21. 髪を結いましょう
「髪、伸びたね。」
フェリシアは髪が肩につく長さまで伸び、片手でよけながら食事をするヴィルノアを見て言った。くせ毛なのかゆるくカーブした髪が揺れていた。
「邪魔そうだね。」
「そうなんだ。髪まで食べちゃいそうなんだ。」
ヴィルノアは髪を耳にかけた。その仕草が14歳ながらなかなか色っぽい。ほぅっと女生徒の声があちこちから聞こえた。
「耳にかけても落ちてくるんだ。」
うーん、顔がいい子は何してもかっこいいものね、とフェリシアは思った。
「髪、触ってもいい?」
「うん、いいよ。」
フェリシアは立ち上がりヴィルノアの後ろに立った。手櫛で軽く整え、耳の高さで一つにまとめた。
「ふわふわの柔らかい髪だね。」
フェリシアは自身の髪の一房を結わいていたリボンを解き、そのリボンでヴィルノアの髪を結わいた。まとめられた髪はクルリクルリと先が丸まりかわいらしい。
「どう?すっきりした?」
きれいにリボンが結べ、満足したフェリシアはにっこり笑った。ヴィルノアは後ろに手をやりリボンの端に触れた。
「ありがとう。このリボン、シアの?」
「うん、そうだよ。兄様と一緒に選んだリボンなの。きれいな色でしょう。私の瞳と似ていていいんじゃないかって兄様が勧めて下さったのよ。」
「ジルベール殿の言うとおりだね。シアの瞳に似た色できれいだね。」
ヴィルノアは目を細め、微笑んだ。
「髪は結わいた方がいいよ。かわいいんだから、ね。リボンは気に入ったのならあげるよ。」
「かわいいって、僕もう14歳だよ。そろそろかわいいから卒業したいな。」
「反抗期?ノアは出会った時からずっとかわいいんだよね。かわいい弟だよ。うーん、かわいいじゃなかったら、なんて言えばいいのかなぁ?」
「かわいいって子供っぽく聞こえるし、女の子に向けて使う言葉だよね。僕は大人とまでは言わないけど男だからね。」
「そうだね、男の子だもんね。かわいいは女の子に向ける言葉だったね。嫌だったんだね。気付かなくてごめんね。ついつい出会った頃のノアみたいに思っちゃって。」
フェリシアはしゅんと下を向く。
「あの時は8歳だったよね。あれから六年経ったんだ。背も伸びたし、声も低くなったよ。それでもシアには男に見えないかな?」
「そうだよね。大きくなったよね。」
「大きくって・・・やっぱり子ども扱い?」
「ううん、そういうつもりじゃなかったの。ノアはかわいいから、あっ、かわいいはダメだった・・・んーでもやっぱり私にとってノアはかわいいから、えーと、このかわいいは見た目とかじゃなくて存在・・・そうノアという存在自体がかわいいの。通じてるかな?」
フェリシアは首を傾げた。そして正直に言った。
「ちゃんと男の子に見えてるよ。でも大人の男性ではないよね?まだ14歳だもの。」
「・・・男に見えてるならいいよ。」
「もちろん見えてるよ。女の子にもてもてないい男なんだよね。分かってるよ。」
「・・・シアにとっていい男になれるよう頑張るよ。まだ14歳だからね。伸びしろはあるよね。」
ヴィルノアはぼそっと言うとふぅと大きくため息をついた。
そして指にリボンを絡めるとヴィルノアは言った。
「このリボンはもらうね。」
「うんっ、あげる!」
フェリシアはにっこり微笑んだ。
「ありがとう、大切にするね。」
ヴィルノアは嬉しそうに微笑んだ。
「今度代わりのリボン送るよ。」
リボンを優しく撫でてヴィルノアは言った。
「ちょっと前までは短くしていたよな。」
二人のやり取りを見ていたエリックが思い出して言う。
「顔に髪がかかると邪魔だから伸ばしたくないって言ってなかったか?」
「そうだね、言ってた。」
ヴィルノアは苦笑いを浮かべた。
「エリックは出会ったころから短いよね。」
「ああ、邪魔くさいの苦手なんだ。剣を振るう時に邪魔だろう?汗かくしな。」
「エリックには短い髪が似合っているわ。好きよ。」
「おうっ、ありがとうな。フェリシアもそのサイドを少し結わいているの似合っていると思う。好きだな。」
「ふふ、ありがとう。私も気に入ってるの。」
フェリシアとエリックは顔を見合わせにっこり笑った。
「ヴィルは突然伸ばし始めたよな。なんかあったか?」
エリックは首を傾げた。
「そうだね、伸ばし始めてここ一年くらいかな。理由は秘密かな。結構恥ずかしいから。」
「えぇ、理由聞きたい。」
フェリシアは身を乗り出す。
「内緒だよ。」
ヴィルノアは人差し指を自身の口に当てた。
「内緒?」
「そう、内緒。誰にも言っていないんだ。」
「内緒って言われると知りたくなるね。だめ?」
「だめ。シアでもだめ。」
「教えてくれてもいいのに。」
フェリシアはぷくっと頬を膨らます。ヴィルノアはその頬を指でつついた。
「ははっ、子供みたい。かわいい。大好き。」
「もうっ、知ってる。」
フェリシアは一層頬を膨らませた。
「フェリシアったら。」
エリザベスは頬に手を当てる。
「なんだろうな、これは。」
エリックは苦笑いを浮かべる。
「・・・魔性。」
オスカーは眼鏡を押さえた。
「・・・頑張ってるな。」
シルビアはぼそっと呟いた。




