49. 最適解⑩ 夢ではありません
「二人の世界だね。」
テオドールは目を細めて嬉しそうにエリック達を見ていた。
「やればできるじゃないの、エリックったら。エリック、エリザベス・・・良かったぁ、本当に良かった。」
テオドールの腕の中にすっぽり収まったまま、フェリシアは目を潤ませてテオドールとジルベールを見た。
「テオ兄様、ジルベール兄様、ありがとうございます。」
「うん、よかったよね。姫の憂いは晴れたかな?」
テオドールは優しくフェリシアの頭を撫でた。
「はい。」
フェリシアはテオドールに抱きついた。
「もういいよね?」
気が付くとフェリシアはグイっとテオドールから引きはがされ、後ろからヴィルノアにぎゅぅっと抱きしめられていた。
「兄上はいつまでシアを抱き締めてるの?長過ぎない?」
ヴィルノアは不機嫌な声で言った。テオドールは苦笑いを浮かべ、両手を振り、言った。
「あっ、ヴィル君、妬いちゃった?フェリシアがかわいくて、ついね。機嫌直して。」
フェリシアは振り返ってヴィルノアを見ようとしたが、がっちりと抱え込まれて身動きが取れなかった。だが声とまとう空気がひんやりとしているのを感じた。
「どうしたの、ノア?」
フェリシアは自身に回されたヴィルノアの腕を掴んだ。ヴィルノアは何も言わずにフェリシアに回した腕に力を込めた。
「あぁ、ごめんごめん。この話には続きがあるんだ。」
テオドールは口元に軽く握った自身の手を当て話し始めた。
「今回エリックとフェリシアの婚約が解消となると、エリックはいいとしてフェリシアに相手がいなくなるだろう?フェリシアはかわいいし性格もいい。爵位も高い。また王子妃教育も終了している。だから婚約解消が公表されれば即、山ほどの縁談が来るだろう。だが、フェリシアさえよければ王家の末っ子がフリーでいるのだからどうだろうか。つまりヴィル君とフェリシアで新たに婚約してはどうかということだ。」
「私がノアと婚約!?」
フェリシアは驚きの声を上げた。
「僕じゃ嫌?」
ヴィルノアはフェリシアの肩に頭を乗せ不安気に聞いた。
「嫌というか、ノアって結婚したくないって言っていたでしょう?だからいいのかなって・・・。」
「うん、言った。シアと結婚できないなら他の子はいらないから。初めて会った時に好きって告白したでしょう?」
「うん、義姉として好いてもらえたんだよね?」
「僕はシアが兄上の婚約者だなんて、あの時、聞かされてなかったんだ。だから一人の女の子として好きって言ったんだ。それをシアが勘違いして・・・。」
「そうだったの。ええっとごめんね。」
フェリシアは気まずそうに視線を床に落とした。ヴィルノアは再びぎゅっとフェリシアに回した腕に力を込めた。
「いいんだ。シアと兄上の邪魔をする気はなかったし、どうせシアは勘違いするだけだからって、さんざん好きって言ってたし。僕が毎回告白してるなんて思わなかったでしょう?」
「うん、行為を素直に口にする義弟でかわいいなって思っていた。」
「だよね。それでいいと思っていたからそれはいいんだ。だってシアは兄上の婚約者だったから。でもね、」
ヴィルノアはくるっとフェリシアを回し向かい合った。
「今回シアは婚約を解消した。だから僕は堂々とシアに求婚できるんだ。シア、僕はずっとシアに恋をしているよ。シアが好き。ずっと僕の隣にいてほしいんだ。結婚して僕のお嫁さんになってくれない?」
フェリシアはヴィルノアの目をずっと見ていた。ヴィルノアの目の奥に熱を感じていた。フェリシアは疑うことなくヴィルノアの言葉を信じることができた。
それとは別にフェリシアは目まぐるしく動く状況に、思考が追い付いていなかった。フェリシアの頭の中はぐるぐると思考が巡っていた。
・・・うん、エリックとエリザベスは上手くいったのよね。よかったよかった。お兄様達ありがとうございます!
で、私は婚約が白紙に戻ってフリーになったわけで、ノアと婚約してはと言われたのよね。
私がノアと婚約?
まあ、ノアならいいよね。
でもノアは好きな子がいるから結婚したくないんだよね。でも好きな子ってのが、私だからノア的に問題がないのね。そう言えば出会った時にはその子には婚約者がいて、その子のお相手のこともノアは好きだと言ってた。確かに私にはエリックがいたよね。ノアはエリックに懐いてる。
うん、成程。
ノアの好きな子って私だったかぁ。
えっ、私!?
「あれっ、ノアって私が好きなの?」
フェリシアは考えていることが口から出ていることに気付いて、はっと両手で口を押さえた。
「お前なぁ、やっぱり気付いてなかったんだ。」
成り行きを見守っていたエリックが呆れ顔で言った。
「エ、エリックは知っていたの?」
「フェリシア以外誰でも知ってるよ。」
「ええ~!!嘘でしょう?」
「真実だ。」
「フェリシアはやっぱりフェリシアだね。」
口元に軽く握った手を当て、くくくっと笑いながらテオドールは言った。
「小さい頃からその手には鈍かったから、仕方ないね。」
大きくため息をつきつつジルベールが言った。
「本当に気付いていなかったのね・・・。」
頬に手を当て首を傾けエリザベスが言った。
そして全員が残念なものを見る目でフェリシアを見た。
「えええーーっ!!」
フェリシアは突き付けられた真実に狼狽え、目を彷徨わせた。
ヴィルノアはフェリシアの両頬を両手で優しく挟むと、しっかりとヴィルノアの顔が見えるようにフェリシアの顔を動かした。
「シア、会う度に好きって言っていたよね?」
「うん、言ってた。いつも言ってくれるから知ってるって言ってた。」
「そうだね。義姉として慕っているって思っていたんだよね?それでもいいって思ってた。でも違うからね。出会った時から好き。ずっと好き。今この瞬間もシアが好き。他の子なんて考えたこともないよ。シアだけが好き。」
「うん・・・。」
「これからは、弟じゃなくて一人の男として見て。僕はシアより二つ年下で、頼りなく見えるかもしれないけど、必ず兄上達のようないい男になるから。だから僕に落ちて、シアっ!」
ヴィルノアの必死な物言いに押されつつも、フェリシアは頬に触れていたヴィルノアの手に自身の片手を重ねた。そしてフェリシアは目を閉じた。ヴィルノアの手はいつもより温かかった。
「・・・うん。直ぐには無理だよ。」
「直ぐじゃなくていいよ!ダメだと思っていたんだ。何年でも待つよ。それにシアの気持ちが僕に向くように頑張るよ。好きってもっと、今までできなかった分もっともっと伝えるよ。だからシアの隣にいる権利を永遠にいる権利を予約させて。僕と婚約してください、シア!」
フェリシアはそっと目を開けヴィルノアの目を見た。ヴィルノアの瞳が不安気に揺れていた。フェリシアはふぅっと小さく息を吐き出した後、言った。
「うん。これからよろしくね、ノア。」
ぱぁっと満面の笑みを浮かべ、ヴィルノアはフェリシアを強く抱きしめた。
「ありがとう、シア!大事にする。絶対離さない!!」
フェリシアは自分がすっぽりとヴィルノアに収まっていることに気付き、もう小さい頃のヴィルノアではないのだと強く感じたのだった。




