25. 夏休み③ 優しい嘘つき達
少し離れたところでエリザベスはぼんやりと二人の様子を見ていた。
「大丈夫ですか?」
エリザベスははっとして横を見ると、無表情なままフェリシア達を目で追っているヴィルノアが立っていた。戸惑いの隠せない声でエリザベスは答えた。
「ええ。」
「なんだか泣き出しそうなお顔に見えました。」
肩をびくっとエリザベスは揺らした。
ヴィルノアはちらっと横目でエリザベスを見、直ぐにフェリシア達に目をやった。
フェリシア達は楽しそうにショウウインドウを覗き込んでいる。
ヴィルノアは目を細めて言った。
「シアと兄上は昔からあんな感じなんです。シアに初めて会ったのは僕が8歳、シア達が10歳の時です。もうその時には仲良しだった。いつ会っても二人で楽しそうにしていた。」
「・・・そうなんですの。」
エリザベスはヴィルノアの話がどこに向かっているのか分からず、ヴィルノアと同じようにフェリシア達を目で追った。フェリシアがエリックの袖を引きながら、スイーツショップに入って行こうとしていた。二人とも楽しそうに笑っている。エリザベスはチクリと胸の痛みを覚えた。
「僕はそんな二人が大好きなんです。あの二人の笑顔が大好きなんです。エリザベス様はどうですか?」
ヴィルノアはゆっくり体の向きを変え、エリザベスと視線を合わせた。
「わたくしも二人が大好きですわ。」
エリザベスは感情の読めない微笑みを浮かべた。ヴィルノアも感情のない表情を保っていた。
「僕はシアにはいつも笑顔でいてほしいのです。兄上と話し、幸せそうに笑っていてほしいのです。」
「わたくしもフェリシアの笑顔が好きですわ。見ているとわたくしまで楽しく、幸せな気持ちになりますもの。」
エリザベスは屈託のない微笑みをヴィルノアに向けた。
「僕も大好きなんです、シアの笑顔。」
ヴィルノアが浮かべた笑顔は優しく、息を飲むほど美しかった。エリザベスはその美しすぎる笑顔に言葉を失った。
「シアとエリザベス様は仲の良い友人関係のように見えます。」
「えぇ、フェリシアは初めてできた本当の友人です。わたくしが『王女』という肩書をすっかり取り払って、一人の16歳の女の子として友達になってくれた初めての方ですもの。フェリシアのおかげでシルビアをはじめ、クラスのお友達ができましたの。国にいた頃には考えられない程、毎日を楽しく過ごせていますの。それも全部フェリシアがお友達になってくれたからですわ。本当に感謝しておりますの。」
胸の前で手を組み、にっこりとエリザベスは微笑んだ。そして目を閉じ、胸に手を当てエリザベスは言った。
「フェリシアはわたくしの大切な大切な友人ですわ。」
「シアも同じように思っていると思います。」
ヴィルノアは再び感情を消した表情になった。
「僕は同じように兄上が大好きなんです。僕は幼い頃は体が弱く、ベットの上で過ごすことが多かった。何の憂いもなく動き回れる兄上達が羨ましかった。薬を飲んでも沢山寝ても、すぐに熱を出し、動けなくなってしまう。兄上達のようには動けない事に最初は苛立ち、それも諦めに代わり、ただただ無為に毎日を室内で過ごしていました。そんな僕を一番気にかけてくれたのがエリック兄上なんです。度々僕の部屋を訪れてくれて、家庭教師から教わった内容から、毎日のちょっとしたことまで沢山の話を聞かせてくれました。そう、もう色々と話してくれたのです、身振り手振りをつけて、それはもう楽しそうに。」
ヴィルノアはどこか遠くを見るかのように目を細めた。
「そんな兄上に僕は救われたのだと思います。だからこそ兄上にも幸せになってもらいたいんです。」
「本当に仲の良いご兄弟ですのね。」
「えぇ、兄上は僕に優しいです。」
分かるでしょうと訴えかける目でエリザベスを見た後、ヴィルノアはフェリシア達に視線をやった。フェリシア達がスイーツを見ながら楽しそうに何かを話しているのがショウウインドウ越しに見えた。
「本当にエリックは優しいですわ。」
エリザベスもフェリシア達を見ながら、自然と口元が緩んだ。
「えぇ、そんな兄上と一緒ならシアはずっと幸せに過ごせると思いませんか、エリザベス様。」
「エリックは素敵な方です。フェリシアもですわ。そんな二人ですもの。必ず幸せな家庭が築けると思いますわ。」
チクリと胸の痛みを再び覚えたがエリザベスは気付かないことにした。
ヴィルノアはちらっとエリザベスを見た後、ふうっと息を吐いた。
「大丈夫ですか?泣きそうな顔されていますよ。」
エリザベスは肩を一瞬ぴくっと揺らしたが、小さく息を吐くと、すぅっと王女らしい微笑みを浮かべた。
「大丈夫です。ありがとうございます。」
「僕は平気で噓を吐く人間は好きではありませんが、優しい噓つきは好きですよ。」
「ふふっ、ありがとうございます。お互い頑張りましょうね。」
エリザベスは嬉しそうに微笑んだ。
「はい、僕はかわいい弟でいます。シアの笑顔を守るために。」
ヴィルノアは悪戯っ子のように笑った。
「わたくしもいい友人であると誓いますわ。大好きなフェリシアの笑顔の為に。」
エリザベスは胸に手を当て微笑んだ。
「ありがとうございます。」
二人は視線を合わせた後、フェリシア達に目を向けた。
エリックの手にはきれいにラッピングされた箱があり、フェリシアと店を出てきたところだった。話の種は尽きないようで二人とも笑顔で何かを話していた。フェリシアは自分たちを見ているヴィルノアとエリザベスに気付き、手を振りながら小走りで二人の元にやってきた。
「美味しそうなお菓子いっぱい買ったから、後でみんなで食べようね!」
満面の笑みを浮かべてフェリシアは言った。
「うん、楽しみだね。」
「ふふ、楽しみですわ。」
「ふふふっ。」
後から追いついたエリックも交え、四人で尽きることのない取り止めのない話をしたのだった。




