65. フェリシア① モヤモヤ
「何してるんだ?」
放課後の裏庭は誰もおらずフェリシアは一人静かにベンチに座っていた。何をするわけではなくぼんやりと裏庭の中央にある木を眺めていた。そんな中、急に声を掛けられびっくりしてフェリシアが振り向くとベンチの後ろにエリックが立っていた。
「こんなところで一人、何しているんだ?」
エリックはフェリシアの横に腰かけた。
「あぁ、うん・・・ボーとしてたっていうか・・・。」
フェリシアは途切れ途切れに、歯切れ悪く言葉を発した。
「何か言い辛いことか?」
「そういう訳ではないんだけど・・・。」
「何でも聞くぞ。」
エリックはフェリシアを見てにかっと笑った。
フェリシアは苦笑いを浮かべ、首を傾げた。
「うーん、なんかモヤモヤしていて言葉にならないんだよね。ここまで出てきているんだけど、上手く言葉にならないんだよね。だから考えてみようとここに来たんだけど・・・モヤモヤから抜け出せないんだよ。気持ち悪くって。うーん。」
喉元を指さして、フェリシアは眉を下げた。
「フェリシアにしてはずいぶん煮え切らないな。今日、何かあったのか?」
「うーん、あったというか、見たというか・・・。」
フェリシアは首を傾げた。
「何だ。言ってみろ。」
「うん。昼休みにね、ここをエリザベスと通ったの。その時あの木の方から声がして見て見ると、ストレートの黒髪の小柄なかわいい子、多分一年生かな、が立っていたの。それで好きですって言ってて、言われてたのが、その・・・。」
フェリシアは庭の中央辺りを指さしていたが、その手を胸元に引いてぎゅっと握りしめた。エリックはフェリシアの表情を見て、はははっと笑った。
「ヴィルだったんだろう?」
フェリシアはびくっと体をこわばらせた後、こくんと頷いた。
「ヴィルのことだ。きっぱり断ったんじゃないか。何か問題があったのか?」
「うん、断ってた。・・・問題はなかったかな。」
「そうだろうな。それにしては浮かない顔をしているな。」
「うん、そうなんだよね。モヤモヤしているんだ。何でだろう。」
フェリシアは胸元を押さえたまま首を傾げた。
「・・・かわいい子でね。必死に想いを伝えていてね、それこそ応援したくなるような感じだったんだ。でも、応援できなかった。だって、ノアが断っているの見て、・・・そのぉ・・・ほっとしたのっ!」
ぎゅっと胸元を握りしめてフルフルと頭を振って、フェリシアは言った。
「・・・嫌な子だよね。振られている子見て、ほっとするなんて・・・。」
エリックは最初キョトンとした顔をしていたが、はははっと笑いだした。
「何で笑うの!?」
フェリシアは上目遣いでエリックを睨んだ。
「悪い、悪い。ほっとするのは普通だ。誰でもフェリシアの立場ならそう思うだろうよ。で、何が気になっているんだ?」
「普通かなぁ?なんかね、人の不幸を喜んでしまった自分に驚いたんだ。その反面、彼女みたいなかわいい子がノアの隣にいたらノアは幸せになれるんじゃないかなって思ったんだ。ほら、エリックは知っているだろうけど私の方が年上だし、淑女でもないもの。ノアは私を好きって言ってくれてるけど、ね。不釣り合いかなぁとか思ったりして・・・モヤモヤして、何言ってるか分かんないでしょう?」
フェリシアは乾いた笑いをした。
エリックはやはりキョトンとした顔をした後、優しく笑ってフェリシアの頭をポンと叩いた。
「ああ、そうか。やっとか。」
フェリシアはエリックを見て首を傾げた。
「やっと?」
「やっとはやっとだ。ヴィル的に言えば、ヴィルの気持ちに追いついたってことだ。俺がお前の立場ならほっとするどころか、手を出そうとした奴を確実に消すな。俺という婚約者がいるにもかかわらず、エリザベスに手を出そうとした奴を易々と見逃がせると思うか?地獄に叩き落とす!」
エリックは仮想敵を握りつぶしたのか、ぎゅっと手を握った。
「地獄って・・・。」
「当たり前だろう。俺のエリザベスに手を出そうっていうんだ。」
「当たり前かぁ。」
「当たり前だっ!」
エリックはうんうんと頷いた。
「俺ですらこうなんだ。ほっとしたぐらいじゃかわいいもんだ。怒ってもいいんだ。私という婚約者がいるのを知っていて手を出すなんてってな。」
「そうかな?そういうものかな?」
「そういうものだ。それにヴィルはずっとフェリシアしか見ていないぞ。誰に聞いてもヴィルに聞いてもフェリシアしか見てないと言うと思うぞ。あんなにヴィルが分かり易くフェリシアしか求めていないんだ。年齢とか関係ないだろう。淑女かどうかなんてもっと関係ないよな。ヴィルが惚れたときからフェリシアはそんなだったんだ。」
「うん、本当は分かっているんだ、ノアは年齢とか関係なく私を好きでいてくれるって。でもなんで私がいいんだろうって、やっぱり思っちゃうんだ。それだけじゃなくって、うーん、やっぱりモヤモヤする。それとは違うところで、私の掴めない感情が暴れている気がするんだ。」
フェリシアはスカートを握りしめて、俯いた。
エリックはフェリシアの様子を見て、目を見張った後、目を細めて嬉しそうに笑った。
「はははははっ、フェリシア、お前かわいいな!」
フェリシアは顔を上げ、キッとエリックを睨みつけた。
「何で笑うの!」
「悪い。馬鹿にしたわけじゃないんだ。悪気はないんだ。ほらっ、ここって俺がエリザベスのことを好きだって言った時のことを思い出していたんだ。」
エリックは優しく微笑んだ。




