161. 姿絵コンテスト㉔ 色仕掛け
最初に揃った女子生徒の後、テオドールはどんどん紙を引き、次々と賞を貰えるものが決まっていった。
会場内はクララとテオドールの軽快なやり取りによって、盛り上がりを見せていた。
結局、姿絵を描いてもらう権利は誰もがヴィルノアを指名した。
「うーん、ノアってば大人気。」
フェリシアがおどけて言うと、ヴィルノアは不貞腐れた顔で言った。
「僕はシアしか描かないのに・・・。」
「約束したでしょう。頑張ってね。」
「・・・シア、約束だからね。」
「うん。約束は守るよ。そうだ三組も絵を描いたら疲れるよね。絵を描いて疲れたノア君を膝枕でお休みさせてあげましょう。どう?頑張れそう?」
「いいね。僕、頑張るよ!」
ヴィルノアは満面の笑みで言うと、フェリシアはやれやれといった顔をし、苦笑いを浮かべた。
「ふふ、応援してる。」
ヴィルノアはこくんと頷いた。
パーティの数日前のこと。
この余興の賞品の一つに、『姿絵をお好きな絵師に描いてもらう権利』というのを入れたい、とクララはヴィルノアに話した。そして余興の勝者がヴィルノアを指名してきた場合、快く描いてほしいとクララはヴィルノアに頼んだ。
ヴィルノアは首を横に振った。
「嫌です。僕はシアしか描きません。というか、シア以外描きたくありません。」
クララは苦笑いを浮かべた。
「はい、殿下の意向は理解しています。ですが、この商品はかなり皆様に喜んでいただけるかと思うのですよ。しかも殿下が描いてくださるとなれば特にです。殿下以外の姿絵を応募してくださった絵師の方々には了解していただきました。殿下、今回のイベントを盛り上げる為です。殿下が指名されたら描いて頂けませんか。」
「いやです。シアじゃないなら描きません。」
プイっと顔を背けるヴィルノアは子供のようだ。
「フェリシア様、ヘルプ・ミーです。」
クララはフェリシアに泣きつくことにした。
フェリシアは相変わらずヴィルノアのお膝の上に座って、クララとヴィルノアのやり取りを黙って聞いていた。
クララにお願いされたフェリシアはふぅっと小さく息を吐いて、ヴィルノアの両頬を両手で挟み、ヴィルノアの顔を自分に向けた。
「ノア、クララのお願いを聞いてあげて。」
「やだ。シア以外、僕は描かないよ。」
「すっごくノアの気持ち、嬉しい。いつもかわいく描いてくれて、私、ノアの絵が大好きよ。」
「うん。シアがかわいいから、絵の中のシアもかわいくなるんだ。」
フェリシアはふんわり微笑んだ。
「ふふ、ありがとう、ノア。いつもかわいく描いてくれて。」
「当然だよ。シアが大好きだからね。」
ヴィルノアは優しく微笑んだ。
「うん、知ってる。ノアが私しか描かないって言うのも知っているけど、だけどね、今回だけでいいからクララのお願いを聞いてほしいの。賞品が当たった人たちに喜んでもらいたいの。だめ?」
ヴィルノアは再び不貞腐れた表情になった。
フェリシアはにっこり微笑んで言った。
「ねっ、ご褒美あげるって言ったら、どう?」
フェリシアはふぅっと小さく息を吐いて呼吸を整えると、ちょっと背伸びをしてヴィルノアの額にチュッとリップ音をさせてキスをした。そして顔を少し傾けヴィルノアの左のこめかみに、また逆に顔を傾け右のこめかみに、頬から手を離し首に回し左頬に、そして右頬にと次々にキスをしていった。そして正面からヴィルノアの顔を見ると、ゆっくり顔を近づけヴィルノアの唇に自身の唇を重ねた。ゆっくり唇を離したフェリシアはヴィルノアの胸元に顔を埋め、ぎゅっと胸元を掴んだ。
「ねっ、お願い。」
ヴィルノアは口元を手で押さえ、頬を赤らめた。
「・・・ずるいよ、シア。こんなことされて僕がシアからのお願いを断らないのを、分かってやってるよね。」
「私に甘いノアが大好きよ。」
フェリシアはヴィルノアの胸元に頬を摺り寄せた。
ヴィルノアは優しくフェリシアを抱き締めた。
「・・・やっぱりずるいや。こんなシアを前にして、嫌って言い続けられる男はいないよ。・・・今回だけだよ。」
「ありがとう、大好きよ、ノア。」
ぎゅうっとフェリシアはヴィルノアの抱きついた。
「うん。僕も大好きだよ、シア。」
「うん。知ってる。指名されて描くことになったら、またご褒美あげるね。」
「・・・やっぱりずるいよ。ご褒美貰いたくて指名されたくなっちゃうじゃないか。」
「ふふ、ずるいかな?悪女って事かな?」
フェリシアがすりっと頬をヴィルノアの胸元に摺り寄せると、ヴィルノアはふぅっと小さく息を吐いた。
「ずるくないです。世界で一番かわいい僕のシアです。」
「ふふ、嬉しい。ありがとう、ノア。」
「うん、やっぱり勝てる気がしないよ。・・・もう、本当に大好き、シア。」
「うん、知ってる。」
「はい、私も知っています。フェリシア様、渾身の色仕掛け、ありがとうございます。私までドキドキしちゃいました。」
クララがするっと会話の入ってきた。
ヴィルノアは大げさにため息をついた。
「シアはかわいいだけではなくて、時々すごく色気を漂わせた顔で僕を翻弄するんです。」
「そうですねぇ。色香むんむんでしたね。男ならイチコロですね。」
「はい。僕はイチコロです。シアにはどうしても勝てません。」
「惚れた弱みってやつですね。という訳で、指名されたら描いて頂けるということで、よろしいですね、殿下。」
ヴィルノアはこくんと頷き、フェリシアをぎゅっと抱きしめた。
「はい、頑張ります。シアに喜んでもらえるように頑張ります。」
クララはくすっと笑って言った。
「ぶれない殿下は素敵です。私が思うに、多分殿下に指名が集中するのではないかと。・・・よろしくお願いします。」
「奇遇ですね。僕もそんな気がするんですよ。」
ヴィルノアは苦笑いを浮かべた。
「最大三回、絵を描くんですよね。三回、シアからのご褒美がもらえるのだって思ったら、頑張れそうです。」
フェリシアはヴィルノアの耳元に顔を近づけ囁いた。
「頑張るノアはとても素敵。大好きよ。」
ヴィルノアは口元を手で押さえ、頬をほんのり赤くした。
「・・・シアには勝てないよ。」
クララはうんうんと頷いた。
「お二人の絶妙なバランス、私はかなり好きです。これからもイチャイチャ続行でお願いします。」
「「・・・はい。」」
ヴィルノアとフェリシアは顔を見合わせ微笑んだ。




