157. 姿絵コンテスト⑳ バルト君
マリアと別れ、フェリシアとクララが共に教室に戻ると、バルトとヴィルノアが何かの書類を片手に話をしていた。
ヴィルノアはフェリシアに気付き、にっこり微笑んで片手を挙げた。
「おかえり、シア。」
「ただいま、ノア。いい子にしていた?」
フェリシアがにっこり笑って言うと、ヴィルノアは目を細めて言った。
「はは、いい子にはしていたよ。お子様扱い?」
「ふふっ、バルト、ありがとうね。」
バルトは少し緊張した面持ちでフェリシアを見た。
「いいえ。ヴィルと仕事をしていたので。・・・あのぅ、フェリシア様、クララ嬢、マリアさんは・・・。」
「ん、帰ったわよ。」
「・・・そうですか…何か言っていましたか?」
「・・・バルトが頑張っているってことは聞いたわ。ちゃんとアプローチしていたのね。」
「はい。先日、婚約を前提にお付き合いをしてもらいたいと伝えました。・・・待って欲しいと、考える時間が欲しいと言われました。」
バルトはぎゅっと手を握りしめて、しゅんっと項垂れた。
「うん、聞いたよ。マリアはね、バルトには自分ではなく、かわいい子の方が似合うって言っていたわ。マリアは自分のことを容姿も性格もかわいげのない女だって思っているの。だから、素敵なバルトにマリアはふさわしくないって言っていたの。」
バルトはがばっと顔をあげて言った。
「マリアさんは見た目も性格もすごくかわいいですよ!なんでそんなことを言うのでしょう?」
「うん、私だってマリアはとてもかわいいと思うの。でもマリアはね、マリアにかわいいって言うのは私かバルトくらいだって言うのよ。おかしいでしょう?で、掘り下げて聞いてみたら、原因が分かったの。その原因は明日ぶっ潰しておくから任せて頂戴ね。」
フェリシアが黒い笑みを浮かべた。
バルトは背筋に寒いものを感じ、心の中でこのことは後回しにしようと決意した。
「分かりました。それではマリアさんは俺の申し入れを断るつもりでしょうか?」
「んー、このままだとそうかもね。でも詳しくは言えないけど、マリアは自分の気持ちとよく向き合ってから返事をすることを約束してくれたのね。けどね、その上で断ってきたら、また頑張ればいいのよ、バルト。マリアにバルト以外の男性で特に思いを寄せている人がいるわけじゃないってことは教えておいてあげる。だから、断られてもめげずに地道にアプローチをしていけば、いつかは振り向いてくれるかもよ。
私からはマリアにバルトを押すようなことはしないよ。ちゃんとマリアに考えて欲しいからね。私に言われたから付き合います、って、嫌でしょう、バルトも。」
「いいえ。マリアさんと付き合えるならそれでもいいです。」
「情けないことを言わないの!どれだけ余裕がないの。」
「もたもたしてるとマリアさんを他の男にとられかねません。俺は二歳年下なんです。今になって一人の男として見てもらいたいと言っていたヴィルの気持ちが分かるんですよ。いいですか、フェリシア様。マリアさんの弟と俺は同じ年なんですよ。もう、最初は弟扱い。やっと少しだけ同等に見てくれるようになってきて、マリアさんと呼ばせてくれるようになったんです。余裕なんてあるわけないじゃないですか。」
「うん、ごめん。なんか人ごとに思えなくなってきた。うん、ごめん。年上でごめん。仕方ないんだよ.二つ下の男の子はかわいく見えちゃうんだよ。まして懐かれたら弟的存在に思えるんだよ。」
「ヴィルが男としてもらいたいって言っていたのが嫌って程分かりました。これは高いハードルですよ。」
フェリシアは苦笑いを浮かべて言った。
「うーん、そうだよね。でも私は今はノアのこと一人の男の子って、ちゃんと見てるよ。弟って思ってないよ。時間はかかるかも、だけど、諦めなければ何とかなるよ。でだ、ここからが提案なんだけど、もしマリアへの気持ちが本物なら今度のパーティで頑張ってみる気はない?」
「俺の気持ちは変わりません。パーティで頑張るくらいで彼女が手に入るならいくらでも頑張ります。何でもやります。」
フェリシアはにたぁっと笑って、クララに顔を向けた。
「言質取ったぁ!はいっ、クララ、あとはよろしく!!」
「はいっ!よろしくされました!バルト様、打ち合わせいたしましょう。」
「は、はい。よろしくお願いします。」
クララは満面の笑みを浮かべ、いまだフェリシア達のペースについていけないバルトを連れて行った。
フェリシアがその様子を見送っていると、体がふわっと浮き、気が付いたらヴィルノアにお膝抱っこされていた。
「やっぱり、またこれなの!?」
「うん、これ。」
ヴィルノアはにっこり答えた。
フェリシアはヴィルノアの頭を撫でながら言った。
「甘えん坊だね、ノア君。」
ヴィルノアは一瞬キョトンとした後、楽しそうに笑った。
「ノア君、って、新鮮な響きだね。」
「ふふ、さっきマリアがバルトのこと『バルト君』って言っていたの。」
「へぇ、結構、親密なんだね、あの二人。」
「うん。私もそう思う。『マリアさん』だしね。」
フェリシアはヴィルノアに寄りかかった。ヴィルノアはフェリシアに回した腕に力を込めて言った。
「甘えん坊だね、シアさん。」
「ふふ、ノア君の体温が心地いいよ。」
「外にいたんでしょう。冷たいよ。」
ヴィルノアはフェリシアの頬に手を当てて言った。
フェリシアは擦りっと頬をヴィルノアの手に摺り寄せた。
「ノア君は、手も温かいねぇ。」
「甘えるシアさんもいいね。」
くっしゃっと顔を緩めヴィルノアはフェリシアを見た。
「今日は嬉しいことばかりだ。シアがご褒美をくれたし、甘えてくれた。いいね。」
「・・・ちゃんと今日はご褒美あげられたかな?」
「ん、大丈夫。口だったよ。」
「・・・ごめんね。定期考査の時にできていなかったって最近知ったの。」
「うん。いいんだよ、あれは、あれで。シアからしてくれたって言うのが大事なポイントなんだから。」
「・・・あの小冊子の挿絵見るまでは、ちゃんとできたって思っていたんだ。」
「ん、ここだった。」
ヴィルノアは人差し指で口の端のちょっとだけ先を指した。
フェリシアはヴィルノアの肩口に顔を押し当てた。
「・・・ごめん。余裕なさ過ぎ。私の方がお姉さんなのに・・・。」
「僕はそんなシアさんも大好きだよ。」
ヴィルノアはフェリシアを優しく抱きしめた。
「うん、知ってる。・・・ノア君、ありがとう。」
フェリシアはヴィルノアの胸元をぎゅっと掴んで、小さな声で言った。




