73. ご褒美頂戴
「もうすぐ定期考査だね。」
フェリシアはふぅっと大きなため息をついた。
ランチタイムの食堂で、いつものメンバーでいつものように食事をしていた。
「今回範囲が広いんだよね。不安だわ。」
茹でられたブロッコリーにフォークを刺しながらフェリシアは再びため息をついた。
「フェリシアは常に上位に入っていますでしょう。今回も大丈夫ですわ。」
エリザベスは優しく微笑んで言った。
「確か10位以内に入っていましたよね?」
「うん、いつも八位くらい。エリックとオスカーとシルビアが上位三位までを占めていて、私はぎりぎり十位以内って感じかな。エリックの婚約者が馬鹿じゃいけないって思っていつも死に物狂いで勉強してやっとだよ。」
フェリシアはもう一つため息をついた。そしてフェリシアは手に持ったフォークをくるくると回した。
「はははっ、そうだな。いつも部屋に籠るもんな。」
エリックが思い出して笑った。
「テストが終わる頃にはげっそりして、テスト終了した途端甘いもの山ほど食べるんだよな。」
「うん、ストレス半端ないでしょう。終わった途端の解放感でいつも以上にお菓子が美味しく感じるんだ。不思議といっぱい食べられるの。」
「ははっ、今回も終わったら有名カフェのケーキでも王宮料理人の菓子でもフェリシアの好きなもの用意してやるから、頑張れ!」
「本当?」
フェリシアは目を輝かせ、エリックの話に食いついた。エリックはにかっと笑い言った。
「任せろ!」
「約束よっ、頑張る!」
「いいなぁ、シアにはご褒美があって。」
ヴィルノアが首をこてんと傾け、上目遣いにフェリシアを見た。
「僕も頑張ったらご褒美くれたりする?」
「うん、いいよ!」
フェリシアは上機嫌で答えた。
「こんなこと聞くのは失礼かと思いますが、ヴィルノア殿下は前のテストの順位はどのくらいでしたの?」
エリザベスは頬に手を当て首を傾げた。
「うーん、確か二十位だったかな。」
「あれ?そうだったっけ?」
「うん、そんなに上位じゃないよ。僕は順位なんて興味ないしどうでもいいからね。」
「そうなの?ノアは賢い子だからもっとできそうなのにねぇ。」
フェリシアはヴィルノアの頭を優しく撫でた。
ヴィルノアは気持ちよさげに目を細めて、言った。
「一位取ったらご褒美くれる?」
「えっ、すごい!いいよっ、何でも言って!」
「何でもいいの?」
「もちろんだよ!一位なんてすごいものね。」
ヴィルノアは自身の唇を人差し指でなぞりながら聞いた。
「本当に何でも聞いてくれるの?」
「うんっ、任せて!」
フェリシアは胸を張り、とんっと叩いた。ヴィルノアは満面の笑みを浮かべて言った。
「約束だよ、シア。大好き。」
「うん、知ってる。」
フェリシアはにっこり微笑んだ。
「あーあ、約束しちゃったよ。」
フェリシア達の遣り取りを黙って見ていたエリックが呆れ顔で呟いた。
「約束しましたねぇ。」
オスカーもふぅっと小さく息を吐き出した。
「あざといな。さすがヴィル。」
シルビアは澄まし顔で紅茶を一口飲んだ。
「あのぅ、何かおかしかったですか?二十位だった殿下が一位を取るなんて、すごいことですよね?大変な努力が必要ですわ。だからこそのご褒美ですわよね?」
エリザベスはエリック達の反応が意外に思え、頬に手を当て首を傾げた。
「他の者が言ったらそうだな。」
「そうですね、他の者なら、ですかね。」
「??」
エリザベスは含みのある二人の言葉が全く分からず困惑した。
エリックは小さく息を吐き出すと、苦笑いを浮かべて言った。
「ヴィルは天才なんだよ。あいつは王宮図書室にある本はほとんど読んでいてその内容を理解して、記憶しているほどなんだ。学園の授業内容なんて、とっくに履修し終えてる。学園に通う必要なんてないんだ。」
「まぁ、読書家なんですのね。」
「いや、読書家ではない。ヴィルは王子妃教育で王宮に来ていたフェリシアが時々図書室で自習していたのを知ってから、フェリシアが王宮に来ている時はいつ来るかも分からないフェリシアが来るのを図書室で待っていたんだ。その時間潰しで片っ端から本を読んでいただけだ。だから何かに興味があるわけでも、読書好きでもない。」
「そうですよね。手あたり次第読んでいましたもんねぇ。」
「そのくせ読んだ本の内容はきちんと理解していて、知識としてあいつの頭の中に収められてるんだ。天才だろう、我が弟は。」
「羨ましい頭脳ですよね。」
「まったくだ。」
「まぁ、素晴らしいですわ。あらっ、でもテストの順位が、その、あまり振るいませんのね。」
「ははっ、ヴィルは見ての通りっ興味のあることと、ないことの落差が激しいんだ。本人も言っていただろう?テストに興味ないって。だから適当に手を抜いているんだ。」
「ですね。学園に入学前に書き上げたレポートはアカデミーの学者たちから大絶賛でしたよね。」
「ああ、あれもフェリシアが美味しい水が飲みたいって言ったから書いたレポートだったよな。上水の新たな浄化装置の提案と水の流通の見直しと改善案とか事細かに書いていて、それが概ね採用されたんだ。」
「そうですね。あれが採用されて改革された後、格段に水が美味しくなりました。」
シルビアはこくんと頷き、ティカップを掲げた。
「紅茶の味も良くなった。」
「まあ、留学してきてからというもの紅茶が美味しくて・・・これはヴィルノア殿下のおかげだったのですね。」
エリザベスは関心しきりと言った表情だ。
「だからテストで一位なんてヴィルには苦でも何でもない。」
「ですね。解答欄全部埋めればいいだけのはずです。」
「だな。どうせ面倒で途中までしか答えてないだろうからな。ご褒美とはいっても、フェリシアからのご褒美が欲しいだけだな。」
「ですね。ヴィルの笑顔が黒いですからね。」
「まぁ、そんなに欲しいご褒美があるのですね。・・・フェリシアからのご褒美?」
エリザベスは頬に手を当て首を傾げた。
「あれだよな?」
エリックは苦笑いを浮かべて人差し指を口元に当てた。
「ええ、それですね。」
オスカーも人差し指を口元に当てた。
「それしかないだろう。ヴィルがやる気出すのは。」
シルビアはそう言って紅茶を飲む。
「??何ですの、あれって?」
エリザベスにはやっぱり分からず尋ねた。
「ははっ、ほらヴィルの奴ご褒美をフェリシアに強請る時こうしてただろう?」
エリックは悪戯っ子の顔をして、自身の唇を人差し指でなぞった。
「で、先日シルビアの本をフェリシアに読ませていただろう?」
エリックはぱちんとウインクをした。その仕草にドキドキと鼓動が早くなったエリザベスだが、エリックのヒントから思い当たったことに顔を赤らめた。
「そういうことですの・・・おっしゃっていましたものね、キスしていい?って。」
「速攻断られていましたね。」
「もう、断らないと思うぞ。」
シルビアは合変わらずすまし顔で紅茶を啜っていた。
「そうか?フェリシアだぞ。まぁ、フェリシアもヴィルの実力というか本当の力を知らないから、いいように転がされているよな。」
全員うんうんと頷いた。
「まぁ、頑張れ、フェリシア。」
エリックはそっと呟いた。




