164. 姿絵コンテスト㉗ 弟
姿絵コンテストはミニゲームやダンスなどが行われ、あと30分で閉会というところまで進行していた。
フェリシアはマリアと会場の壇上下で待機させていたマリアの弟達の元にやってきた。
弟達は口をポカーンと開いて、マリアを見つめた。
マリアはおどおどしながら弟二人に言った。
「ど、どうかな・・・?少しお化粧もしてもらったんだけど・・・変かな?」
フェリシアは静かに弟達を見つめた。
弟達はフェリシアの視線に気づき、はっと我に返った。
「姉上、とてもかわいいです。」
「かわいい!!姉上。」
マリアは苦笑いを浮かべて言った。
「お世辞でも嬉しいわ。」
弟二人はブルンブルンと首を横に振った。
「お世辞じゃないよ!すごくかわいいよ!!」
「そうだよ。姉上にお世辞言ってどうするのさ。姉上、すごくいいよ。」
「うん。この会場の誰よりも・・・あっ、フェリシア様がいた。ヴィルノア殿下と一緒にいるフェリシア様は強烈なかわいさだったから、うん、その次くらいに、かわいいよ。」
「あのフェリシア様はかわい過ぎたよね。確かに、フェリシア様の次にかわいいよ、姉上。」
弟二人は顔を合わせてうんうんと頷き合っていた。
マリアはおかしそうに笑って言った。
「ふふっ、それって褒めてるのよね?お世辞じゃないって信じるわ。私も殿下といるフェリシアはとてもかわいいと思うもの。そんな言わなくてもいい事を言うのがあなた達よね。そんな馬鹿正直なあなた達の言うことを信じるわ。今日の私、自分でもかわいいって思うもの。」
弟達は眉をこれでもかと下げて、愁傷な態度で言った。
「姉上、今までごめんね。姉上が俺たちの戯言を気にしているなんて知らなかったんだ。小さい頃から売り言葉に買い言葉的にかわいげがないとか言ってきたから気にしていなかった。俺、酷い言葉を姉上にぶつけてきたよね。姉上の優しさに甘えていたんだと思う。」
「僕もごめんなさい。僕がだらしないから、姉上が注意してくれていたのに、かわいくないとか言って散々姉上に悪態をついてきた。今日の姉上はとてもかわいいよ。姉上が自分にかまう時間がないくらい、僕らの面倒を見て来てくれたのに、僕はそれを知っていたのに、意地の悪いことばかり言ってしまった。本当にごめんなさい。僕も早く大人になるように頑張るから、姉上はもっと自分のことにこれからの時間を使って。」
「そうだよ、姉上には幸せになってもらいたいんだ。」
弟二人は拙いながらも思いのたけを伝えると、しゅんと肩を落とした。
マリアは目を潤ませて、ふんわり笑って、二人の頭を撫でた。
「ありがとう。二人の気持ちはよく分かったわ。今まで口うるさくいってしまってごめんなさい。もう二人は充分自分で何でもできる年なのに、ついつい小さい時のように扱ってしまっていたわ。」
弟二人は首を横に振って言った。
「言われるようなことをしていた俺らがいけなかったんだ。」
「そうだよ、姉上。僕らの方こそ謝るべきなんだ。」
「うん、ありがとう。」
マリアは感激のあまり、目を潤ませ、今にも涙が零れ落ちそうだった。
「マリア、泣いては駄目よ。化粧が崩れてしまうわ。」
フェリシアも瞳を潤ませながら、ハンカチをマリアに差し出した。
マリアはハンカチを受け取り、押さえるようにして涙をハンカチにしみこませた。
「そうね。折角かわいくしてもらったんだもの。もう少しこのままでいたいわ。」
「うん。本当にかわいいわ、マリア。いつものマリアもかわいいけど、今日は一段とかわいい。ベンジャミン様の腕前もたいしたものね。」
「ええ、私みたいなのでも、化粧してもらった後で鏡を見たの。今日の私、かわいいって思ったのよ。」
「もう!元々マリアはかわいいって言ったでしょう。それがナチュラルメイクとヘアアレンジで、よりかわいくなっただけなのよ。」
「ふふっ、フェリシア、いつもありがとう。私、少しだけ自信がついたわ。」
「よかったぁ。それで、例の件、結論は出た?」
フェリシアは真剣な顔でマリアに聞いた。
マリアも真剣な顔つきでこくんと頷いた。
「ええ、自分とよく話し合ってみたの。それで・・・。」
フェリシアはマリアの言葉を途中で遮って言った。
「ああ、今言わなくていいよ。彼に最初に言ってあげて。」
そして優しく微笑むと、マリアの手を取り、フェリシアはマリアを壇上にエスコートした。
マリアも弟達も、なぜフェリシアがマリアを壇上に連れて行くのか分からず、オロオロとした。
壇上にはバルトが緊張した面持ちで立っていた。
「はいっ、バトンタッチね。頑張って、マリア。ついでにバルトも、ね。」
フェリシアは差し出されたバルトの手の上にマリアの手を乗せ、微笑んだ。
バルトは乗せられたマリアの指に自身の指を絡め、マリアを引き寄せて、余裕のない笑みを浮かべて強張った声で言った。
「はい、頑張ります。」
「バ、バルト君?えっ、フェリシア?」
マリアは困惑一杯の顔でバルトとフェリシアの顔を交互に見た。
フェリシアはにっこり微笑んで言った。
「素直になればいいのよ、マリア。その結果、何が起きても、私はマリアの友達よ。」
そう言うとフェリシアは片手を挙げた。
それを合図に会場の明かりは落とされた。数秒の暗闇の後、壇上にスポットライトが当てられた。その光の中には困惑顔のマリアと、彼女の手を取り固い表情のバルトが立っていた。




