68. フェリシア④ 寝ることにしました
自宅に戻ったフェリシアは一人自室にこもり、紅茶を一口飲んでは考え込み、身もだえ、を繰り返していた。紅茶は既に冷め切っていた。
フェリシアはエリックやヴィルノアと話したことでだいぶ自分の心の中が見えて来ていた。
まず、分かったことは三つ。
一つ目はヴィルノアがフェリシアをとても好きでいること。エリックの挑発にすぐ反応して駆けつけて来てくれた。やきもちを焼いてくれた。
二つ目はそれがとても嬉しかったこと。その嬉しさはヴィルノアに不安を与えて申し訳ないという気持ちを上回っていた。
三つ目はヴィルノアに告白してきた子に対して嫉妬していたということ。それは彼女がヴィルノアと同じ年で、かわいくて、ヴィルノアに恋をしているのが羨ましいと思うのと同時に、ヴィルノアにちょっかい掛けるのは嫌だなと思った。
「私、かなりダメな子じゃない・・・。」
フェリシアはふぅと大きなため息をついた。
ヴィルノアがフェリシアに向ける行為は素直に嬉しい。思わず顔が緩むくらいに嬉しい。そしてその好意の対象は私だけであってほしいのだ。傲慢な考えにフェリシアは身もだえた。
「うううぅぅぅ、私だけのノアでいてほしいんだぁ・・・。」
言語化した途端実感がふつふつと湧いてきて、頬が熱を帯びた。フェリシアは自身の両手で頬を押さえ、くねくねと身もだえた。
「こ、これが噂の独占欲・・・。」
フェリシアは心臓をぎゅっと掴まれたような息苦しさを感じ胸を押さえた。
そしてヴィルノアに対する気持ちが芽生えてから、酷くフェリシアは自信を失っていることに気付いた。自分に自信がないから、すぐいろんなことが羨ましくなる。告白していた子に対してもヴィルノアと同じ年なのが羨ましい、かわいくて羨ましい、恋を自覚していて羨ましい・・・そうこれがモヤモヤの正体だった。フェリシアは自分の中の人を羨むなんて醜い気持ちを認めることができていなかったので、モヤモヤし続けていたのだと。
ここまで考え、また三つの気付きがあった。
一つ目はフェリシアは自分が年上であることをかなり気にしているということ。別に女性の方が年上というのは珍しいことではない。政略結婚ならむしろよくあることだ。だが、義姉ポジションからの恋人ポジションへの変更は、なかなか背徳的な感じがするのだ。実際血の繋がりはないのだけど、弟を男として見てる的な・・・うん、何だかねぇ、いいのかなぁみたいな気持ちが最初はあったのは事実だ。
二つ目は今回感じたモヤモヤした気持ちを感じたのが初めてではないこと。エリックと婚約していた期間にヴィルノアが告白されているのを見て同じようにモヤモヤした感情があった。
三つ目は・・・そう全てはフェリシアがヴィルノアを好きだから起きているということ。好きだからヴィルノアの行為が嬉しい、好きだから自分に自信がなくなる、好きだから他の女の子の告白にモヤっとする、好きだから、そう好きだから。
「えっ、私ってかなりノアが好き・・・!?」
耳まで赤くなったのを感じ、フェリシアはクッションに顔をうずめた。
もう両手両足ばたつかせ、部屋の端から端へ転がりたいような、全力で駆けだしたいような、フェリシアの中でジタバタした心が暴れていた。
初めての気持ちに困惑と動揺が隠せなくなって、はっともう一つの事実にフェリシアは気付いた。
「あれ?私も浮気してたんじゃない・・・うわぁぁぁ、エリックのこと言えないね。」
フェリシアはクッションを抱え込み、眉間にしわを寄せた。
エリックとエリザベスが婚約することになった、あの入れ替えもフェリシアにとっても都合のいい結果だったと気付いた。
「お兄様達はやっぱりヒーローだわ。お兄様、テオ兄様、ありがとうございます。大好きです。」
ほっこりとした気持ちになって紅茶を一口飲んだ。紅茶は冷め、苦みが今は心地良い。少し冷静になってきたフェリシアは今までのヴィルノアとの間に起きた出来事を思い出していた。
「あっ、ノアに他の子に目を向けたらって言っちゃった・・・。」
まだヴィルノアの手の届かない想い人がフェリシアだと知らなかった頃、ヴィルノアに他の子との新しい恋を勧めた。ヴィルノアからすれば好きな子から他の女の子を勧められたわけで、かなりショックだったのではないだろうか。
「うわぁ、私って酷い女じゃない?嫌な女よね・・・?」
フェリシアはすっと青ざめクッションをぎゅっと抱きしめた。今のフェリシアの感情は浮き沈みが激しく、かわいく笑うヴィルノアを思い出してはほっこりし、フェリシアに好きと言うヴィルノアを思い出し身もだえ、ヴィルノアの頬にキスしたことを思い出してクッションに顔を強く押し付け、ヴィルノアに弟と言ったことを思い出してはヴィルノアを傷つけたかと青くなり・・・忙し過ぎる心の動きにフェリシアはすっかり疲れてしまった。
「寝よう!そうよ寝てしまいましょう!何かあっても寝て起きれば、いつも気持ちが落ち着いているのよねっ!」
フェリシアは考えるのをやめ、ベットに潜り込むことにした。そして何も考えないように、いくつもの羊を数えたのだった。




