34. 夏休み⑫ 結婚と国益
「エリザベスも散歩か?」
エリックはピンクのバラの前に立つエリザベスに声を掛けた。
「ええ、この庭園のバラが美しくって。エリックもお散歩ですか?」
エリザベスはにっこり微笑んで言った。
「あぁ、風が気持ちいいから少し歩こうかと思ってな。良かったら一緒に回らないか?」
「えぇ、喜んでご一緒させていただきますわ。」
二人は顔を見合わせ楽しそうに笑った。
「そういえば聞いたか?昨日ヴィルがとうとうキレたって。」
「まぁ、まだ聞いていませんでしたわ。ずいぶん我慢されていたようですものね、ヴィルノア殿下。」
「そうだよな。昨日ちょうどフェリシアとその事話していたんだ。ヴィルがキレる前にミーナに注意した方がいいかなっと。フェリシアが自分が注意すると言ったんだが、万が一ってこともあるから俺らが言うってことで納得させたんだ。」
「万が一ですか?」
「あぁ、ミーナは考えが足りていないだろう?12歳とはいえ、思考が幼過ぎる。フェリシアにぽろっとヴィルの隠したい気持ちを言ってしまいそうだと思わないか?」
エリックは苦笑いを浮かべ、エリザベスを見た。エリザベスは頬に手を当てふぅっと息を吐き出した。
「えぇ、ありえますわね。」
「だよな。」
「ミーナはフェリシアを慕っているように思いますが、ミーナは殿下のこともあって感情的になるかもしれませんよね。何を言い出すか分かりませんね。」
「そう思ってフェリシアとミーナが接触しないようにと思ったんだが、先にヴィルがキレてしまったんだ。ヴィルの地雷を踏みぬいたらしい。で、バルトがその場を収めに行ってくれたらしいんだが、フォローをするどころかダメ押しをしたらしい。」
「まぁ、そうでしたのね。あんなに殿下にまとわりついてたミーナさんが全くお部屋から出てこないからどうしたのかしら、ってフェリシアと話しておりましたの。あらっ、でもヴィルノア殿下はご機嫌のようでしたわ。」
「はははっ、あれはね、フェリシアと一緒にクッキー作っていただろう。その成果だな。」
「あのお顔クッキーですね。そういうことですか。」
エリザベスはふふっと小さく笑った。
「ヴィルも単純だよな。」
エリックもはははっと笑った。
「前から思っていたのですが、エリックはヴィルノア殿下に寛容ですよね?」
エリザベスは頬に手を当て首を傾げた。エリックは少し目を泳がせ、苦笑いを浮かべた。
「あぁ、そう見えるよな。前にも言ったけどヴィルがかわいいんだ。それにフェリシアは最初に会った時から変わらない、いい友達なんだよ。フェリシアの方もそうだ。俺のこと友達としか思っていない。だからかな、ヴィルの一途さを咎める気にはならないし、むしろできることなら応援したいくらいなんだ。だが婚約という関係が俺とフェリシアにはあって、政略的な部分もあるからそう易々と婚約解消という訳にもいかないらしい。だから好き合って結婚する努力をしよう、というフェリシアの提案も分かる。変えられないならできるだけいい方向に進もうとするフェリシアはいつも前向きでいい奴だと思うしな。だけどお互い大切な友達枠のままなんだよな。上手くいかないものだな。」
「ふふっ、エリックもフェリシアもとても正直で誠実で、自分の気持ちに素直で・・・お互い優しすぎですわ。」
「優しいか?単に覚悟が決まらない、優柔不断なだけだ。」
「ふふっ、そうとも言いますね。」
エリザベスは優しく微笑んだ。エリックはその笑顔の美しさに目を奪われたが、はっと目を逸らし周囲の花に視線を向けた。
「・・・そうだよな。王族に生まれたからには、望む相手との結婚なんてできなくて当たり前で、国の利益に繋がる相手との結婚が俺の意思とは別のところで決まって、それを俺は粛々と受け入れなければならない。そんなことは分かっているし、受け入れている。いい奴だって思っているフェリシアと婚約していて、いずれ結婚するっていうのはむしろラッキーなんだ。そうは思うけど、兄としてヴィルの想いを応援したいんだよなぁ。」
「やっぱり優しいですね、エリックは。」
「ありがとう。こんなだからかな?ヴィルの一途さが時々羨ましく思うよ。」
エリックは大きく息を吐いた。
「分かりますわ。わたくしも羨ましく思いますもの。あまりにも純粋で一途で・・・。本当に羨ましいですわ。」
「どうにかしてやりたいんだけどな。多分その方がフェリシアの為にもなると思うんだ。でもその方法が思いつかない。もどかしいよな。」
「王族って言うだけで足枷が沢山あって難しいですわよね。」
「エリザベスは婚約者いないんだよな?」
「えぇ、でもこの留学が終わる頃には国が決めているかと思いますわ。第一王女ですもの、わたくしの意思など関係ありませんものね。わたくしも粛々と受け入れて、嫁ぐだけですわ。」
寂しそうに笑うエリザベスは、エリックを見て言った。
「やっぱり優しい婚約者が決まっているフェリシアが羨ましいですわ。」
「俺は果報者だな。エリザベスの相手がいい奴だといいな。」
「えぇ、そう願いますわ。」
「お互い立場には逆らえないものな。」
「えぇ、義務ですもの。国益に貢献しますわ。」
「そうだな。」
二人はお互いの顔を見合わせ苦笑いを浮かべた後、しばらくの間、静かに庭園を歩いたのだった。




