76. 冬花祭① 多忙につき
定期考査が終了し日常が戻ってきた。
いつもの食堂、いつもの昼休みでいつものランチタイム、いつものメンバー、ではなくフェリシアが来ていなかった。
「あれっ、シアは?」
ヴィルノアはシルビアに尋ねた。
「フェリシアは今日はいない。さっき、クララたちに呼ばれて、冬花祭の打ち合わせを教室でしてる。昼食もそっちで取ると言っていた。」
「冬花祭?」
「ああ、うちのクラス主催で終業式の後にちょっとしたイベントをやるんだ。フェリシアはその実行委員になった。」
「ちょっとしたイベントじゃないだろう?生徒会の後援もあって、全校生徒対象のイベントになっただろう。まぁ、参加は自由だがな。でもほとんどの生徒が参加するんじゃないか?大ホールを会場としてくれてるらしいからな。」
エリックは二人の会話に入ってきた。
「フェリシアは企画に参加で張り切っていたから、当分忙しいんじゃないか。」
「ああ、張り切っていた。朝も少し早く来て、昼休みも、放課後もその準備に使うって言っていた。初めての開催って事と時間が3週間と限られているからな。決めることも多いんだろう。」
エリックとシルビアはうんうんと頷き合った。
「聞いてない。」
ヴィルノアは無機質な顔で低い声で言った。
シルビアとエリックは顔を見合わせた。
「そうか。テストの最終日に決まったことだから、まだ伝えてないだけだろう。」
シルビアは淡々と言った。
「昨日のテスト明けに役員を決めたばかりだもんな。」
エリックも頷きながら言った。
「・・・明日は来るかな?」
「さぁ、どうだろうな。かなり時間に追われているようだったから、無理かもな。今日の放課後の進捗状況次第かな。」
エリックは顎に手を当て、推測を口にした。
「委員ってシア達のクラスからだけ選出されるの?僕たちのクラスではそんな話出なかったよ。」
「ああ、うちのクラスの企画だからな。学園祭で出た儲けを基にやるんだ。かなり儲けたらしくてな。最初はクラスイベントのつもりだったが、どうせならって全校を巻き込むことになっただけで、もともとはクラスの企画だ。だから、基本はうちのクラスだけで企画運営して、足りない部分なんかを生徒会が手伝ってくれるという形になっているようだな。だから、実行委員もうちのクラスの奴らばかりで、一名だけ生徒会役員が入っている。」
「そうなんだ・・・。」
ヴィルノアはちらっと何時もフェリシアが座っている席を見た後、黙々と食事を始めた。その後、ヴィルノアは口を開くことはなかった。
そしてフェリシア不在のランチタイムが三日目を迎えた。
ヴィルノアは普段フェリシアの前で以外感情を明らかに顔に出すことはないのだが、今回のフェリシアの不在には日を追うごとに機嫌の悪くなっていくのが見て取れた。
「ヴィル、そんな顔するな。食事がまずくなる。」
エリックは苦笑いを浮かべた。
「兄上には関係ないよね。放っておいてくれない。」
ヴィルノアは顔は無表情のまま低い声で答えた。
「栄養は取れてるよ。」
「せっかくだから美味しく食べろ。料理人が頑張って腕を振るってくれているんだ。なっ。フェリシアなら教室で他の委員の奴らと食べながら打合せしていたから安心しろ。」
エリザベスは慌ててエリックの袖を掴み、引っ張った。そして首をブルブルと横に振って見せた。
「どうしたんだ、エリザベス?」
エリックは困惑した顔で聞いた。
「兄上はいいよね。隣にエリザベス王女がいて。」
ヴィルノアはちらっとエリックとエリザベスを見るとすぐに自信の手元に視線を落とした。
エリザベスはやっぱりこうなったっと顔を顰めてエリックを見た。エリックはエリザベスの意図がやっと分かり、しまったと顔を顰め額に手を当てた。
「ヴィル、フェリシアがここに来ないのもそう長いことではないと思うぞ。」
「・・・もう三日も会っていない。」
「学園に入学する前は一ヶ月会わないのだってざらにあっただろう。」
「・・・あった。けど、あの時とは状況が違うよね。今、シアは学園に居るのに、会えないなんて・・・おかしいよね。」
「相変わらず、重いな・・・。フェリシアに言ってやろうか?」
「いい。」
ヴィルノアはぶっきらぼうに言うと、教室に戻って行った。
エリックはその後ろ姿を目で追った後、やれやれと肩を落とした。
「俺、失言だったよな・・・。」
エリザベスはふぅっと小さく息を吐き出すと、頬に手を当て言った。
「ヴィルノア殿下は分かり易く不機嫌でしたでしょう。『フェリシア』という言葉は今の殿下には禁句ですわ。」
「だよなぁ。ヴィルは普段あんまり感情を表に出さないけど、フェリシアが絡むとだめだな。」
「ええ、そうですね。フェリシアにヴィルノア殿下に会うように言いましょうか?」
「フェリシアも夢中になると他のこと忘れるからなぁ。言っておくか。きっと、フェリシアはヴィルに今回のこと伝えていないって気付いていないぞ。」
「フェリシアらしいと言えば、それまでなんですけどね。フェリシアに好きって言ってもらってヴィルノア殿下はかなり浮かれていましたでしょう?やっとこれから恋人同士として付き合っていけると思ったところに定期考査が入って、フェリシアは勉強に夢中でしたから、ヴィルノア殿下をほったらかしにしていましたでしょう。テストが終わってやっと、というところでこの状態なんですもの。そろそろ殿下も限界なのですわ。」
「そうだよな。テスト期間は少なくともランチは一緒に取っていたのが、今はそれもないんだ。キレるのも時間の問題かな。」
二人は顔を見合わせ、ため息をついた。




