152. 姿絵コンテスト⑮ イーサン
姿絵コンテストの結果発表のパーティチケットは、ほとんどの生徒が買い求めた。今回は入場のチケットをブローチが兼ねていて、ブローチにつけられた取り外しのできるパーツにつけられた宝石の色を自分の瞳と同じ色が購入時に選べるようになっていた。
冬花祭でもコサージュと髪飾りが場を盛り上げることに一役買っていたことを覚えていた学園の生徒たちは、今回も入場券代わりのブローチで何かできるのであろうと話題になっていた。
あと数日で姿絵コンテストパーティが行われるというある日、実行委員会に参加している男子生徒の一人がフェリシアに声を掛けてきた。
「フェリシア様、少しお時間を頂けますか?」
まだ、授業が終わったばかりでヴィルノア達が来る前であった。
「はい、大丈夫です。何でしょう?」
フェリシアが顔を上げこたえると、男子生徒はほっとした顔をしてフェリシアの向かいの席に腰かけた。そして彼は緊張した面持ちで言った。
「サリナ嬢をこの実行委員会に誘われたのはフェリシア様とお聞きしました。」
フェリシアは頭の中で目の前に座る男子生徒のプロフィールを思い出していた。
彼の名はイーサン・ドルトン。伯爵家の嫡男。両親は健在。妹が一人。家族関係は良好。安定した領地経営のほか、中級所得者向けのレストランを王都で経営しており、そこでは領地直送の新鮮食材やワインが好評である。
フェリシアから見たイーサンは大人しい印象の男性だった。
「ええ、そうです。サリナが何か?」
フェリシアが首を傾げると、イーサンは膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめ、真剣な顔で言った。
「サ、サリナ嬢に婚約を前提とした交際を申し込みたいのです。ご協力頂けませんか?」
ぐっと唇を固く引き締め、イーサンはフェリシアを見た。
フェリシアはイーサンのあまりに緊張した面持ちに、少し驚いた顔をした後、真剣な顔つきで言った。
「少し伺ってもいいですか、イーサン様?」
イーサンは隠し切れない緊張感と共に答えた。
「は、はい。」
「サリナのどこを気に入ったのでしょうか?もちろん私は彼女の友人なので、彼女がいい子だって知っています。ですが、イーサン様がサリナのどんなところを好いてくださったのか知りたいのです。お話しいただけますか?」
「はい。実は今思うと、一目惚れだったのだと思います。サリナ嬢が実行委員会に初めて参加した時に、緊張しながらもはにかんだ笑顔で自己紹介をする姿はかわいらしく、終わった後にほっとしたように友人のリリア嬢に向けた笑顔に目を奪われました。そのあと何度か一緒に実行委員会の仕事をしたのですが、いつも明るく笑顔で仕事をしていました。話に加わるも、控えめで、聞き上手といった印象でした。益々彼女に引き付けられました。
ですが、そのう、お恥ずかしながら初めて女性に好意を抱いたので、何を話せばいいのか分からないのです。僕自身が口下手で、初めて惹かれた女性になんと話しかけたら気を引けるのか分からないのです。どうしたらよいのか分からず、
何もできないまま、気が付けばもうすぐイベントが終わってしまうのです。彼女との接点がなくなってしまうと、焦っていたところ、フェリシア様に相談してみてはどうか、と、ベンジャミン殿からアドバイスを頂きました。」
イーサンは必死に自分の状況を話した。
フェリシアは静かに耳を傾けていた。
「フェリシア、今日は帰って仕事するよ。お先。」
エリックが通りすがりにフェリシアに声を掛けた。
フェリシアはとっさにエリックの袖を掴んだ。
「ねぇ、10分でいいからここに座っていてくれない?」
「ん、何でだ?」
「今、ノアが来ると面倒だから。」
エリックはちらっとイーサンを見ると、ふぅっと小さく息を吐いた。
「確かにな。ヴィルが来るとうるさそうだ。イーサン殿、いいか?」
イーサンは背筋を伸ばして、焦ったように答えた。
「は、はい。どうぞ。」
フェリシアは眉を下げて言った。
「ごめんなさい。イーサン様。イーサン様と二人で話しているのをノアが見ると、多分彼、面倒な人になるから、悪いんだけどエリックを置かせてくださいね。エリック、ここで聞いたことは他言無用よ。」
「ああ。」
「ありがとう、エリック。イーサン様、お話はよく分かりました。考えたのですが、私から彼女にイーサン様との交際を前提とした紹介はしません。というのも、私が紹介すると、彼女は断らないでしょう。私が言うと彼女からは断り辛いのですよ。例え望まないことだとしてもです。今の段階で、彼女がイーサン様をどう思っているのか分かりませんし、もしかしたら他の方に気持ちを寄せているかもしれません。最近、ノアがべったりとくっついているので、彼女と話ができていないのです。ですから、イーサン様が彼女の好みかもしれませんし、違うかもしれません。紹介して喜ぶかもしれませんし、逆に迷惑に思うかもしれません。すみません、言葉を選べなくて。
でも、イーサン様は実直な方とお見受けしました。サリナにとっても悪い話ではないとも思いますので、関わり合いを持てるようにしてあげたいと思います。つまり、お互いを知るための時間を提供したいと思います。」
「お互いを知るための時間ですか?」
イーサンは首を傾げた。フェリシアは頷いて言った。
「ええ、一緒に実行委員会で働けるようにします。ですから、そこで頑張って話をして、イーサン様の人となりを知ってもらってください。あと数日しかないんです。恥ずかしがっていては、他の方に取られてしまっても文句は言えませんよ。ここは頑張り時です。」
「ああ、サリナ嬢は明るくて笑顔のかわいい働き者、と、評判がいいらしいな。」
エリックがサラっと会話に入ってきた。
「クララもサリナ達を狙っている婚活男子が多くいると言っていました。迷っている時間はありませんよ。」
「本気ならここで覚悟を決めるべきだな。」
フェリシアとエリックはうんうんと頷き合った。
イーサンは膝の上に置いた手をぎゅうと強く握ると、固い表情で言った。
「頑張ります。フェリシア様、よろしくお願いします。」




