154. 姿絵コンテスト⑰ よくできました
フェリシアとヴィルノアのいちゃ付き合いを見ていたサリナはうっとりとした表情で言った。
「ふふ、本当に仲睦まじいのですね。私も早くそういうことができる方を見つけたいです。」
フェリシアは首を傾げて聞いた。
「ねぇ、サリナ。この実行委員会はフリーの方多いかと思うの。彼らの中に、気になる方はいなかったの?」
「皆さん、親切ないい方たちです。でも、私、今まで兄以外の男性の方とお話しした経験がなくて、何をお話ししていいのか分からなくて・・・あまり先輩方とお話ししていないんです。ずっと、リリアと一緒にいたからというのもあります。彼女、社交的なんです。リリアがお話ししているのを横で聞いていました。だから、特に親しくなった方はいないんです。折角フェリシア様にお誘いいただいたのに・・・申し訳ありません。」
「謝ることなんてないよ。そうね、話題が咄嗟に思いつかないってあるよね。でもリリアとはずっとおしゃべりしているよね。」
「はい。前にもお茶会の時にお話ししましたが、リリアも私も本を読むのが好きなんです。特に最近はあの小冊子の感想を話しているんです。それにリリアと私のピアノの先生が同じ方なのでピアノの話もします。でも、男性と話すのには・・・そんな話題ではダメですよね?」
「サリナ嬢はピアノを弾けるのですか?」
イーサンは緊張した声で会話に参加し始めた。
「はい。あまり上手くはないのですが好きです。」
「何を弾くのですか?」」
「最近は隣国の作曲家が作られた小夜曲を弾いています。」
「もしかして『夜の庭園に咲く花は』ですか?」
「そうです。とても素敵なので気に入っています。イーサン様はお詳しいのですね。」
「僕も今、この曲を練習しているのです。ピアノではなくバイオリンなのですが。この曲の優しい旋律が好きなんです。」
イーサンはすっかり緊張がほぐれたのか、小夜曲のフレーズを口ずさんだ。
サリナは両手を合わせて嬉しそうに微笑んだ。
「私もそのフレーズが一番好きなんです。」
「僕もこの旋律が一番好きなんです。このフレーズは、サリナ嬢の穏やかな雰囲気にぴったりですね。」
「あ、ありがとうございます。そ、そのう、イーサン様のお声も澄んでいて素敵です。」
「サリナ嬢に褒めて頂いて嬉しいです。同じ作曲家の作った他の曲もご存じですか?」
イーサンとサリナは二人とも微笑みながら音楽の話を続けていた。
フェリシアは音楽の話をし続ける二人を、楽しげに横目で見ていた。
「シア、楽しそうだね?」
「うん。楽しいよ。」
フェリシアは満面の笑みを浮かべてヴィルノアを見た。
ヴィルノアはフェリシアの頬を優しく撫でた。
「はは、本当に楽しそうだ。企みは成功した?」
「ふふ、そうね。企みって言うと私、悪女みたいね。」
「シアみたいな悪女なら大歓迎だよ。」
「まぁ、ノアが悪女好きなんて知らなかったわ。」
フェリシアがおどけて言うと、ヴィルノアは目を細めて言った。
「シア限定だよ。かわいい、シア。大好き。」
「うん、知ってる。さぁ、お仕事頑張ろう!」
フェリシアは楽しそうにぺたぺたと訂正シールを貼って言った。
フェリシアが最後の一冊にシールを貼り終え、ヴィルノアがその一冊を袋に入れ終えた。
「終わったぁ。お疲れさまでしたぁ。」
フェリシアが楽しげにそう言うと、ふわっとフェリシアの体が浮き、気が付いたらヴィルノアのお膝抱っこされていた。
「うわぁ、終わった途端、これ?」
「うん。終わったからいいよね?」
「もう!恥ずかしいんだってばぁ。」
「でもご褒美くれるんでしょう?頂戴。僕、頑張ったよ。」
「・・・今?イーサン様とサリナもいるんだよ。」
フェリシアは横目で二人を見ると、二人も作業を終え、片づけをし始めていた。
「うん。いるね。だめ?僕、頑張ったよ。我慢もしたし。」
「・・・恥ずかしいんだってば。」
「だめ?」
ヴィルノアは眉を下げ首を傾げた。
フェリシアは目を瞑り、ふぅっと小さく息を吐くと、ゆっくり目を開けた。
「目を閉じて、ノア。」
ヴィルノアは言われた通りにフェリシアの顔を向けたまま目を閉じた。フェリシアは首に腕を回し、ヴィルノアの唇に自身の唇を重ねた。フェリシアにとって永遠とも思える数秒が過ぎ、ゆっくりと唇を離し、フェリシアはヴィルノアの耳元で囁いた。
「好きよ、ノア。」
顔をヴィルノアから離したフェリシアは頬も耳も首さえも真っ赤に染め上げ、両手で自身の顔を覆った。
ヴィルノアはカチンコチンに体を固めたまま、頬を真っ赤に染めていた。
「イーサン様、殿下がフェリシア様に翻弄されています。殿下があんなに照れていらっしゃるところ、初めて見ました。」
サリナは口元を両手で押さえ、頬を赤らめていた。
イーサンも口元を手で覆い、ほんのり頬を赤らめ言った。
「本当だ。僕も初めて見たよ。でも、分かるなぁ。フェリシア様にあんな風にされたら、誰だってああなるよね。」
「確かにそうですね。私もいつかあんな風に・・・。」
「あんな風に?」
「あっ、ええっと、あの・・・はしたないですか?」
「いいえ。そんなことはないよ。サリナ嬢も積極的なんだなぁと、意外な一面だな、と思ったんだ。」
「ええっと、お相手もいませんし、口付けもまだ、その、したことありませんけど・・・フェリシア様みたいなの憧れます。いつかは、私も、と・・・。」
「僕もまだ、その、口付けは未経験です。ですが・・・フェリシア様のようなかわいい婚約者がご褒美をあんな風にくれたら・・・いいですよね。」
「イーサン様は恋人や婚約者はいらっしゃらないのですか?」
「はは、いないよ。僕は、その、女性受けする容姿でも女性を楽しませる話術もないよ。気の利いたこと一つ言えないような男だよ。それに、女性を前にすると、何を話していいのか分からなくなってしまうから口をつぐむことを選んでしまうんだ。そんな男に、女性は見向きもしないよ。」
イーサンが苦笑いを浮かべると、サリナはぎゅっと胸元で両手を握って必死な形相で言った。
「イーサン様は素敵な方です!私みたいな話下手にも焦らすことなく、じっと言葉が出るまで待ってくださって、優しいです!お話ししていてとても楽しかったです!」
イーサンはぽかんとした後、顔を真っ赤に染めて口元を押さえた。
「あ、ありがとう。僕もサリナ嬢と話していて楽しかったんだ。それに笑顔が、その、とても、か、かわいくて、ずっと見ていたいと思ったんだ。」
サリナは目を大きく開いた後、頬を赤らめて言った。
「ありがとうございます。」
「また、こうして話してもらえるかな?もっと君と話がしたいんだ。」
「私もお話ししたいです。」
イーサンが嬉しそうに笑うと、サリナも嬉しそうに笑った。




