151. 姿絵コンテスト⑭ 主導権
フェリシアは体をマリアの方に向け、背筋を伸ばし、息を小さく吐いた。
フェリシアが真剣な顔でマリアを見ると、マリアはぐっと口元を引き締め背筋を伸ばした。
「あのね、マリア。元婚約者との縁を切ったのは正解だと思うの。ご両親も立派だわ。女を自分を引き立てるアクセサリーか子供を産む道具くらいにしか思っていない男なんて切り捨てて正解よ。だってマリアはこんなにも仕事もできて有能で、それだけじゃなく細かい気遣いまでできるのよ。こんなに素敵な方なのに、それを認めることなく、自分の女とはこうあるべきっていう偏った価値観を押し付けてくるような男にマリアはもったいないわ。そんな奴にマリアをいいようにされるくらいなら、私が嫁にもらうわ!」
マリアはキョトンとした顔をした後、ふふっと声を出して笑った。
「まぁ、私を奥さんにしてくれるの、フェリシア?」
フェリシアは胸を張りどや顔で言った。
「そうよ!かわいいマリアを奥さんにするの。そうしたらマリアといっぱい話して、マリアのしたいことをサポートするの。文官になりたいのなら、命一杯応援するわ。優秀なマリアは採用試験もすって通っちゃうから、私はみんなにうちの奥さん、すごいでしょうって自慢するのよ。いいでしょう?」
「ふふっ、いいと思うわ。私の旦那様は男前ね。」
「でしょう。」
二人は顔を見合わせて、声をあげて笑った。
「楽しそうだね、シア。」
フェリシアの体がふわっと浮いたかと思うと、いつものようにヴィルノアにお膝抱っこされていた。
「うわぁ、降ろして、ノア。」
「いやだよ。」
ヴィルノアはぎゅっとフェリシアを抱き締め、フェリシアの肩に顔を押し当てた。
フェリシアは困惑顔で聞いた。
「今日、休みじゃなかったの?」
「シアに会いたくて仕事帰りに寄ったんだ。」
フェリシアはヴィルノアの頭を優しく撫でた。
「そっかぁ、ありがとう。お疲れさま。」
「うん。でもね、シア。僕以外にお嫁さんもらったらだめだよ。」
「ふふ、聞いていたんの?マリアがかわいくて、お嫁さんにしたくなったんだ。」
「マリア嬢がかわいくてもダメ。僕だけのシアでいて。」
「んー、女の子にも妬くの?」
「・・・妬くよ。」
「ふふ、マリア、マリアを奥さんにするのは無理みたい。」
フェリシアが頬をほんのり赤く染め楽しそうに言うと、マリアはふふっと笑い、大げさに残念がって見せた。
「まぁ、男前でかわいいフェリシアに嫁ぎたかったのに、残念だわ。ヴィルノア殿下に負けてしまいましたわ。」
「ふふ、マリアもそんな風に冗談を言うのね。奥さんにはできないけれど大好きよ。」
「ふふ、私も大好きですよ、フェリシア。」
「シア、僕は?」
ヴィルノアはフェリシアの回した腕にぎゅっと力を込めた。
フェリシアはヴィルノアの耳元に口を近づけて囁いた。
「ノアは私の唯一よ。」
そう言うとフェリシアは赤く染めた頬を両手で覆った。
「・・・。」
ヴィルノアは思わぬ一言に言葉なく、顔を赤らめた。
フェリシアはヴィルノアの耳が赤く染まているのに気付き、ふふっと小さく笑った。
「満足したかな?」
バルトはヴィルノア達を見ながらつぶやくと、マリアの隣の席に腰かけた。
「こんにちわ、マリア嬢’。今日は集計を手伝えなくてごめんね。」
マリアはかすかに微笑んで言った。
「こんばんわ、バルト様。お仕事、お疲れ様です。集計はフェリシアが手伝ってくれたから、心配しなくても大丈夫ですよ。」
「そうですか。良かった。ところで、マリア嬢はフェリシア様に嫁ぐのですか?」
バルトが楽しそうに言うと、マリアは少しびっくりしたような顔をした後、笑いながら言った。
「ふふ、プロポーズされたけど、ヴィルノア殿下が来た途端、振られちゃったのですよ。残念です。」
「ああ、そうですよね。良かったぁ。」
「・・・良かった、かしら?」
「ええ。フェリシア様ってなんだかんだ言って人たらしじゃないですか。マリア嬢も惚れちゃったんじゃないかと、心配になりました。」
バルトは至極真剣な顔で言った。
「まぁ、バルト様もこんな冗談を言いますのね。」
マリアは顔をクシャっと緩め、ふふっと声をあげて笑った。
バルトは驚いたようにマリアの笑顔を見つめ、思わずつぶやいた。
「か、かわいい・・・。」
バルトの呟きに、マリアは笑うのを止め、キョトンとした顔をした。
「あのぅ、バルト様・・・?。」
バルトははっとした顔をした後、オロオロと狼狽えて言った。
「あ、いや、これは、その・・・。」
バルトは勢いよく立ち上がると言った。
「ヴィル、そろそろ時間だ。さぁ、王宮に戻るよ。」
ヴィルノアはフェリシアに一層ぎゅうと抱きつくと、かったるそうな口調で答えた。
「もう、バルトだけ行ってよ。僕はシアといる。」
フェリシアはやれやれとヴィルノアの背を軽くポンポンと叩いた。
「ノア、お仕事は大事よ。行かなければだめよ。頑張って。」
「ん-、ご褒美でもないと頑張れないよ。」
「もう、仕方のない子ね。はい、一旦腕外して。」
ヴィルノアがのそのそ腕を外すとフェリシアは立ち上がって、ヴィルノアの頬を両手で挟んだ。
「これは今日、お仕事を頑張った分。」
フェリシアはヴィルノアのおでこにキスをした。
ヴィルノアは目を細めてフェリシアを見た。
フェリシアは優しく微笑み返すと、両手をヴィルノアの肩に移した。
「そしてこれは、これからお仕事を頑張る分。」
ヴィルノアの頬にチュッとリップ音をさせて口付けた。
「はい、これでお仕事頑張れるかな?」
真っ赤に頬を染めたフェリシアの頬をヴィルノアは優しく撫でた。
「うん、頑張る。」
そう言ってヴィルノアは立ち上がると、フェリシアの頬にチュッとキスをした。
「シア、大好き。」
「うん、知ってる。・・・今よ!バルト、連れて行って!」
「はい、フェリシア様、ありがとうございます。」
バルトはヴィルノアの腕を掴むとヴィルノアを引きずるようにして部屋を出て行った。
「まったく、ノアったら・・・。」
フェリシアが小さく息を吐き出し椅子に座ると、ふと、じっと見つめてくるマリアの視線に気付いた。
「どうしたの、マリア?」
「いえね、フェリシアってすごいなぁって思っていたの。ずっと殿下が二人の間の主導権を持っているって思っていたんだけど、違ったのね。実はフェリシアが殿下の手綱を握っていて、思うがままに動かしてたのね。それをね、今、知ったの。」
マリアは呆けたように言った。
フェリシアはブルブルと首を横に振った。
「いやいや、思い違いだよ、マリア。いつもノアに振り回されてるんだよ。」
マリアは目をキラキラさせてフェリシアの手を両手で握った。
「素晴らしいわ、フェリシア!ぜひ、見習いたいわ!」
「ええ~。」
フェリシアはマリアのあまりの勢いに体を少し後ろに引いたのだった。




