167. 姿絵コンテスト㉚ 正直な弟達
クララが視線をマリア達の後ろに向けると、苦笑いを浮かべたマリアの弟たちが立っていた。
「姉上、バルト殿と付き合うことになったんだよね。」
バルトと同じ年の弟は、バルトとマリアを交互に見ながら言った。
「ええ。」
弟二人は顔を見合わせ、こくんと頷き合い、二人はバルトに顔を向けた。
「バルト殿、姉上をよろしくお願いします。姉上は口うるさくて、気も強いけど、すごく涙もろくてすぐ泣くんだ。姉上を泣かせるようなことはしないでくださいね。」
下の弟が言うと、上の弟もこくんと頷いた。
「姉上をよろしくお願いします、バルト殿。姉上のあんなに幸せそうな顔を始めてみました。バルト殿なら、姉上を任せられると思いました。俺たちの大事な姉上です。姉上をどうか幸せにしてあげてください。」
弟二人は頭を静かに下げた。
マリアは瞳を潤ませ、弟達を見ていた。
バルトはハンカチでマリアの目元を押さえ、零れ落ちそうな涙を拭うと、マリアの腰を抱き引き寄せた。
「もちろん。マリアさんを幸せにすると誓うよ。」
弟達は顔を上げ、嬉しそうに笑って、言った。
「「よろしくお願いします。」」
「はい、シア、ハンカチ使って。」
ヴィルノアはハンカチをフェリシアに差し出した。
フェリシアはバルトとマリアと弟たちのやり取りを見守っているうちに、気付かないうちにボロボロと涙を零していた。
「あっ、私、泣いてた。」
「気が付かなかったの?」
「うん。ハンカチ借りるね。ありがとう。」
「いいよ。あげる。僕にはこれがあるからね。」
ヴィルノアはもう一枚のハンカチをポケットから取り出した。
「あっ、それ。使ってくれてるんだね。」
「うん。いつも持っているよ。シアが頑張って刺繍してくれたものだからね。使っているかといわれると・・・ごめんね。もったいなくて使えないんだ。だからもう一枚ハンカチを持っていたんだ。」
「使って欲しいな。」
「もったいないよ。」
「また作るよ。だから使って。」
「・・・嬉しいけど、シアの手を傷つけてほしくないな。」
「だって・・・不器用なんだもん。でも、ノアにあげたいんだよ。」
「そんなシアが作ってくれたんだ。ねっ、これを使うのがもったいないって言うの分かるでしょう。でも、持っていたいんだ。」
ヴィルノアはハンカチにそっと口付けた。
「・・・次は指に穴をあけないように頑張るね。」
「うん・・・嬉しいけど、あまり無理はしないでね。」
ヴィルノアはフェリシアの手を取って指先に口付けた。
「・・・うん。」
フェリシアは頬を赤く染めて、微笑んだ。
「ああ、やっぱりフェリシア様はかわいいな。」
「そうだよね。かわい過ぎだよね。」
フェリシアとヴィルノアのやり取りが目に入った弟二人は顔を見合わせ頷き合った。
「でも姉上もいけてると思うよ。フェリシア様程じゃないけど、会場内、フェリシア様を除けば一番じゃない?」
「そうだよな。今日の姉上はフェリシア様除けば一番だ。もっと前髪を短くしたらいいんじゃないか?それとも、眼鏡を変えるとか・・・。」
弟二人がマリアを褒めているのかどうか分からない話をしていると、マリアは楽しそうに笑って言った。
「ふふっ、私もフェリシアはすごくかわいいと思うの。ほら、特にヴィルノア殿下の隣で微笑むフェリシアは女の目から見てもかわい過ぎよ。でも、ありがとうね。その次にかわいいって言ってくれて。こんなに褒められて、いいのかしら?」
「マリアさんはそのままでも充分かわいい。」
バルトはマリアの腰に回した手に力を込めた。そして、バルトはマリアに優しく微笑みかけて力強く言った。
「化粧なんかしなくても、マリアさんはとてもかわいいよ。」
「・・・あ、ありがとう、バルト君。」
マリアは顔を真っ赤に染め上げていた。
弟二人はマリア達のやり取りを見て、眉を下げた。
「・・・ごめんね。姉上はこんなにかわいい女の子だったのに、かわいくないなんて言って、姉上を傷つけて・・・僕たち、酷い弟だね。本当にごめんなさい。」
「俺も姉上に甘え過ぎていたよ。考えなしでした。ごめんなさい。」
弟二人はしゅんと肩を落とした。
マリアはふんわりと微笑むと弟たちの頭を撫でた。
「もういいのよ。二人の謝罪は充分受け取ったわ。」
「うん、ありがとう、姉上。」
「姉上、ありがとう。」
三人は顔を見合わせ微笑みあった。
バルトもマリアの横でその光景を見守りながら、温かい気持ちになり、自然と口角が上がっていた。
こうして姿絵コンテストはさまざまなドラマと共に盛況のうちに閉会した。
後日、姿絵を描く絵師として指名されたヴィルノアは、三人(正確には六人、それぞれがパートナーと共に描いてもらうことを希望した)を三回に分けて描ききった。渋々引き受けたことだったが、フェリシアの励ましもあって手を抜くことなく、その丁寧な仕事っぷりに誰もが感激し、大事そうに持ち帰った。
そしてフェリシアは一組描き終えるごとに庭の東屋で、ヴィルノアとご褒美タイムを送った。フェリシアからの額から始まり唇に至る口付けと、膝枕でのお昼寝。これらはプラトニックな二人にとってはフルコースとも言え、ヴィルノアを大変喜ばせた。
このことは一組目の後、偶然見かけた者から噂が広まり、三組目の頃には遠巻きに多くの見学者が出るほどになった。男性陣はかわいい彼女に同じように甘やかしてもらいたいと願い、女性陣は素敵な彼氏と甘い時間を過ごしたいと想像を広げていた。その為か、フェリシア達がご褒美タイムで使わなくなった東屋は、時折、様々な恋人たちの憩いの場として膝枕を楽しむ者達が見られるようになった。
そう、学園は今日も平和な時間が流れている。




