78. 冬花祭③ 薔薇をあなたに
「あれっ、ノア、どうしたの?」
フェリシアは自分に向かって歩いてくるヴィルノアに気付き、教科書をしまう手を止めた。
「やっと、シアに会えた。」
切なそうな声で言うと、ヴィルノアはフェリシアの隣の席に座った。
「うん、そういえば久しぶりだね。」
「久しぶりだね、じゃないよ。会えなくて死ぬかと思った。」
「ふふっ、大げさね。少し前に会っているじゃないの。」
「もう4日も会っていないんだよ。4日だよ。シアは何とも思わないんだね。」
ヴィルノアは拗ねたように表情を曇らせた。
フェリシアは、ああこれか、と内心思った。昨日、エリックがヴィルノアの機嫌が最悪だから何とかしろって言っていたのを思い出した。
フェリシアは苦笑いを浮かべた後、両腕をヴィルノアに向けて広げた。
「んっ。」
「な、何?」
ヴィルノアは困惑してフェリシアを見た。するとフェリシアはヴィルノアの頭を両手で抱え込んで自身の胸元に寄せ、ヴィルノアの頭に頬を摺り寄せた。
「寂しい思いさせてごめんね。とっても忙しかったんだ。許してね。」
フェリシアはぎゅうぎゅうヴィルノアの頭を抱き締め、頬をヴィルノアの頭にすりすりと擦り付けた。
「!!」
ヴィルノアはフェリシアの胸元に顔が押し付けられていて声が出せなかった。
「今日もこれから打ち合わせなの。しばらくの間こっちにかかりっきりになると思うから、我慢してね。」
フェリシアはヴィルノアから離れ、申し訳なさそうに眉を下げた。
「嫌だ。打ち合わせってどこでやるの?」
「ほらっ、あそこ。みんな待っているわ。」
「分かった。」
ヴィルノアはフェリシアの膝裏と背中に手を回すとひょいっと持ち上げ、すたすたと歩き始めた。
「ちょ、ちょっと、ノア!」
「暴れると危ないよ。」
ヴィルノアは打ち合わせ場所に着くと空いている席に座り、一旦フェリシアを降ろした。そして再びフェリシアの腰を掴み抱き上げると自身の膝の間にフェリシアを座らせ、後ろからフェリシアのお腹辺りをぎゅっと抱きしめた。
「ちょっと、ノア。恥ずかしいし、座りづらいよ!」
「シアが足りない。絶対落とさないから安心して。」
ヴィルノアはフェリシアの肩に顔をうずめた。
「ちょっとノア!離して!」
「だめ。」
がっちりと掴まれた腕を外すことがフェリシアの力ではできなかった。
「ごめんね。このままで初めてもらっていいかな?」
フェリシアは諦め、申し訳なさそうに言った。
「全然いいよ。生お姫様抱っこって初めて見たわ。いいもの見せてもらったわ。」
委員の一人が言うと、もう一人の女の子もうんうんと頷いた。
男の子の委員たちはフェリシア達を見てぼやいた。
「いいなぁ、殿下。僕もかわいい彼女をお膝抱っこしたいなぁ。」
「ああ、彼女いたら一度はやってみたいよなぁ。」
二人が羨ましそうにフェリシア達を見た。するとヴィルノアが顔を上げて言った。
「今度のイベントで彼女を探してはいかがですか?例えば・・・相手のいる者は赤い薔薇を2本ずつ、そうだなぁ、女性は髪に、男性は胸元につけるんです。で、まだお相手のいない者は白い薔薇を一本ずつ同じように身に着ける。そうすれば誰がフリーなのか一目で分かりますよ。声かけやすくないですか?」
「成程ぉ。殿下そのアイディア頂きです。でもなんで本数が違うんです?色で認識っていうのは分かりますが、本数の違いって何でしょう?」
クララはメモを取りながら尋ねた。
「薔薇は本数に意味があるんですよ。それに色によっても花ことばが違う。赤い薔薇は『愛情』という花ことばで、二本は『相思相愛』とか『この世界は二人だけ』という意味を持ちます。白い薔薇は『清純』とか『純潔』が花ことばで、一本の薔薇は『一目ぼれ』とか『運命の人』って意味を持つ。ぴったりだと思いませんか?」
「そんな意味があるだなんて知らなかったわ。物知りね、ノア。」
フェリシアはヴィルノアの頭を撫でた。
「いいですね、殿下。女の子の好きそうな感じです。うーん、生花じゃなくて、髪飾りとコサージュを販売しようかしら。うん、いいかも。カモじゃないわ、いいわ、これ。チャリティも大事だけど、これなら素敵な愛のイベントになるわよね。うんっ、分かり易く女の子たちが食いつきそう。それに、婚活中の男性も・・・いけるっ、いけるわ!そう、だったらイベントの名前も冬の花、つまり嫁・婿探しのイベント、えーと祭りで冬花祭にしちゃいましょうか?どうです皆さん?」
クララの提案にみんなが賛成した。
「学園に通う目的の一つが嫁探しって結構多いよな。俺もそうだし。」
「ああ、死活問題だよな。」
男性陣は腕を組んでしみじみと頷いた。
「あら、女の子も似たようなものよ。自分で探しなさいって言われている子は結構多いわよ。」
女性陣もうんうんと頷く。
「ああ、そうだ。気になる人がいたら自身の持っている花を相手に差し出すの。それがお付き合いしてくださいって意味になるって、事前に周知したらどうかしら。一本の白い薔薇を差し出されるなんてロマンチックだわ。」
「うわぁ、素敵。クラシカルなのもときめくわよね。」
「でしょう。それに薔薇二本が相思相愛って意味なら、一本の『運命の人』を渡されて二本の『相思相愛』になるって事よね。受け取って二本になったら・・・素敵よねぇ。」
女性陣は薔薇を渡されるシーンを想像して盛り上がっていった。クララはその様子を見て言った。
「今回のイベントは出会いの場として活用してもらいましょう。そして相手のいる方は・・・どうしましょうねぇ。」
「あっ、そっちは僕に考えがあるから、多分大丈夫だと思うのですが一応確認してから当日までに教えますよ。」
ヴィルノアはよそ行きの笑顔にちょっぴり意味深な笑みを含めて言った。




