24. 夏休み ② お買い物
「まぁ、素敵ですわ・・・。」
エリザベスは頬に手を当て目を細めた。
彼女が吸い寄せられたのは画材店のショーウインドウで、そこには様々な画材と共に水彩絵の具で描かれた花々や、湖や山々が納められたスケッチブックがイーゼルに置かれていた。緻密なタッチの花々は目の前にお花畑が広がっているかのような錯覚に陥る作品だった。
「うわぁ、上手いね。こんなに素敵に描けたらいいよねぇ。」
エリザベスに追いついて、ショーウインドウを見たフェリシアが言った。
「絵か。フェリシア、下手だよな。」
フェリシアの後ろに立ち同じくショーウインドウの絵を見たエリックはニヤッと笑う。
「そうですね。独特ですよね。」
エリックの横に立つ、オスカーは苦笑いを浮かべた。シルビアもこくんと頷く。
「そんなに独特なんですか?」
まだ一度もフェリシアの絵を見たことがないバルトが首を傾げる。エリックはハハハっと笑いながら答えた。
「独特といえば聞こえはいいが、な。」
「酷い!いつも一生懸命描いてるのに!」
フェリシアは頬をぷくっと膨らましてエリックを睨んだ。
「仕方ないだろう。いつも何描いてあるか分からないんだから、さ。」
「そんなことないもん。ちゃんと分るもん。」
「そうか?前に猫を描いたっていう絵を見せてくれたけど、かろうじて分かったのは生き物だってことくらいだったぞ。分からなかったのは俺だけじゃない。ジルベール殿はあの絵を見て異国の呪いの面と言ってたじゃないか。覚えているだろう?」
「ううぅぅ~お兄様ったら。」
フェリシアは両手で顔を覆い俯いた。
「フェリシアは絵の出来はともかく描くの好きだよな?」
フェリシアは顔を上げ、元気に答えた。
「うん、楽しいよ。」
「王子妃教育に芸術ってなかったか?」
「あるけど絵を描くのはなかったかな。絵画鑑賞はあったよ。」
「そうか。ヴィルと俺は小さい頃に教養の一つとしてあったぞ。なぁ、ヴィル。」
「あったね。でも、僕は数回デッサンを教わっただけかな。」
「俺も似たようなもんだ。フェリシアもそういう授業を受けていれば少しは違ったかもな。」
「もうっ、楽しく描ければいいじゃない!」
「そうだな。」
エリックは両手を広げ肩の高さまで上げ、まあまあとフェリシアを宥める。
「まぁ、色遣いはいつもきれいだよな。」
「そうだよね!」
フェリシアは顔を上げニコッと笑った。
「見てみたいですね。」
二人のやり取りを見ていたバルトはしげしげと言った。
「わたくしも見てみたいですわ。」
エリザベスも興味津々だ。
「あぁ、だったら明日はお絵描き大会にしますか?天候に左右されませんし、いいのではないですかね。」
オスカーは人差し指を立て、提案した。
「そうだな、いいな。」
「それでは道具を揃えますか。絵の具と筆とスケッチブックがあればいいですかね。あぁ、水入れとエプロンもあった方がいいですか。買ってきます。シルビィ手伝ってくれますか?」
シルビアはこくんと頷いた。オスカーは口角を上げシルビアの手を取ると、さっさと画材店に入って行った。
「相変わらず、だね。」
「相変わらず、だな。」
フェリシアとエリックは顔を見合わせて笑った。
ふっとフェリシアは何かに気付いたようで顔を隣のスイーツショップに向けた。
「うわぁ、かわいい!ねぇ、見て。」
フェリシアはエリックの袖をくいっと引き、隣のスイーツショップのショーウインドウを指さした。
二人は隣の店のショーウインドウの前に立ち、中に飾られたお菓子に目を奪われた。ショーウインドウの中にはクリームなどで飾られたクッキーで作られた家があり、マジパンで作られた小人たちが周りに立っていた。
「かわいい!」
「よくできてるなぁ。」
「これ食べられるんだよね?」
「そうだろうな。お前、この小人たちも食うつもりか?」
「マジパンだよね。美味しいんだよねぇ。」
「うわぁ、色気より食い気か?」
「そんなこと言って、エリックだって好きなくせに。食べたいでしょう?」
「うっ、そうだな。食べたいな。」
「ふふっ、正直なエリック大好き!中でお菓子買っていこう!」
「はははっ、俺も食いしん坊なフェリシアが好きだ。行くか。」
「食いしん坊って淑女に対して失礼じゃないかしら。エリックだって食いしん坊じゃない。」
フェリシアは悪戯っ子のような顔をして、エリックの顔を覗き込んだ。
エリックはコホンと咳払いをして、片手を胸に当て、もう片手を差し出した。
「姫、私に姫と一緒にお菓子を選ぶ栄誉を頂けますか。」
フェリシアはそっとエリックの手に自身の手を乗せ、にっこり微笑んだ。
「はい、王子様。喜んで。」
二人は顔を見合わせると楽しそうに笑って、スイーツショップに入って行った。




