53. 告白の聖地で
「こっちだよ、シア!」
裏庭のほぼ中央にある木の下でヴィルノアは手を振った。
学園の昼休み。いつもならシルビアとエリザベスと共に食堂へ向かうのだが、今日はヴィルノアに呼び出されてフェリシアは裏庭に来ていた。
「裏庭に呼び出したりして、どうしたの、ノア?」
ヴィルノアの元に駆けていき、フェリシアは言った。
「あれ、ここっていつもノアが告白されているところじゃない?」
フェリシアはきょろきょろと周りを見た後、首を傾げた。
ヴィルノアは苦笑いを浮かべた。
「そう、だね。結構シアには見られてるんだよね。でもなんで僕がいつもここに呼び出されて告白されているか分かる?」
「うん、知っているよ。ジンクスがあるんでしょう?バルトに教えてもらったよ。裏庭で告白して恋人同士になると、ずっと仲睦まじくいられるっていうの。」
フェリシアは満面の笑みを浮かべ、両手を顔の前で組み合わせた。
「素敵なジンクスよね。」
「ははっ、シアは好きそうだよね、こういうの。」
「うん、好き!だって仲睦まじい恋人になれるっていいよね。」
にこにこ笑うフェリシアをヴィルノアは眩しそうに目を細めて見た。
「僕はあんまりそういうのに興味もなければ信じてもいないけど、今回は信じてみようかなって思っているんだ。シアとずっと仲良くいられるんだったらいいよね。だからね、聞いて。」
ヴィルノアはすっと真剣な表情になった。
「僕は一人の女性としてシアが好き。」
いつもの柔らかい表情ではなく、固く真剣な顔で彼はハッキリと言った。その声はこわばっていたものの迷いは感じられなかった。
驚きを隠せず、見つめた彼の濃紺の瞳は熱を帯びていた。彼の顔は少しだけ大人びて見えた。少し前まで見下ろしていたはずの年下のかわいい少年は、今では頭一つ分背が高くなっている。見上げる形で合わせた視線を外せないまま、何と言っていいのか頭の中は混乱の嵐であった。
ここは学園の裏庭。教師の控室と教室に挟まれた裏庭は一日を通じて人通りは少ない。木々が生い茂り、風が穏やかに吹く度に木漏れ日がキラキラと揺れていた。昼休みだが二人以外誰もいない。たまに吹く風が葉を揺らし、ざっざっと音を鳴らした。
「だから」
何の言葉も発せずに固まるフェリシアを優しくふわりと抱きしめて彼は言った。
「だから僕に落ちて」
そして、回した腕にぎゅっと力を込めた。
「落ちる?」
「そう僕と恋に落ちて。」
「そっかぁ、恋に落ちるっていいね。」
「僕はとっくにシアに落ちているから、あとはシアが僕に落ちればいいんだよ。ねっ、僕を好きになってくれない?そうしたら両想いの恋人同士になれるよ。」
「そ、そうだね。そうだよね。」
フェリシアは自身の心臓の音がうるさくて、ヴィルノアにも聞こえてしまうのではないかと思った。ヴィルノアはストレートに恋情を伝えてくれる。それを嬉しく思う反面、恥ずかしくて仕方なくなる。やっぱり恥ずかしくなったフェリシアはヴィルノアの胸に顔を押し付けた。ヴィルノアは温かかった。そして顔がヴィルノアの胸にくっついていたので、ヴィルノアのの心臓もバクバクとあわただしく動いていることに気付いた。
「ノアの心臓バクバク言ってる。すっごく速いよ。」
「当たり前でしょう。大好きなシアと密着しているんでよ。それに好きな子に好きって言ったんだよ。僕だって何も思わずに言っているわけではないよ。好きって言うのは恥ずかしいけど、好きだから、とても好きだから沢山言いたいんだ。そうしないと伝わらない気がするしね。それに腕の中にシアがいるのが嬉しくて、心臓が早鐘打っても放したくないんだよ。」
キュッと腕に力を込めてヴィルノアはフェリシアの肩に頭を乗せた。
「ずっとこうしていたい。」
「ふふっ、甘えたさんだね。」
「~~~すぐ、シアは僕を子ども扱いするんだ!」
ヴィルノアは拗ねたように言った。
「弟でもなく、年下でもなく、もちろん子供としてでもなく、一人の男として見てほしいんだ。」
ぎゅうっとフェリシアはヴィルノアのシャツを掴み上目遣いでヴィルノアを見た。胸元を掴まれたヴィルノアは頭を上げ、フェリシアを見た。
「ちゃんと一人の男の子としてノアのこと見ているよ。いつも好きって言ってくれてありがとう。裏庭で 告白してくれてありがとう。前にいいなって言ってたの覚えていてくれたんだよね。覚えていてくれてありがとう。ノアに好きって言ってもらえて嬉しい。」
「本当?」
「うん、すごく嬉しい。それに今、抱きしめられてドキドキしているよ。」
「!!」
ヴィルノアは目を見張った。
フェリシアは頬に熱が集まってきたのを感じ、両手で頬を覆った。
「ノアの腕の中にいると顔も赤くなっちゃうし、恥ずかしいしドキドキしちゃうけど、ほっと安心もするんだ。ノアはいつも温かいよね。」
ヴィルノアはふんわりと微笑んで言った。
「シアも温かいよ。」
フェリシアはにっこり微笑んだ。
「シアの笑顔がかわいい。シア、大好き。」
「ふふっ、知ってる。」
暫くの間、二人は何も言わず、お互いの体温を感じていた。




