?」
クララが言うと、全員が賛成した。
すると委員の一人が言った。
「この髪飾りやコサージュのデザインをフェリシア様とヴィルノア殿下にお願いできませんか?殿下はお花に詳しいですし、何よりお二人はとても仲がおよろしいですよね。ですからお二人にあやかって婚約者がいる方はお相手といっそう仲良く、いない方は仲良くできる素敵なお相手に出会えるように、と思いまして・・・いかがでしょうか?」
「それ、いいですねぇ。ウリの一つにできますね。どうです?お二方。」
クララはこの提案にすぐ食いついた。
「うわぁ、楽しそう!デザインしてみたいです。ノアはいい?」
フェリシアは楽しそうに手をパンと合わせた。ヴィルノアはそんなフェリシアを見て目を細めて言った。
「シアがいいなら、僕は構わないよ。」
「ありがとう。かわいいの作ろうね。」
にっこり笑うフェリシアをヴィルノアは満足気に見ていた。
クララもにっこり笑って言った。
「よろしくお願いします。ただ、最初にお話しした通り時間があまりないので、二、三日中にデザインの案を出していただきたいのです。よろしいですか?」
「はい、今日の放課後にさっそく取り掛かるね。いいよね、ノア。」
「大丈夫。またこの教室に来るね。」
「うん、待ってる。」
「うん、待っていてね。シア、大好き。」
「うん、知ってる。」
フェリシアとヴィルノアは顔を見合わせてにっこりと微笑み合った。
さらっと好きというヴィルノアとさらっとそれを受け流すフェリシアに周囲に座っていた委員たちは少なからず動揺していた、ただ一人を除いて。
クララはふふふと小さく笑った。
「一応告知にはどんな薔薇をつけても自由としておきます。で、同じくお二人デザインの薔薇飾りの販売も告知しましょう。仲の良いお二人にあやかってみませんか、とか書いておきましょう。お二人デザインの薔薇飾りは入場券の販売の時に一緒に売り出しましょう。ふふっ、そうですわ、お二人がつけているところの姿絵なんかあるといいかも・・・これは誰かに頼みましょう。ふふっ、すごく人気がでそう・・・商機ですわ!」
「うわぁ、クララ嬢、笑顔が怖いっ。」
委員の一人が引きつった笑顔で言った。
「あら、申し訳ありませんでした。好物なもので。つい、いろいろと想像してしまいました。ふふっ、殿下、フェリシア様、期待していますわ。」
「うん、頑張ります!」
フェリシアは満面の笑みで返事をした。
「ああ、やっぱりここに居たか。おおっ、何でこんなことになっているんだ?」
エリックは教室に戻り、フェリシアとヴィルノアを見ると困惑した顔で言った。
「こんなこと?」
フェリシアは首を傾げた。
「なぜお膝抱っこなんだ?ここは教室だぞ。」
「うーん、ノアが離れてくれなくて仕方なく、かな。」
「そういうことか。おいっ、ヴィル。昼休みがもうすぐ終わるから教室に戻れ。」
「んー、もう少し。シアが足りないんだ。」
ヴィルノアはぎゅっとフェリシアを抱き締め、フェリシアの肩に顔をうずめた。
「ダメだ。バルトも来ているから一緒に戻れ。」
「はいはい、ヴィル、行こう。」
バルトはヴィルノアの肩を叩いた。しかしヴィルノアはフェリシアにくっついたまま離れようとはしなかった。フェリシアはふぅっと小さく息を吐いて言った。
「仕方ないなぁ・・・ノアっ。」
フェリシアに名を呼ばれヴィルノアが顔を上げると、フェリシアはすかさずヴィルノアの頬にチュッとキスをした。ヴィルノアはフェリシアに回した腕を離すと自身の頬に手を当てた。フェリシアはその隙に立ち上がり、ヴィルノアから少し離れた。
「おっ、今だ、バルト!」
エリックがそう言うとバルトはこくんと頷き、ヴィルノアの腕を掴んで引きずるようにして教室を出て行った。
「やれやれヴィルにも困ったものだな。フェリシア、もう少しヴィルにかまってやれ。フェリシアがヴィルに会わなくても平気でいるから、ヴィルは不安になっていたようだぞ。フェリシアに好きって言ってもらえて、相当浮かれていたのに、何日も放っておかれて不安と不満とで消化不良を起こしたらしい。あいつは末っ子で甘えん坊なんだ。まぁ、フェリシア限定だがな。もうちょっと気にかけてやってくれ。」
「うう、だって忙しかったんだもん。ほら、今までだって一ヶ月会わないってザラにあったでしょう。だから大丈夫かなって・・・。」
フェリシアは眉を下げた。
エリックはフェリシアを呆れ顔で見て言った。
「それは俺とフェリシアが婚約していた時のことだろう。婚約者でもないヴィルが何か言えるわけないだろう。」
「そっか。そうだね。ノアはその時は弟だったね。うん、もう少し気にかけるように気を付けるよ。」
「少しか?頑張らないと見捨てられるぞ。」
「ノアが?ない、ない。ありえないよ。」
「すごい自信だな。でも、釣った魚に餌をやらなければ死ぬぞ。ただでさえフェリシアなんだからな。」
「何それ。いっつも言うよね?フェリシアだからっで、みんな通じてるの?」
「ああ、通じるな。」
「ええ、通じますわ。」
エリザベスがそう言うと、シルビアもオスカーもこくりと頷いた。
「なんなのよ、それ!」
フェリシアは頬をぷくっと膨らませた。
「まぁ、そういうことだから程ほどに相手してやってくれ。」
「うん、そうする。ふふっ、エリックお兄さんみたい。」
「みたいじゃなく、兄だ。ヴィルはかわいい弟だ。」
「うん、そうだった。ええっと、お兄様、助言下さり、ありがとうございます。ノアを構うのを忘れないように致しますわ。」
「お、おうっ、そうしてくれ。お兄様って・・・フェリシアに言われると妙な感じだな。」
「ふふっ、言っていて、私も妙な感じだよ。エリックはエリックでいいね。」
「そうだな。」
二人は顔を見合わせて笑った。




