153. 姿絵コンテスト⑯ お膳立て
イーサンとの話がまとまったところで、フェリシアは満足気ににっこりと笑った。
「ええ。任せて下さい。ええっと、クララぁ!ちょっといい?」
クララは呼ばれるとすぐにフェリシアの元にやってきた。
「どうしました?」
「ねぇ、クララ。3~4人ぐらいでできる仕事ない?できれば雑談しながら進められるのがいいんだけど。」
フェリシアがそう言うと、クララはにたぁと黒い笑みを浮かべた。
「ふふ、フェリシア様。何を企んでますの?」
フェリシアもにやっと黒い笑みを浮かべた。
「分かる?さすがクララ。で、仕事あるかな?」
「ありますよ。ちょうどいいのが。ふふ、上手くいったら教えてくださいね。今、持ってきます。]
クララは 颯爽と歩いて行った。
エリックとイーサンは二人のやり取りを見て、呆気に取られていた。
エリックはやれやれと肩を少し上に挙げた。
「お前もクララ嬢も笑顔が黒いな。ヴィルに愛想つかされるぞ、あんな笑顔じゃ。」
「ふふ、それはないよ。」
フェリシアがエリックに言い返していると、フェリシアの体がふわっと浮き、気が付いたらヴィルノアにお膝抱っこされていた。
「うわぁぁ、また、これ?ノア、降ろして。恥ずかしい。」
「だめ。会いたかったよ、シア。こんにちは、兄上、ええっと、イーサン殿。」
ヴィルノアはフェリシアの頬を撫でながら挨拶をした。
エリックはやれやれと小さく息を吐き出し、立ち上がった。
「フェリシア、ヴィルが来たから俺行くわ。ヴィル、ほどほどにな。」
「あ、ありがとう、エリック。オスカーによろしくね。」
「おう。」
エリックは片手を上げ、教室を出て行った。
「ねぇ、今日はどうしてイーサン殿と一緒にいるの?」
ヴィルノアは首を傾げた、
「今日はね、一緒に作業をするんだよ。ええっと、あと一人・・・サリナぁ、こっち手伝って。」
教室に入ってきたサリナにフェリシアは手を振った。
フェリシアに呼ばれたことに気付いたサリナは、ぱぁっと笑顔を浮かべて速足でフェリシアの元にやってきた。彼女の横にはリリアもいた。
「「こんにちは、フェリシア様。」」
「サリナ、今日はここの作業を手伝ってほしいの。リリアはソニアとエミリアを手伝ってあげて。ソニアぁ、リリアもあなたのお仕事に入れてあげて。」
フェリシアがソニアに声を掛けると、ソニアははーいと言って、リリアを手招きした。
「失礼しますわ。」
リリアは足早に去っていった。
それと入れ替わりにクララがベンジャミンを引き連れて戻ってきた。ちらっとサリナに目をやった後、フェリシアに向かって小さく、うんと頷いた。
クララは机の上にシールの束と袋を置くと、その横にベンジャミンが図録の束を置いた。
「できたんだね。これはその場で販売することにしたんだね。」
フェリシアは図録を手に取り、ぱらぱらと捲った。
「うわぁ、いい出来だね。」
クララも嬉しそうに笑った。
「そうなんですよ。今回、図録づくりは初めてなんで、お試し販売をしてみようかと思っているんです。売れ行きが良いなら、姿絵の注文を取る時に図録の注文も取ろうかと思っています。商機は逃しませんよぉ。」
「堅実だね。さすがクララ。」
「ふふ、お褒め戴き光栄です。」
二人は顔を見合わせ、ふふふと黒い笑みを浮かべた。
ベンジャミンはイーサンの側にサリナがいるのを見てサムズアップして言った。
「頑張って。」
「ああ、頑張るよ。」
イーサンは緊張した面持ちでサムズアップを返した。
クララは横目でその様子を見ていたが、それについては何も触れず、一通り作業を説明してベンジャミンと去っていった。
「サリナ、イーサン様の横に座ってくれる。今日の仕事は二人一組でやると効率が良さそうよね。イーサン様とペアでやってくれるかな?」
サリナはこくんと頷いてイーサンの横に座った。
そしてサリナはふんわり笑って言った。
「よろしくお願いします、イーサン様。」
「こちらこそ、サリナ嬢。」
イーサンも引き攣った笑顔で応えた。
クララが置いていった仕事は、図録の訂正箇所に正しく書かれたシールを貼り、一部ずつ袋詰めしていくという単純作業だった。
二人のやり取りを見終えたフェリシアはヴィルノアの顔を見て言った。
「ノア、聞いたよね。今日の作業はお膝抱っこじゃ効率が悪いと思うの。隣の席に座らせて。」
「・・・やだ。」
「だめよ、この我が儘は聞けないよ。ノアと一緒にお仕事したいの。うーん、そうね、ちゃんと終わったら、ご褒美あげるって言ったら降ろしてくれる?」
フェリシアがこてんと首を傾げると、ヴィルノアはフェリシアの頬に手を当てた。
「ご褒美?どこに?」
フェリシアは頬を赤らめ、人差し指でヴィルノアの唇をつついた。
「特別よ。」
「分かった。隣に座って、シア。」
ヴィルノアはフェリシアを抱えたまま立ち上がると、隣の椅子にフェリシアを優しく降ろした。
「あ、ああ、ありがとう。あれっ、ありがとうって言うのも何か変・・・。」
「やっぱり、お膝抱っこする?」
「ううん、このままで。」
「うーん、ご褒美も欲しいけど、お膝抱っこもしたいんだよね。まぁ、今日は我慢して一人で座るよ。」
「うん、そうしてね。ん、これも何か違うような・・・。」
元の椅子にヴィルノアは座ると、さっさと図録やシールを作業しやすいように分けた。
「シアはシールを貼ってくれる?僕は袋に入れてくよ。」
「あっ、うん。」
フェリシアはイーサンとサリナがじっとフェリシア達を見ていることに気付いた。
「どうしたの、サリナ、イーサン様?」
「こんなに近くでお二人のやり取りを見てしまって・・・見ているのはいけないと思ったんですけど・・・そのぅ、フェリシア様の色気にあてられてしまって・・・でも、目を離すのがもったいなく感じまして・・・。大人です、フェリシア様。」
サリナは赤くなった頬を両手で覆った。
「確かに見ていてはいけないと思いつつ見てしまいました。いいですね、ヴィルノア殿下。そんなご褒美、やる気が違いますよね。羨ましい限りです。」
イーサンもほんのり頬を赤らめた。
フェリシアはみるみる間に顔を赤らめた。
ヴィルノアはにっこり王子らしい笑顔を浮かべて言った。
「あげません。」
サリナもイーサンも焦って両手をプルプルと振って言った。
「いえいえ、フェリシア様は殿下のものです。」
「そうです。そうですとも。」
ヴィルノアは満足気に頷き、フェリシアを横から抱き締めた。
「うん。僕のシアです。ご褒美の為にちゃっちゃと作業してしまいましょう。」
「ああ、また!ノア、これじゃぁ仕事できない。放して。」
フェリシアはバタバタと両腕を動かした。




