41. 最適解② 浮気です
「俺とお前は婚約してるよな。それなのにこれって浮気か?」
エリックは口元を押さえた。そしてフェリシアの両肩を掴んで揺らした。
「なぁ、そういうことだよな?」
分かり易くエリックは動揺していた。
「うわぁ、俺って最低。しかも彼女のこと婚約者のフェリシアに語っちゃたよ。俺、最低だな。」
エリックは頭を抱えてしまった。
フェリシアはエリックの背中をポンポンと叩いた。
「大丈夫。気にしてないよ。私もエリザベスのこと大好きだもん。かわいいと思うよ。」
エリックは顔を上げ、フェリシアを見た。
「そうだよな。顔はさキレイ系の美人なのに、仕草とかかわいいよな。声もいいよな。それに、ミーナに怒ってピシってキレッキレっの言葉言っている時なんか王女様って感じで気品があってな、」
「ス、ストーップ!エリザベス語りストップ!分かったからエリックの想いの強さはね。」
「分かるか?」
「分かるよ。こんだけ語られれば誰でも分かるって。聞いてて恥ずかしくなるよ。」
「ごめん。調子に乗った。つい、自覚したら、あれもこれも特別な想いで見てたんだって気が付いて、全部口に出してた。」
「うん、いいよ。見たことないエリックで中々新鮮だったよ。」
「俺も驚いているよ。俺の中にこんな自分がいたなんて知らなかった。やっぱりこれって浮気だよな?」
フェリシアは少し目をつむって、うーんと唸った。
「そうだねぇ、一種の浮気だよね。そもそもね、婚約者に面と向かって他の子好きになりましたなんて言わないし、婚約者に他の女の子がいかに素敵かって語らないよね。そう思わない?」
「そうだな。言わないよな普通はさ。俺おかしいよな?」
「だよね。でも私は嬉しかったよ、正直に話してくれて。エリックらしいよね。」
ふふふとフェリシアは笑っていた。
「何笑ってんだ。怒るとこじゃないのか?裏切者ってさ。」
呆れ顔でエリックは言った。
「いやぁ、エリックっていい奴だなって思って。正直で真っ直ぐで、さすが私の婚約者で、大事な友達。私怒る気ないよ。人の気持ちがどう動くかなんて分からないって前にバルトやノアが言ってたの。恋って本当にそうだなって思ったの。だから恋って落ちるって言うんだなって。いやぁ、エリックに先越されちゃったな。」
「フェリシア、お前忘れてるかもしれないけど、俺たち婚約していて、あと二年もすれば結婚して夫婦になるんだぞ。いいのか?こんな男と結婚するの嫌じゃないのか?」
「んっ、そうだね結婚するんだよね私たち。そのための婚約だもんね。」
「だなぁ。」
「結婚すること自体を疑ってなかったから、嫌だとかいいとかいう思いがないかな。」
「そうだよな。そういうものだって思って今まできたもんな。」
「私よりエリックの方こそ、好きでもない女と結婚するの嫌でしょう?」
「分からないんだ。王族に生まれた以上結婚に自分の意思が関わることなんてないって、政略として俺の結婚が扱われるのも当たり前だって教育されてきているだろう。それが王族に生まれたものの義務だって。幸い時勢が落ち着いていて親が柔軟な考えの持ち主だから、気の合う相手をとフェリシアとの婚約になったわけだろう。フェリシアに何の不満もないしな。結婚しろと言われれば受け入れるかな。フェリシアもそうだろう?」
「そうだね。エリックに不満はないから受け入れるね。」
「だよな。俺たちはそうだよな。」
二人は顔を見合わせ頷き合った。
「家同士のことだから余計にね。」
「そうだよな。」
「私さっきまでエリックの想いがはっきりとしなくてモヤモヤしてたんだけど、それはすっきりしたんだ。でもね、応援したいんだけどできないんだよね。応援したらダメだよね。酷い女だよね。」
フェリシアは頭を抱えた。エリックは呆れ顔で言った。
「そうだな。婚約者に応援されるってのも、おかしいよな。それにしても応援したいって、お前お人よし過ぎないか?」
「えー、だってエリックの初恋だよ。あのエリックのだよ。テーブルに突っ込んでお菓子ぶちまける奴だよ。木登り競争する奴だよ。それが初恋だよ。応援したくなるじゃない。」
「お前は俺を何だと思っているんだ。」
「大事な友達であり、婚約者様。」
「俺もフェリシアのこと大事な友達で婚約者だと思っている。だからこそ正直でありたい。嘘はつきたくない。エリザベスへの想いは浮気だよな。」
二人は顔を見合わせ、はぁっと大きくため息をついた。
「答えなんて最初からないのにね。」
「あぁ、婚約という事実があるだけだな。それに俺もどうこうしようという気はないんだ。ただフェリシアに対して後ろめたいだけで、さ。あっ、それも今日話して気持ちが軽くなったかな。」
エリックはそう言ってはっとした顔をしたかと思うと口元を押さえた。
「やっぱり俺、最低だな。そりゃそうだよな。好きな女がいるけど、昔から婚約しているから仕方なく結婚してやるよって言っているようなもんだろう。俺、酷い男な。」
「ふふっ、真面目だね。」
「あぁ、俺はいつでも真面目な男だ。」
胸を張るエリックは少し子供っぽい。
「ふふふっ、そうだね。そんなエリックも好きよ。」
「はははっ、こんな話してもきちんと聞いてくれるフェリシアが俺も好きだ。」
「ふふっ、ありがとう。うん、そうね、浮気を認めます。存分に彼女を想って初恋を楽しんでください。ただし問題行動は避けてね。」
「ははっ、何だそれ。」
「婚約者公認の浮気ってことだよ。」
「公認の浮気ってなんだよ。」
「堂々と好きな子を目で追って、笑顔にときめいていいって事かな。ちょっかい出して、沢山話していいよってこと。いいでしょう。」
フェリシアは人差し指を立てて、ニヤッと笑った。
「はははっ、フェリシア心広すぎだな。」
「いやいや、本来なら他の女見るなんてキィーってなんなきゃいけないのに、やきもち一つ妬かないなんて冷めすぎでしょう。」
「そんなことないさ。ありがとう、な。」
エリックは幼い頃と変わらないにかっとした笑いを見せた。
「こちらこそ正直に話してくれてありがとう。」
二人は顔を見合わせ笑い合った。




