156. 姿絵コンテスト⑲ かわいいは正義?
「私のかわいいマリアにかわいくないなんて言う愚か者は誰?」
フェリシアが恐ろしく冷ややかな笑顔でマリアに迫ると、マリアは体を引き、プルっと体を震わせた。
「お、弟たちよ!」
「ふーん、ねぇクララ、どう思う?」
クララも冷たく笑って言った。
「おしおき・・・再教育が必要かと。」
「そうよね。しつけは大事よね。適材・・・エリザベスに頼んでみるわ。」
「適任ですね。マリア様、弟君お二人とお会いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
マリアはフェリシアとクララの会話の速さについていけずオロオロとしていた。
「え、ええ、大丈夫。」
「それではなるべく早くお会いしたいのですが・・・。」
「ええ、弟たちには予定を合わせさせるから、いつでもいいわ。」
「フェリシア様、明日の放課後はいかがです?」
「ええ、大丈夫よ。明日の放課後はエリザベスとアゼリア様と会う約束があるから、アゼリア様にもご一緒していただくわ。クララは忙しいよね?明日は私たちに任せて。きっちり締めて・・・教育しておくわ。」
「ふふ、きっちりきつめにお願いしますね。期待しています。」
クララとフェリシアはふふふと黒く冷たい笑顔で微笑みあった。
マリアはそんな二人の姿に背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「マリア、明日の放課後、庭園の東屋に弟君達を呼んでおいてくれる?私が話をしたいと言っている、と。よろしくね。」
フェリシアは冷ややかな目で笑って言った。
「権力は好きじゃないけど、公爵令嬢の私からのお誘いを断るなんてできないわよね、と。」
「え、ええ。呼ぶのは構わないけど、何をするつもりなの?」
「ふふ、聞いた通りよ。お話ししたいだけよ。女性に対する紳士の態度について、といったところかしら。」
「そう・・・。」
マリアはこれ以上は聞くまいと、首を振った。
フェリシアはふぅっと息を小さく吐き出すと、真剣な顔でマリアに話しかけた。
「マリア。マリアはバルトからの申し出を断るの?バルトが他の女の子のものになってしまってもいいの?」
マリアはぎゅっと胸の前で手を握りしめて言った。
「断る・・・って思うと胸が苦しいの。他のかわいい女の子がバルト君に似合うって思うのだけど・・・他の女の子と並んで楽しそうにしているバルト君を想像すると・・・やっぱり苦しくなって、泣きたくなるの。何でこうなるのか・・・バルト君には幸せになって欲しいのに・・・やっぱり私は駄目な子なのね。」
「ねぇ、それって、バルトのことをかなり意識しているように思うのだけど、違うかな?」
「・・・そう、なの、か、な・・・。」
「うん。そう聞こえた。」
「でも、私みたいなかわいくない女が隣にいるんじゃぁ、バルト君がかわいそうだよね・・・。」
マリアは、ははっと力なく笑った。
「ねぇ、マリア、よく聞いて。私は前にも言ったとおりマリアはかわいいと思うの。自信がなくなるぐらいかわいくないって言われてきたんだね。許さないんだから。私のかわいいマリアに・・・まぁ、それは今いいわ。じゃぁ、誰から見てもかわいければ、マリアは自信を持てるのよね?」
「えっ、フェリシア、私なのよ。無理があるわ。誰から見てもかわいいなんて、無理よ。」
「ふふっ、元がいいのだから無理なわけないじゃない。そのままでも充分かわいいけど、マリアが納得してくれないなら、ちょっと手を加えさせてもらってもいいかな?」
「ふふ、ありがとう、フェリシア。こんな私をかわいいって言ってくれて。それだけで充分よ。」
「もう、信じてないな。クララ、いけるわよね?」
クララは目をきらーんと輝かせて言った。
「勿論です。ふふ、ねぇ、フェリシア様。パーティの日に決行しません?ほら、例の件、ちょうどいいですよね?」
「あ、いいね。で、マリアのこと、誰に頼もうか?」
「実はいい人物を知っているんですよ。メイク技術の高い人。」
「さすが、クララ。で、誰?」
「ふふ、当日までのお楽しみで。絶対断ることはないですから。
「ええっと、それって・・・。」
「ふふ、私のかわいいワンコ君ですから。」
「・・・断ることはないね。」
「ふふ、そうですよ。断らせません。」
二人はふふふと黒い笑みを浮かべた。
マリアは二人の会話についていけずにオロオロとし、二人の顔を交互に見た。
フェリシアはひとしきり黒い笑みを浮かべ終えると、マリアの手を両手で握って言った。
「ねぇ、マリア、聞いて。バルトはあなたと出会ってから、毎日毎日あなたの素敵な所を、ノアに話しているの。もう耳にタコができるくらいだそうよ。だって、ノアが妙にマリア様について詳しいもの。それくらいバルトはマリア様に夢中で、本気なの。だからバルトの見初めたマリアを、もっとマリア自身が認めてあげて欲しいの。今度のパーティでかわいく変身できたら、バルトとのこと前向きに考えて欲しい。ううん、マリア自身の気持ちに素直に向き合って欲しいの。その上で、やっぱり断られるならバルトも本望だと思う。」
マリアは頬を赤く染めた。
「そんなに・・・バルト君が・・・。」
「そうよ彼は本気なの。」
マリアは顔を引き締めて言った。
「・・・私、ちゃんと自分と向き合ってみるわ。フェリシア、ありがとう。」
「ふふ、頑張って。」
「クララもありがとう。」
「ありがとうはまだ早いですよ。今日の私は居ただけです。パーティの日に改めて言って頂けるように頑張りますね。」
クララは手をぐっと握り、こぶしを作ってにかっと笑った。
「ふふ、パーティの日は今以上にすっごくかわいくしちゃうんだから、覚悟していてね。」
フェリシアもぐっとこぶしを作り、にかっと笑った。
「ふふ、二人のことを信じるわ。少しだけ楽しみになってきたわ。」
マリアはふんわりと微笑んだ。
「ほら、やっぱりマリアはかわいい。」
「本当にかわいいですね。」
フェリシアとクララは眩しいものを見るかのように目を細めて、マリアを見た。




