45. 最適解⑥ 邪魔者ですよね
エリザベスとのお茶会から数日が経った。
フェリシア、シルビア、エリザベスとクララの4人は廊下を歩きながら最近読んだ本について話していた。クララはエリザベスに負けないくらい恋愛小説ファンであった。
「『星降る夜に』読みましたか?こんな恋をしたらドラマチックで素敵よねぇ。」
クララはうっとりした顔で言った。
クララの言った本は人気作家の新作だった。
「逆境を乗り越えて真実の愛を貫く主人公達をとても応援したくなってしまいましたの。困難に負けそうなヒロインを優しく支えるヒーロー。王道のストーリーと言えばそうなんですが、引き込ませる文章はさすがですわ。私も優しい殿方に愛されたいわ!」
クララは胸の前で手を組み目を輝かせて語っていた。
「確かにドラマチックだったな。」
シルビアも同意するが、クララほどの熱量はないようだった。
「そうねドラマチックではありましたわね。」
エリザベスは他に何か思うところがあったようだ。
「えぇっ、お二人とも反応が薄いですわね。あんなにヒーローに大事にされたら・・・どこかに落ちていませんかね、私だけの王子様。」
まだまだ熱冷めやらない様子のクララはどこか遠くを見ているようだった。正に夢見る乙女と言ったところだった。
「そんなにいいの?」
フェリシアは首を傾げて聞いた。
「あら、フェリシア様はまだ読んでないの?」
「うん、まだ読んでないの。」
「まぁ、それは大変。今日持って来てるからお貸ししましょうか?」
「本当?貸してほしいな。ありがとう!」
キャッキャッと盛り上がる二人を見ていたシルビアとエリザベスが何とも言えない複雑な表情をしていたことにフェリシアは気付かなかった。
「はぁ~。」
クララから借りた本はドラマチックで確かに面白かった。しかしっフェリシアは話の内容というかシチュエーションが自分にかぶって純粋に話を楽しむことができなかった。
小説に登場するヒロインは学園でその国の王子に恋する。しかし王子には婚約者がいて、一旦は諦めるのだが、王子もヒロインの健気さなどに惹かれ恋をする。しかし二人は王子に婚約者がいるので想いを伝え合えない。婚約者は二人の気持ちに気付き様々な策で二人を引き離そうとするが、策を講じれば講じるほど二人の距離は近づいていく。最後は策を講じていたのが婚約者であることが判明し婚約は破棄され、主人公たちはお互いの想いを伝え合い、輝く未来への一歩を踏み出すのだった。
そう王道中の王道な話だ。フェリシアの好きなハッピーエンドなのだが、素直に良かった良かったとなれなかった。
「私ってこの話の婚約者の立ち位置だよね。」
もちろん嫌がらせなどしない。だが、一番の障害であるヒーローの婚約者なのだ。そして二人とも想いを伝える気がない。それはフェリシアがいるから。
「私って邪魔者、だよね?」
フェリシアは考えれば考えるほどその思いは強くなって、まるで底の見えない沼にずぶずぶ沈んでいくような気がした。
次の日のランチタイム。
ゴロゴロ野菜のシチューとパンを持ってきたフェリシアはパンをちぎったまま、ぼーっとシチューを眺めていた。
「どうしましたの?」
エリザベスが止まったままのフェリシアを心配して声を掛けた。
「手が止まっているぞ。シチュー好きだろう?」
エリックも声を掛ける。
「えっ、あぁ、シチュー冷めちゃうね。心配かけてごめんね。昨日夜更かししちゃってぼーっとしちゃった。」
フェリシアははっとしてパンをシチューに浸して食べ始めた。行儀が悪いので普段はできない食べ方だが、学園の食堂では黙認されている食べ方だ。
「・・・本か?」
シルビアがぼそっと言った。
フェリシアはピタッと動きを止めた。シルビアの声が聞こえなかったエリザベスとエリックは訝し気にフェリシアを見た。
「フェリシア!」
公務から帰ってきたジルべールとテオドールがやってきた。
「兄様っ!」
ぱっと瞳を輝かせフェリシアはは、ジルベールに抱きつきおかえりなさいの挨拶をした。そして次にテオドールに抱きついた。
「テオ兄様、おかえりなさいっ!」
テオドールの腕の中にすっぽり収まっていたフェリシアにテオドールは優しく微笑んだ。
「いい子にしていたかい?」
「・・・はい。」
フェリシアはいつものように元気よく答えることができなかったばかりか、テオドールの服をぎゅっと掴んでしまった。
「・・・あぁ、しまった。フェリシアが好きかと思って買ったお土産を忘れてきてしまったよ。あとで家に届けに行ってもいいかい?」
「テオ兄様はお忙しいのでしょう?兄様に渡してください。」
フェリシアが顔を上げると、優しく微笑むテオドールと目が合った。
「かわいいフェリシアの為に選んだものだよ。直接渡したいじゃないか。なぁ、ジルいいだろう?」
テオドールは軽くウインクをしてジルベールに聞いた。ジルベールは頷いた。
「あぁ、いいよ。久々にチェスの勝負もするかい?」
「いいな。そういうことだからまたあとで会おう、フェリシア。」
「はい。」
テオドールは腕を解くと、フェリシアの頭を撫でてからジルベールと歩いて行った。




