36. 夏休み⑭ 過ぎた嵐
エリックとエリザベスが行ってしまった後、ミーナはしゃがみこみ続けていた。フェリシアとオスカー以外の人々に責められ、考えが足りないと言われ、自宅に帰れと言われてしまった。ペタンと地面に座り込み、ハンカチを握りしめ唇を嚙んだ。
「なんで私ばかり責められるのかしら。」
三年前、初めてヴィルノア殿下と一緒に過ごした時、たまに見せる笑顔が素敵で、花冠を上手に作ってらしてそれをフェリシアお姉様の頭に乗せた時の笑顔がとびっきり美しくて、好きだなって思った。あの笑 顔を私に向けてもらえたらって。その想いは夏休みにお会いする度に強くなった。すぐに、殿下がお姉様に特別な想いを寄せていることは分かった。でもお姉様のお相手はエリック殿下だ。ヴィルノアの想いは報われることはない。行き止まりな恋だ。だったら従妹でお姉様と少しだけ顔が似ている私に心変わりしてくれるのでは、と思った。
だから一生懸命気を引こうとしたけど、お姉様がいないとヴィルノア殿下は返事もしてくれない。今回はとにかく無視された。お返事一つもらえなかった。
あれ、なんで?今回に限って、なんで?
あっ、お姉様と一緒に行動することがなかった。行動するどころか、お会いしていない。最初の庭園でのお茶の時以外、ほとんどお姉様にお会いしていない・・・?
朝食はお姉様が早起きでミーナが食堂に行くともう食事を終えて、外にお散歩に行っていて、昼食はエリザベス様やシルビア様とピクニックランチと称して湖畔で食べていた。おやつはお友達の方とそれぞれお部屋で取っていて、夕食はエリック殿下とお二人で取るとのことでエリック殿下のお部屋に用意していた。それ以外の時間はエリック殿下とお散歩デートしていたり、シルビア様と図書室でお勉強されてたり、エリザベス様と本の内容について討論していたりとミーナが入って行くことができなかった。
フェリシアお姉様がヴィルノア殿下と一緒にいることもなかったが、ミーナとフェリシアお姉様が一緒にいることもなかった。例年なら一緒にボートに乗ったり散歩をしたりしたし、少なくとも食事は一緒に取っていた。それが今年はない。だからなのか今年は一度もまともにヴィルノア殿下と会話していない。会話と言っていいのか分からないが最後にお会いした時に近づくなと言われたのが一番長く話したのかもしれない。
気付いてもいなかったし、何の疑問も持っていなかったけど今思うとおかしい。
誰かに意図的にお姉様に会えないようにされていた・・・?
あぁ、誰かじゃないか。お姉様とヴィルノア殿下を除く全員で、かな?フェリシアお姉様に関わるなって 皆さん言ってたものね。
私が殿下を好きな気持ちは偽物だったのかな?恋に恋する、みたいな。
それももうどうでもいいかな。
殿下に嫌がらせしていたわけではないのにな。皆様からしたら嫌がらせでしかなかったってことだよね。
もうどうでもいいかな。
おうちに帰ってゆっくり考えよう。帰れって言われちゃったものね。帰ろう。
ミーナはやっとの思いで立ち上がり、湖畔で絵を描くフェリシアとヴィルノアを見た。遠目にも楽しそうなのは分かった。あんな風にヴィルノアと過ごしてみたかった、と再び込み上げる涙をミーナは堪えた。
「先程、ミーナ様がご自宅に帰られました。」
執事のセバスは告げた。夕食の為、食堂に皆集まっていた。
「あら、滞在予定がもう何日かあったわよね?」
フェリシアは首を傾げた。
「何でも急用ができたそうです。」
「そう、残念ね。あまりおしゃべりできなかったわ。」
「また来年がございますよ。」
「うん、そうね。」
フェリシアはにっこり笑って、スープをすくい始めた。
他のみんなはお互い視線を合わせて頷いた。
「シア、今日描いた絵はみんなに見せないの?」
ヴィルノアはスープをすくう手を止めて言った。
「お花が上手く描けたって言ってたよね?」
「うん、私的にはいいと思うの。黄色いお花のことよね?」
「ははっ、そうだね。前回よりはお花っぽいと思うよ。」
「そうだよね。かわいいお花だよね。」
「かわいい?あれはシュールって言うと思うよ。」
「シュールって酷くない?かわいいんだよ。」
フェリシアはぷくっと頬を膨らました。ヴィルノアは指でフェリシアの頬をつついた。
「ははっ、膨らんだ顔もかわいいね。大好き。」
「もう、知ってる。あっそういえばこの黄色いお花食べられるんだよ。」
グリーンの葉の上に乗せられた黄色い花をフェリシアは摘まみヴィルノアに差し出した。
「はい、食べてみて。あーん。」
ヴィルノアはパクンと一口で食べた。
「んっ、酸っぱい。ほら、シアもあーん。」
フェリシアもパクンと一口で食べた。
「嘘みたい。酸っぱいね。」
二人は顔を見合わせて笑った。
「いつも通りですわ。」
エリザベスは嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、いつも通りだな。」
エリックは目を細めにかっと笑った。。
「いつも通りですね。良かったですね、シルビア。」
オスカーはシルビアの腰を抱いて、優しく微笑んだ。
頬を少し赤く染めシルビアはこくんと頷て、オスカーの肩に頭を乗せた。
「良かったな、ヴィル。」
バルトは静かに呟いた。




